『人民の星』 5937号2面 2014年11月5日付

安倍政府の医療・福祉切り捨て 年金削り「自己責任」へ

 安倍政府は、年金給付の削減に拍車をかけるとともに、公的年金制度(表参照)そのものをつきくずし、年金も「自己責任」にする改悪をたくらんでいる。年配者は年金が毎年へっていくことに怒りをつのらせている。改悪は年金収入にたよっている高齢者とともに、現役世代にほこ先をむけている。

企業年金を準公的年金扱い
 厚労省は一〇月一五日、年金給付の伸びを物価や賃金の伸びより低くおさえる仕組(マクロ経済スライド)を強化し、年金の減額をはやめる方針を社会保障審議会年金部会(厚労相の諮問機関)にしめし、大筋了承された。
 公的年金(国民年金、厚生年金、共済年金)は原則、前年の物価に連動させ、給付をふやすのが建前だった。ところが二〇〇四年度の制度改悪で、「年金財政の悪化」を打開するためと称して、物価上昇率に連動した年金の伸び率から財政悪化分をさしひいた率におさえるマクロ経済スライドを導入した。
 たとえば物価が二%上昇した場合、財政悪化分(厚労省の試算で二〇一四年度は一・一%)をさしひいて、年金増を〇・九%増にとどめている。物価がさがった場合は、財政悪化分を適用せず、年金の減額幅を物価のマイナスとおなじ水準にしている。厚労省がもちだした改悪案は、物価の上下に関係なく、財政悪化分を減額しようとするものである。物価が〇・五%さがれば、年金を一・六%減にするのである。

30年後の年金価値は2割減
 厚労省はこれによって、約三〇年後には年金の価値は二割目減りし、なかでも基礎年金は三割減になるとしている。こうした一方で、保険料はどんどん値上げしているし、年金から天引きしている介護保険料もあがりつづけている。病気で医者にいったり、介護の適用をうけた場合の「自己負担」も拡大している。また政府・自民党は、年金の支給開始年齢のくりのべをたくらんでいる。現役世代のなかには年金だけでは生活できなくなるのではという不安が高まっているが、それが現実のものとなる。
 厚労省は年金改悪によって公的福祉のきりすてに拍車をかけようとしている。
 こうした一方で、私的な企業年金やこれに準ずる国民年金基金を「準公的年金」扱いしその拡大をうながし、公的年金とセットにした老後保障の仕組にかえる方針をうちだしている。そのうえで、掛け金の上限も引きあげる方針である。
 現行の企業年金や国民年金基金は、公的年金では不安のある人たちや資金に余裕のある人たちがつみたてているものである。退職金を企業年金として給付する企業もある。
 安倍政府・厚労省の方針は、公的年金制度をきりすて、それだけでは生活できないようにし、年金も「自己責任」でつみたてさせようとしている。政府・厚労省は、今年末までに具体案をまとめ、年明けの通常国会に関連法案を提出し、はやければ二〇一六年度から施行しようとしている。

雇用・労働規制緩和と連動
 安倍政府の年金制度改悪は、雇用・労働規制緩和と連動している。日本経団連は厚労省の提案にさきだって、九月に「多様で柔軟な企業年金制度の構築にむけて」という提言で、ほぼおなじ内容の改悪を安倍政府に要求している。
 このなかで、「雇用の流動化、個人の自助努力にたいする選択肢の拡大などのニーズにしっかり対応し、幅広い現役世代が参加できる仕組みをめざして、老後所得の確保をはかる観点」から、個人型の確定拠出年金(日本版401k、注参照)の見直しをもとめている。
 雇用・労働規制緩和は、資本の都合で労働者を好き勝手に首を切れるようにしたり、非正規労働の拡大をはかろうとするものである。これに対応し、企業年金制度の再編をはかれというものである。
 新自由主義の規制改革・構造改革のなかで、年金制度の改悪とともに医療制度の改悪に拍車がかかっている。公的医療のきりすてをはかり、「自己負担」の拡大や「すべてカネ次第」のアメリカ型の自由診療の導入をすすめ、「病気になったら」という人民の不安を食いものにして、それをアフラックなどの米日の保険会社が保険市場にしようとしている。
 年金制度改悪もこれとおなじで、年金も「自己責任」で、掛金などを海外債券などで運用し、米日の金融機関の市場拡大をはかろうとしている。

米日金融機関の市場を拡大
 安倍政府は、人民の労働、生活、健康、老後などすべての分野にわたって米日独占資本の市場としてさしだそうとしている。これをゆるさないたたかいは、高齢者、現役を問わず世代をこえた斗争課題である。
注 企業年金には確定給付企業年金と確定拠出年金とがある。確定給付企業年金は、つみたてられた資産の利回りに直接もとづかず、加入者の勤務期間や賃金によって年金給付額を設定し、それにもとづいて掛け金をさだめる。確定拠出年金は、一定の掛け金をきめ、その資金を運用した損益が反映され、老後の受給額がきまる。同制度がアメリカの民間企業で採用されている。401Kは、この制度をさだめたアメリカの法律の条項名にちなんだもの。