1901年7月、ポーランドの作家シェンケーヴィッチは南フランスのビアリッツで夏の休暇を楽しんでいた。高級ホテルに宿をとり、何日か滞在してゆっくりする予定であった。
ところがある夜、シェンケーヴィッチは変な夢を見てしまった。
彼がどこかの通りを歩いていると、どこからともなく霊柩車が現れ、彼のすぐ横で止まるのだ。
そして突然霊柩車の後ろから、青い目をした金髪の青年が現れた。青年は金属のボタンに青い服を着ている。そして微笑みながらシェンケーヴィッチに話かけてきたのだ。
「どうぞ、お乗りになりませんか?」
シェンケーヴィッチに霊柩車に乗るように誘ってくる。背中がゾッとなったシェンケーヴィッチは急に息苦しくなり、そこで目が覚めた。
「イヤな夢だ・・。何だったんだ・・。」
夢と分かっていても、そのことが一日中頭から離れない。その日一日は何をするでもなく過ごしたが、次の晩もまったく同じ夢を見てしまった。
シェンケーヴィッチが道を歩いているとまた霊柩車が止まって、また青い目の青年が「乗りませんか?」と誘ってくる。断ると今度はシェンケーヴィッチの手を掴んで無理やり霊柩車に乗せようとするのだ。今度はそこで目が覚めた。
続けて同じ夢をみるとさすがに気持ち悪くなってくる。だがなんと、その次の晩もその次の晩も・・4日続けて同じ夢をみたのだ。
もう、休暇どころではない。怖くなって自宅に帰ることにした。帰る途中、シェンケーヴィッチはパリを経由してそこでまたホテルに泊まった。そしてそのパリのホテルで、彼が昼ご飯を食べようとエレベーターに向かった時のことだ。
エレベーターが到着してドアがスーッと開く。エレベーターの中にはエレベーターボーイが・・だが、その顔を見た瞬間、彼はとてつもない恐怖に襲われた。
何回も夢に出てきた、霊柩車に誘う、あの青年・・! 金髪で金属製のボタンをつけた、青い服の青年がそこに立っていた。背筋がゾッとなったシェンケーヴィッチはもちろんエレベーターには乗らず、すぐに自分の部屋へと駆け込んだ。
ソファに倒れ込むようにして腰をかける。だが、次の瞬間、「ドーン!」と、ものすごい音と衝撃がホテル内に響いた。またびっくりして部屋の外へ出る。外では人々が駆け回って何か騒ぎになっている。
一人の従業員を捕まえて話を聞くと、高い階からエレベーターが落下して死傷者が出たというのだ。1階のエレベーターのまわりには多くの人が集まっている。
人ごみをかきわけて前の方へ行ってみると、じゅうたんの上にはエレベーターから出され、血まみれになった死体が何体か横たわっていた。そう、もちろん、あのエレベーターボーイの死体もそこにあった。