アメリカのニューヨーク州・ハイズビルというところに建つ一軒の貸し屋。1843年、その家に、ある家族が引っ越してきた。が、引っ越してきてまもなく、毎晩のように指をパチンパチンと鳴らすような音やコブシで壁を叩くような音、床を踏みならすような音が聞こえ始め、気持ち悪がって3ヶ月で引っ越していってしまった。
その後3年間空き屋になっていたが、その家にまた別の家族が引っ越してきた。しかしこの家族も全く同じような目に会い・・特に末の子供は、夜中に冷たいネバネバした手で顔をなでられるというような目にあったりして・・・、この家族も一年半でこの家を出ていってしまった。
そして1847年、今度はフォックスという男とその家族がその家に引っ越してきた。またもや同じ怪奇現象は起き、連日恐ろしい音や何かを引きずって階段を降りるような音に悩まされることとなった。そんなある日、娘が奇妙なことを行った。「幽霊さん、私の真似をしてみてよ!」と言って指を鳴らしてみると、それに合わせてラップ音が鳴ったのだ。
指を3回鳴らすとラップ音も3回鳴る。これを見ていた夫人は、怖さを抑えて霊と交信してみることにした。
「音をたてているのは人間ですか?」という問いかけにはラップは鳴らず、
「殺された人の霊なら、2つ音をたてなさい。」という問いかけをすると家が揺れるほどの大きなラップが鳴った。
この日からフォックス家の人々は霊と交信が出来るようになった。特に末の娘は、聞きたいことを心に思い浮かべるだけで、霊が返事をしてくれるようになったのだ。
ある日夫人は、「ところで幽霊さん、あなたは昼間、他の人たちがいる前でも、私たちの質問に答えて下さるんでしょうか? この際、幽霊というものの存在を他の人たちにも知らせたいのですが。」と聞いてみると、ひときわ大きなラップ音が鳴った。
こうして3月31日、実に500人の人が集まった中で、霊との本格的な会話を試みることとなった。名前や地名、言いたいことを聞く方法として、アルファベットをA、B、Cと順に読んでいき、必要な文字のところでラップを鳴らすという約束で霊との会話が始まった。
そしてそれによって判明したこととは・・
「私は5年くらい前に、この家で殺されたチャールス・ロスナという商人である。犯人は当時、この家に住んでいたジョージ・ベッグという男である。
私は寝室で殺害され、包丁で首を切断されて500ドルのお金を盗まれた。そして死体は地下室に埋められた。なんとか自分の死体を墓に葬って欲しい・・。」ということであった。
この話は瞬く間にあちこちに伝わり、大勢の人を集めてさっそく地下室を掘り起こすこととなった。すると、やはり霊の言うように、地下3mほど掘ったところで髪の毛と頭蓋骨、そして殺害した時に血を受けるのに使ったであろう容器が発見されたのだ。
だがこの時は、それがロスナの頭蓋骨かどうかまでは確たる証拠にならず、ジョージは結局無罪ということになってしまった。
その後もロスナの霊は毎晩のように家で騒ぎ、ドアが勝手に開いたり、家具が引きずられたり、毛布が上に跳ね上がったり・・などの現象が続いた。
特に深夜になると、殺人のあった瞬間の出来事が大きなラップ音で再現されるのである。
まず、二人の男が激しく争っている音が聞こえ、次に片方の男がノドをかき切られたようなゴロゴロといううめき声が聞こえ、その後は死体を引きずってあるく音、シャベルで庭の土を掘り起こすような音までが聞こえてきた。
また、この話を聞いて連日押し掛ける野次馬にも、フォックス家の人たちは困り果てていた。
そして時は流れ、1904年11月23日。事件発生から56年目のことである。フォックス一家が住んでいた家は、すでに廃墟となっていたが、ここで遊んでいた子供たちが、偶然にも地下室の横穴から、首のない白骨死体と、商人が商売で使うブリキ製の荷物入れを発見したのだ。しかもカゴには「チャールズ」という名前がしっかりと刻んであった。
犯人ジョージは、チャールズを殺した後、首を切断して、頭は地面に、胴体は壁に埋め込んでいたことが判明した。霊が言ったことは全て本当だったのだ。
この事件が「ボストンジャーナル」を始めとして、国内はもちろん海外の新聞まで取り上げられたため、アメリカはもとよりヨーロッパまで大反響を呼び、心霊科学研究が本格的に始められるきっかけとなった。