Top Page 現代事件簿の表紙へ No.060 No.058
世田谷区で、一家4人が自宅で殺害されるという事件が起こった。犯人はこの後、10時間以上にも渡ってこの家にとどまっており、この家の冷蔵庫に入っていた物を飲み食いしたりパソコンを操作したりしている。現場には犯人の遺留品も指紋も多数残されていたにも関わらず、いまだに未解決事件となっている。 ▼遺体発見 惨殺(ざんさつ)現場となったAさん一家の家は、東京都・世田谷区 上祖師谷にあった。家族構成は、ご主人のAさん(44)とAさん夫人(41)、長男(6)、長女(8)の4人である。 Aさんは外資系の経営コンサルタント会社の社員で、Aさん夫人は自宅で学習塾を経営していた。 Aさんの家は、2棟がくっついたような住宅で、片方の家にはAさん一家が住んでおり、もうひとつの家には、Aさん夫人の母親と姉夫婦が住んでいた。 ただしこの家は外見上は2棟がくっついて見えるが内部ではつながっておらず、別々の家となっている。
しかし電話は、呼び出し音が鳴っているような感じではなく、なぜか電話がつながらない。(この時はすでに犯人によって電話線が抜かれていた。) 不審に思った母親は、実際に家まで行って呼び鈴を押してみたが、何の反応もない。合鍵を使ってAさんの家の中に入ってみると、そこは凄惨(せいさん)な殺害現場となっていた。家の中は血まみれになっており、あちこちで家族全員が倒れていた。 自分の娘である、Aさん夫人も血まみれで倒れており、すぐに警察と救急車を呼んだが、すでに全員が死亡していた。 1階の階段下で発見されたご主人のAさんは、上半身だけではなく、尻や脚も含めて身体中、包丁でメッタ刺しにされており、付近には大量の血が流れ出ていた。 Aさん夫人と長女は2階の踊り場で倒れており、Aさん夫人の顔にはタンスから抜き取ったと思われる服が顔にかぶせてあり、長女はそのすぐ横でうつ伏せになって倒れていた。2人とも顔や首など、上半身を中心に上から何度も切りつけられていた。 特にAさん夫人は一番残虐な殺され方をしており、顔を包丁でえぐったような傷も残されていた。 長男の遺体は2階の寝室で発見され、ベッドの上で頭から布団がかけられていた。首を絞められたことによる窒息死で、刃物による外傷はなかった。 ▼犯行の状況 捜査によると、犯人は12月30日の23時ごろ、家の裏にある公園のフェンスを足場にして、Aさん宅の2階の風呂場の窓から侵入したものとみられている。そのフェンスの辺りの木の枝が折れており、窓のすぐ下の地面からは犯人の足跡も発見されている。風呂場の網戸は外(はず)れて下に落ちていた。 また、23時ごろ、この家から、争うような声を近所の人が聞いており、また、隣の家の住人(Aさん夫人の母親と姉夫婦)が、23時30分ごろに「ドスン」という大きな物音を聞いている。 この、隣の家の住人が聞いた「ドスン」という音は、襲われた被害者が階段から落ちた音か、もしくは2階踊り場に設置されている屋根裏部屋(3階)へのはしごを上げた音ではないかと推測されており、この時間に犯行が行われていたものとみられている。 2階の風呂場から侵入した犯人は、最初に2階の部屋で寝ていた長男の首を手で絞めて殺害した。 その後犯人は、ヒップバッグに入れて持って来た柳刃包丁(一般的に刺身を切る時に使われる包丁)を片手に階段を降りようとしたところ、2階での物音に異変を感じ取った父親のAさんが駆けつけてきて、階段の辺りでバッタリと出会ってしまったものとみられている。 犯人はいきなり襲いかかり、Aさんに切りかかった。この時、Aさんも激しく抵抗して犯人と格闘になり、犯人もこの格闘でかなりの負傷を追い、出血することとなった。 果敢に挑んだAさんであったが、最初から刃物を持っている犯人に次々と致命傷を負わされ、ついには力尽き、メッタ刺しにされてしまった。顔や頭を中心に、下半身まで刺され、後(のち)にAさんの頭部からは、折れた包丁の先端が発見されている。 Aさんを殺害した後、犯人は3階に上がり、そこで寝ていたAさん夫人と長女に襲いかかった。先端の折れた柳刃包丁で何度も切りつけた。自宅でいきなり刃物で襲われたAさん夫人と長女の驚きと恐怖は想像に余りある。 だが幸いこの時にはまだ致命傷にはならず、何とか2人は逃げ出した。 だが犯人は2人を逃(のが)さなかった。先端の折れた柳刃包丁を使うことを諦(あきら)めた犯人は、いったんこの家の台所に向かい、Aさん宅の文化包丁を持ち出し、再び2人の元へと帰ってきた。 後(のち)に長女の血液の染みついているティッシュペーパーが発見されていることから、その間、Aさん夫人が長女の傷の手当をしていたものと思われる。 改めて新しい武器を手にして戻ってきた犯人は、この文化包丁で2人をメッタ刺しにして殺害した。2人の遺体は2階の踊り場で発見されている。鑑定では、死後にもかなりの刺し傷があり、死亡したと思われた状態からでも何度も遺体を刺していたことが判明している。 包丁で刺された3人は、それぞれ数個所から十数個所を刺されており、傷の半数は死後につけられたものである。 ▼多数残っていた遺留品 全員を殺害した後、犯人はこの家にあった救急箱を開けて自分の傷の手当てをしており、バンドエイドを貼ったりはがしたりして、このバンドエイドの缶からも犯人の指紋が検出されている。また、生理用品のナプキンで血を止めようとした痕跡も残っている。 残されていた指紋に関しては、国内の1000万人以上の指紋と照合されたが、一致したものはなかった。 この後の犯人の行動は異常で、全員を殺害した後もすぐにはこの家を立ち去らず、10時間以上に渡ってこの家に留(とど)まっている。 冷蔵庫からペットボトルに入った麦茶2リットルを取り出して飲み干し、メロンを食べ、アイスクリーム4個を食べていた。アイスクリームは、スプーンを使わず、カップを握り潰(つぶ)すようにして食べていた。アイスの容器は、風呂場に1つ、居間の座布団の上に1つ、1階のパソコンの横で2つ発見されている。 2階の風呂場は物で散乱しており、Aさんの仕事関係の書類やAさん夫人の塾の書類、止血をした生理用品、アイスのカップやタオルなどが散らかされている状態となっていた。広告やチラシなどもあり、書類や広告はハサミで切られたり、手で破られたりしており、犯人が何かの書類を探してこの風呂場で作業を行い、不要なものをゴミ箱代わりに浴槽に投げ込んだものと思われている。 犯人はこの家で大便もしており、トイレに残っていた便の成分を分析した結果、野菜のゴマあえを食べていたことが分かり、被害者宅の食事内容と違うことから、これが犯人の便であることが判明した。 また、2階の居間のソファーの上には、被害者宅から集めたクレジットカードや運転免許証、手帳、その他生年月日が記載されている書類などが分けて置かれており、これは犯人が暗証番号を、生年月日から推測しようとして行った作業の跡ではないかと考えられている。 1階にあったパソコンを操作した形跡も残されており、マウスから犯人の指紋が検出されている。インターネットにも接続しており、通信記録の解析によると、日付が変わった31日の午前1時18分ごろと10時5分ごろの、2回接続されている。接続時間はそれぞれ5分程度で、被害者の会社のサイトや、劇団四季、科学技術庁のサイトなどを見ていた。 このパソコンから劇団四季のチケットを購入しようとして失敗していた形跡も残されていた。 隣の家の母親がこの家を訪れて遺体を発見したのが11時前ごろであり、ネットの通信記録が10時5分に残っていたということは、母親が訪れる数十分前まで犯人はこの家の中にいたということになる。
犯行時に着ていたと思われるLサイズのトレーナーは、大量の返り血を浴びた状態で2階の居間で発見された。犯人は血まみれになったトレーナーを脱いで、この家にあった服に着替えて逃走したものと思われる。脱いだトレーナーはきちんとたたまれた状態で置かれてあった。 その他、黒い手袋、緑色のマフラー、帽子、凶器となった刃渡り21センチの柳刃包丁、黒いハンカチが2枚、韓国製の深緑色のヒップバッグなどが現場には残されていた。足跡の分析から犯人は、韓国製の28センチのテニスシューズを履いていたことも判明している。 Aさん夫人が経営していた学習塾の授業料・約15万円がなくなっており、財布からも金を抜き取られた形跡があった。キャッシュカードや預金通帳は、暗証番号を推測しようとした形跡はあったものの、結局そのまま残されていた。 現場に残っていた血液の中に、A型の血液が発見されており、被害者の家族の中にA型の人間はいないことから、これが犯人の血液であると思われる。また、残されていたトレーナーから、犯人の身長は175cm前後、ウエストは83cmくらいの体格と推測される。 犯人が履いていた韓国製のテニスシューズは東京都内でも販売されていたが、犯人が履いていた28cmというサイズは韓国でのみ販売されており、日本では一般に流通していない。 個人輸入という方法を取れば日本でも手に入る品ではあるが、犯人は韓国人の可能性もあると考えて警視庁は韓国に指紋の照合の協力を頼んだが、同一の指紋は発見されなかった。 この、韓国での指紋の照合に関しては報道によって伝えられた内容が違っており、ソウルに住む男性の指紋と一致したとの情報もあれば、日本からの捜査協力依頼に対し、指紋の照合そのものが韓国政府によって拒否されていたとの報道もあり、真実がどれであるかは不明である。 韓国では、国民全員に指紋の登録が義務づけられており、指紋が一致したのならば、捜査が大きく進展いたはずであるが、いまだ未解決事件となっていることから、指紋一致の情報は信憑性(しんぴょうせい)が薄い。 ▼犯行の動機 2011年現在、事件発生から10年以上経っているにも関わらず、依然犯人は逮捕されておらず、この事件は未解決事件となっている。 犯人が逮捕されていない以上、動機は推測の域を出ない。 なぜ犯人は、Aさん一家をあのような残虐な方法で皆殺しにしたのかということに関しては、様々なメディアやジャーナリストたちが動機の推測を行っている。 まず考えられるのは、残虐な犯行の手口から、恨みによる犯行ということである。 しかしAさんたちを激しく憎んでいたというような人物は、捜査線上でも浮かんでこなかった。しいて言えばAさんの家の近くにはスケートボードが出来る広場があり、夜中でも滑るスケートボーダーに対し、音がうるさいと、Aさんとスケートボーダーの間で揉(も)めたことがあるくらいである。また、公園にたむろしている暴走族とAさんがもめたという情報もあるが、これを恨みに思っての犯行とは考えにくい。 また、犯行後に家の中から現金15万円がなくなっていることや、財布からも現金を抜き取った形跡があり、金目当ての強盗殺人ということも考えられる。確かにカード類の暗証番号を推測しようとした形跡は残っているものの、結局カードには手をつけていない。4人も殺したにしては盗んだ金額は小額であり、また、狙うなら4人もいる家庭よりも一人暮らしを狙う方が自然である。 この、犯行の動機に関しては、ジャーナリストの中村透氏が取材し、鋭い説を発表している。 中村氏の推測によれば犯行目的は確かに金銭であるが、それは単なる強盗ではないという。 中村氏が闇(やみ)経済に詳しい人物に取材を行った結果、 「Aさんは勤める会社以外に自分でも何かやっており、その中において危ない筋や個人投資家からも金を借りており、それが原因でトラブルになっていたと聞いたことがある。」という証言を得ている。 つまり金銭トラブルの決着をつけるための、見せしめとして殺害された可能性があるという。 だが、Aさんには、果たして殺されるほど多額の負債があり、その負債を返せるだけの収入があったのか。 負債に関しては不明であるが、収入に関しては事件発生の少し前、Aさんは確かに高額のまとまった金を得ているという。 それは東京都から入ってくる立ち退き料である。 Aさんの家の横には祖師谷公園があり、この祖師谷公園は拡張されることが決定されていた。 この拡張工事のために、東京都はこの辺り一帯の土地の買収を行っており、住民たちは立ち退きを求められている時期で、事件発生当時にはすでに大半の家が転居していた。 この時点で残っていたのはAさんの家と、その隣の親族の家、それに向いの家が2軒の、合計4軒だけであった。Aさん一家もすでに土地の売買契約を終えており、2001年4月までには埼玉県に転居する予定になっていた。 Aさんが売買契約を終えたのが事件発生の9ヶ月前である2000年3月で、事件発生の日にはすでに東京都から土地売買の代金が振り込まれていたことになる。この立ち退き料を含め、仕事関係からの収入も加え、Aさんはこの時期、約6000万円の収入を得ていたという。 ▼推測される犯人像 前述の中村氏の説によれば、実行犯は、殺しに関してはほとんど素人に近いような男である。依頼を受けたプロの殺し屋であれば、現場にあれだけ遺留品を残したりするようなことはしないし、殺害方法もあそこまで荒々しくはしない。入念に計画を立てて証拠一つ残さずに立ち去るはずである。 また、プロであれば当然、武器は信頼出来る武器を持参するであろうが、この事件の犯人は量販店で買った包丁を持参し、しかも途中で刃先が折れたためにAさんの家にあった包丁を持ち出して使用している。しかも殺害の過程で、自分まで怪我をしている。 「証拠も残し過ぎていて、それこそ留学生とか、そんなレベル」と、ある韓国組織関係者は中村氏の取材で答えている。 中村氏の取材によれば、今や犯罪は、外部に注文する時代になってきているという。取材の過程においても、 「今や、こうした犯罪に日本人は使わない。暴対法で指示した上の人間まで逮捕されるし、懲役に行かせると3000万円くらいの金がかかる。外国人犯罪者集団に依頼すれば、相当に安い金で済むし、後腐(あとくさ)れもない。」 「依頼を受けるのは組織のトップの人間であり、実行するのは組織の下の人間。実行犯と依頼した人間の間には接点もないし、依頼した側も、実際に行うのが誰なのかすら分からない。」 という証言も同・韓国組織関係者から得ている。 中村氏の説によれば、ある人間がAさんの家の襲撃を外国人犯罪者グループに依頼した。目的はあくまでも金の回収であり、場合によっては殺害もあり得るいう依頼である。 実行犯として抜擢(ばってき)されたのは、殺しにはほとんど素人に近いような男だった。この男は犯罪者グループに何らかの負債があったり、借りがあったりして命令に逆らえないような男である。 この男が、普通に販売されている包丁を凶器として持って行ったということから、包丁はあくまでも脅しに使うものだったということが推測される。それがAさんたちが予想外に騒いだために殺害せざるをえない状況になった。 メチャクチャに刺して暴れ、自分まで怪我をしたのも、予想外の展開に対応出来なかった素人ゆえの行動の結果である。その結果があのような残忍な殺し方となってしまった。 殺害の後、犯人はAさんの家のパソコンを使って2回ほどインターネットにアクセスしているが、インターネットは短時間であり、それ以外に長時間に渡ってパソコンを操作していた形跡も残っていた。 犯人がパソコンを立ち上げた一番の理由は、このパソコンの中に金の行方を記録したデータが入っていないか、関連会社に関する資料はないか、などの金に関するデータを見つけるためであって、そのデータの消去やコピー、転送などが主な目的だったのではないかと中村氏は推測している。 ▼犯人が特定されていても逮捕不可能な状況ではないかという説 事件発生当時は、現場に残されていた多くの遺留品や指紋などから、警察側も早期解決を確信したと言われるが、その思いは見事に裏切られ、このまま迷宮入りしてしまう可能性が極めて高くなっている。 あれだけの証拠が残されていながら、日本警察が犯人を特定出来ないということは不思議な感じさえする。 なぜこれだけ派手な事件でありながら依然未解決のままなのか、前述の中村氏によれば、未解決事件には2つのパターンがあり、一つは捜査が及ばずに、犯人がどうしても判明しないケース、もう一つは何らかの事情で未解決となってしまうケースであるという。 この「何らかの事情」とは意味が分かりにくいが、中村氏によれば、元公安幹部から 「外交・政治家・宗教は三大要素と断言出来る。」という証言を得ている。犯人、あるいは犯人グループが、政府が最も手を出しにくい団体に所属しているのではないかという。 犯人もある程度特定されているとも言われているが、依然逮捕に至っていないのは、世田谷事件が、上記の三つが絡(から)む事件であるからではないかと推測されている。 「現在の犯罪は、外国人による凶悪犯罪が極端に増加しており、この場合、ICPO(国際警察機構)に協力を頼み、他官庁や政府の意向、諸外国とも交渉など、多くの手続きを要する。現実問題として、事件の捜査によって外交問題が発生する可能性がある場合、そこに政治的配慮が取られても不思議ではない。」(法務省関係者) つまり中村氏の説によれば、この世田谷事件は、犯人が特定されていながら、それが外交に影響を及ぼすことになるために逮捕出来ないという解決不可能な事件ではないかという。 もちろんこれは、一つの推論であり、事実として認められているものではないが、中村氏の説も可能性としては十分考えられる。 この事件は、発生当時から、犯人像については様々なメディアで多くの推測が飛び交った。 日本人の若者、覚醒剤中毒者による通り魔的犯行、アジア系犯罪組織、宗教団体、韓国の軍隊経験者、あるいは逆に犯罪組織や軍隊経験者という可能性は全くない、中国人グループが関係しているなど、多くの推測は多くあったものの、実際犯人が逮捕されていない以上、それらすべてはいまだに「説」の段階である。 Top Page 現代事件簿の表紙へ No.060 No.058 |