ケッチャム作品の感想
  • このページでは、ケッチャム作品の邦訳について、個人的な主観により、感想を述べています。
  • 基本的に初読の時、読書日記に書いた感想をそのまま移動しています。
  • 感想内のグレー文字部分につきましてはネタバレの恐れがありますので、これから読まれる予定の方はご注意下さい。

オフシーズン/ジャック・ケッチャム/扶桑社ミステリー文庫
2000.10.5読了 no.37 /★★★★☆
  待ちに待ったケッチャムの処女作。発売日に探すも見つからず・・・これだから田舎は困ります。
  出版時に、あそこを削られ、ここを削られ・・・と散々改悪(笑)を加えられた末に発売された初期の版とは違い、今回邦訳されたのは、オリジナルに近い形でケッチャムが完成させていたもの。
  というのも、この作品は二重に改変されているのです。当初出版社に書き直しを条件に買い取られた本当のオリジナル原稿は、ケッチャム自身がゴミ箱に捨ててしまったそうで。その後、条件に沿って表現を少し柔らかくしたのが、今回邦訳された版で、結局それでもまだ出版にいたらず、ラストまで書き直して仕上げたのが、当初処女作として発行された版とのこと。
  この作品はそんな出版の経緯にも思わず頷いてしまう程、暴力描写のオンパレード。食人族という設定である以上、ある程度の吐き気を催す描写は覚悟していましたが、やはりケッチャムの暴力描写は、読者の想像の範疇に収めきれるものではありません。
  しかし、そんな暴力描写だけが取りざたされる彼の作品ですが、むしろ(というか、本質的には)、彼の徹底した「作者であろうとも現実は曲げられない」的な視線が、ケッチャム作品の見所ではないかと感じます。そして、目を背けたくなるような残酷な描写が続いても、決して途中で止められないこと、は言うまでもありません。
  この「オフシーズン」では、なにひとつ読者の思い通りに物語は進みません。彼は裏切り続けます。それは、まるで現実に裏切られ続ける私たちのようでもあります。(以下グレー部分はネタバレ)
  キングを読み慣れた人なら、「生き残るのはカーラとニック、そして警官の助手は死に、警官はニック、カーラと力を合わせて・・・」というのを想像したのではないでしょうか?そして「ローラとジムが真っ先に死ぬ」と?しかし、主人公かと思われたカーラは真っ先に死に、ローラは生にしがみつき、警官は惨劇が幕を閉じ、エピローグに入ろうか、というときになってニックを殺してしまうのです。マージとダンの恋の行方は?それも教えてはくれないまま、ダンはあっさり死んでしまいます。これほどまでに主客入り乱れた構成でありながらも、読者に違和感を与えない(落着かなくはさせるでしょうけど!)のは、想像力やアイデア、テーマの部分だけでなく、構成力の面でも、ケッチャムが一流であることを物語ると思います。
  読んでる最中は、思わず、ケッチャム作品にハッピーエンドはないことを忘れてしまいます。しかし、間違いなくその作品はバッドエンドなのです。
老人と犬/ジャック・ケッチャム/扶桑社ミステリー
2000.7.26読了 no.25/★★★★☆
  すっかりケッチャムファンになってしまった私。現在邦訳されているものはこれで全部読んだことになります。といっても4冊しかないんですけど。
  「隣の家の少女」「オンリーチャイルド」に比べると、直接的な暴力描写は少なく、物足りなく感じる向きもあるようですが、これまでの4冊の中では、この作品が一番私の好みです。
  キングの「ロードワーク」は、私のお気に入りの作品なのですが、それに近い感じを受けます。なんの変哲もないひとりのおっさんの身をはった抗議という点、そしてそこに主人公を導く過去の幻影。短時間で一気に読んでしまいました。近いうちにまた読み直したい一冊です。
オンリー・チャイルド/ジャック・ケッチャム/扶桑社ミステリー
2000.7.13読了 no.20 /★★★★☆
  ケッチャム3冊目。
  私が「隣の家の少女」から受けた衝撃は凄まじいものでした。この「オンリーチャイルド」は、「隣・・・」と一緒に購入してたんですが、続けて読んでたら嫌いになってたかもしれませんね、ケッチャム。
  というわけで、間を空けて読んだのが功を奏したんでしょう、この「オンリーチャイルド」までの3作トータルで、私はこの作家のファンになってしまいました。
  このオンリーチャイルドも、「隣り・・・」と同じく虐待モノ。今度は小さな男の子がその的にかかります。思わず不快でイライラする描写は、「隣り・・・」のまま(正直、お子さんがいる方には、かなり辛いんじゃないでしょうか?)。しかし、それを最後までノンストップでページを繰らせてしまう筆力も「隣・・・」のままです。特に最後1/4は、グイグイ引き込まれてしまいます。
  「隣・・・」の時も思ったのですが、ラスト近くで、ぐぐーっと持ち上げて行きながら、ラストは意外とあっさりと締めくくります。しかし、それまでのイライラやムカムカとのバランスを考えると、むしろこのくらいのほうが心臓にいいかも、というのが個人的見解です。最後にストンと、気が抜けたような落されかたをすることでホッとするというか。しかし、結局悪夢は続くことを示唆して作品は去っていくのですが。
  ケッチャムの作品には、それぞれに明快なテーマがあり、作品ひとつひとつが、それぞれのテーマに向かって、これでもかこれでもか、これでわかったか、と執拗に問い掛けてくるような感じを受けます。決して難解ではなく、単なるお遊びでもない、これは私の大好きなキングの作品にも通ずる部分があり、個人的には凄く好みのスタイルです。今後、ケッチャムの作品を読破することに決めました。
隣の家の少女/ジャック・ケッチャム/扶桑社ミステリー
2000.5.31読了 no.16/?????
  先日読んだ「ロード・キル」が面白かったので、同じケッチャムの話題作「隣の家の少女」を読むことに。ほんとはレクター3部作を続けて読むつもりでいたんですが、「ハンニバル」を買ってくるのを忘れていたので、まあ、気分転換に、と思ったのですが・・・。
  小説を読んでこんなにいやな気持ちになったのは始めてです。途中で続きが読めなくなったのも。「ジェラルドのゲーム」の手錠の描写で気持ち悪くなったりしたくらいでしょうか。バーカーの気持ち悪いスプラッタな描写に、眉をしかめながら読んだこともあります。でも、本当に読み進めなくなって途中で本を閉じるのは初めてです。
  まだ読んでない人は、どんなに残酷な描写があるのだろう、と思うかもしれません。しかし、この小説には、それほど目新しい残酷な描写は出てこないのです。
  2回ほど本を閉じた場面があります。それはどちらも性的な場面でした。一回目はメグが縛り付けられたまま裸にされるシーン。二回目は終盤、メグがレイプされているところにデイヴィットが出くわすシーン。一回目のシーンなんて、裸にするだけで、誰も彼女の身体に触れるわけでもないのに、そのおぞましさには身の毛がよだちます。二回目のシーンでは、思わず声をあげて本を投げ出してしまいました。どうにかしてこのシーンを飛ばして読む方法はないかと考えました。今でも、有難くも傍点まで打って強調された文章が、頭の中に鮮明に浮かんで、私をナーバスにさせるほどです。
  私が女性だからでしょうか。違うように思うのです。加虐趣味のエロ小説やビデオにはくさるほどあるであろう、なんてことないシーン。もっと酷いことや屈辱的なシーンのあるものだって当然ありますし、目にしたこともありますが、それから受ける印象とは全く違うのです。
  冒頭で大人になったデイヴィットは、本当の苦痛について語ります。「見ること」が本当の苦痛であると。デイヴィットがとうとうチャンドラー家に監禁されてからは、ずっと楽に読み進むことができました。デイヴィットは読者自身なのではないでしょうか。私はデイヴィットでありながら、この小説を読むことで、本当の苦痛を味わった気がします。
最後にキングによる解説があります。そこに「この本は気晴らしに読むものではない」と書かれているのを見て苦笑しました。それにしても、「ロードキル」の時も思ったのですが、ケッチャムの作品は冒頭の一章がいいですね。
  しかし、同じくケッチャムの「オンリーチャイルド」も買っていたのですが、とても読む気になれません。それどころか、他のホラー小説も・・・。
(以下追記)
  キングが「デイヴィットを自分の一部と認めるならば、この小説は評価できる」と言及したいたことについて、読んだ当初は、あまりの衝撃にその意味を実感することが出来なかったのですが、その後ケッチャムの著作を読破するに至って、大変よく理解できるようになりました。
  「隣の家の少女」が不快なのは、読者がデイヴィットに自分を見てしまうからであり、また、それを是が非でも認めたくないからであると思います。人間を形作る「恐怖」という感情を題材にしているとされる「ホラー小説」の分野において、これは至極重要なことであり、それを描き切ったケッチャムはもっと評価されてしかるべきだと思うのですが・・・。
 ロード・キル/ジャック・ケッチャム/----
2000.4.14読了 no.9/★★★★☆
  百冊斬りに参加しはじめてから、積ん読のホラー小説を片っ端から片付けてます(笑)。
  面白かったです。まず序文、というか冒頭の章で一気に引き込まれました。余談ですが、普段好きすぎて傷つけたい気持ちに駆られる事ってありませんか(笑)?猫とかハムスターとかを可愛がってると、握り潰したくなったり蹴飛ばしたくなったり(こんなこと書いたらヤバイやつと思われちゃうな・・・)好きな人の首を絞めたくなったり。私は愛情が加速するとそういう状態になったりすることがあります。この一線を超えてしまう殺人者って、もしかしているんじゃないかと思うんですが、主人公のウェインは、どうやらそういうのとも違うような気がして、計り兼ねてます。今の段階ではちょっと理解できないのがくやしいところです。
  この話の主要人物である(もしかしてこっちが主人公かな)ルール警部補にしても、キャロルにしてもリーにしても、ものすごく人間らしすぎて、小説になってるのか不安になるほどリアルです。キングでさえそうですけど、小説の主人公というのは、もう少しかっこつけたり、倫理感あったりするもので、リアリティもそのぐらいの方が、読者の共感を呼ぶんじゃないかと思うんですが(やっぱり人間、いくらリアリティを求めても、その現実派高く
みたいものでしょ)、この小説の人達はとってもリアル。思いっきり私情をはさんで最後犯罪を見逃して大団円にしてしまったり、人を殺すほど愛し合ってたのに、極限状況に陥ったら相手を疎ましく思ったり、相手の為に命を投げて自己陶酔したり。心理要素をクローズアップすることも飾り立てる事もなく、あっさりと目の前に突きつけられた気がします。
  展開はシンプルですが、設定も面白かったと思います。



<KETCHUM TOP>