初めて恐竜が地球上に現れたのは諸説あり、2億年前、2億3000万年前、2億5000万年と幅があり、はっきりしていないが、絶滅した時期は6550万年とほぼ一致している。これは、それよりも新しい地層からは恐竜の化石が見つかっていないことに由来する。
恐竜といえば、巨大な生物というイメージがあるが、実際は大きさもバラバラで、小さいものではニワトリくらいの大きさのものも存在していた。だが大きいものになるとブラキオサウルスなどは体重が40トン以上あったとも言われ、全般的に当時の地球上の生物としては一番大きな種類であったと言える。
恐竜が地球上を支配していた時代は長く、その時期は2億年に近い。現在の地球上の支配者である人間は、約400万年前にその祖先が生まれたとされており、文明を持つようになってまだ1万年にも満たない。そのことを考えると、恐竜の時代はとてつもなく長く続いていたことになる。
しかしこれだけ長く種族が続いていながら恐竜たちは知能を持たなかったし、また、同時期に生存していた哺乳類も、人間のように知能を持って発達した種族もいなかった。我々人間が、西暦が始まってからわずか2000年の間にこれだけの進歩を遂げたのは、生物学上では極めて稀で異常な生物であったと言える。
長期間地球を支配していた恐竜たちは、今から6550万年前にこの地球上から絶滅した。実際には最後の一匹が死に絶えるまである程度の時間はかかっているだろうが、種族の繁栄が2億年近くもあったということを考えれば「突然」に「わずかな期間」で絶滅したと言える。
恐竜絶滅の原因はいくつかの説があり、また、恐竜自体の研究も日々進んでいて、骨格から形成される体型が訂正されたり、新種の骨が発見されたり、同種と思われていたものが実は別種であったりなど、毎年のように新たな発見があることから、現時点で有力とされている説が未来には否定される可能性もあるが、現時点で最も有力な説であり確定に近いとされているのは「巨大隕石の落下が恐竜を絶滅させた」という説である。
▼巨大隕石の落下
宇宙には、星同士の衝突や爆発によって生じた星のかけらが無数に漂(ただよ)っている。これらの正体は主に岩石と金属の混合物であるが、こうした星のかけらたちが、たまたま公転をしている星の軌道上にさしかかると、その星の引力に引かれて地上に落下してくる。
地球の場合、大気があるので小さなものであれば、落下の途中で大気との摩擦熱で蒸発し、地上までは落ちてこない。しかしたまに蒸発しきれずに塊(かたまり)が落ちてくることがある。これが隕石である。ただし、その大きさがあまりにも巨大であった場合、「隕石の落下」とは言わず、「小惑星との衝突」と表現される。
今から約6550万年前、公転を続ける地球の軌道上に、ある小惑星が漂(ただよ)ってきた。その小惑星は、近づいてきた地球の引力圏内に引き込まれた。始めはゆっくりと、だが、次第にスピードを増し、地球に向かって落下を始めた。
こういった塊(かたまり)の大半は、地上に到達する前に燃え尽きて蒸発してしまうのだが、この塊はあまりに巨大過ぎた。地表に到達した時点でもまだ直径15kmもの大きさを残していた。
その塊が地表に激突した。場所は現メキシコのユカタン半島である。衝突時のスピードは秒速20km(時速7万2000km)と推測される。この凄まじい激突によって大規模な衝撃波と熱線が生じた。衝突時のエネルギーは広島型原爆の10億倍と算出されている。
メキシコを中心に、南北アメリカ大陸をマグニチュード11以上と言われるものすごい地震が襲った。同時に津波も発生した。高さは最大で300mにも達したと言われている。当時隆盛を誇っていたが知能のない恐竜たちには何が起こったのか知る由(よし)もない。衝突の中心に近い位置にいたものは衝撃波と熱線で全て即死・消滅した。
被害はユカタン半島だけに留(とど)まらず、南北アメリカ大陸に及んだ。大陸規模の大地震で山は崩れ、大地は裂け、巨大な岩は崩れ落ちる。熱線で火災も発生した。このあたりに生息していた生物たちは、そのほとんどが死滅した。
しかしこの小惑星との衝突の影響は、地震や津波だけでは終わらなかった。あまりに大きな衝突のエネルギーは、大地の土砂を吹き飛ばし、それらの細かい土砂やチリは、爆発的なスピードではるか上空にまで達し、風に乗って地球を覆(おお)うこととなった。
また、推定1千億から5千億トンの硫酸塩やススが大気中に放出された。これらは酸性雨を降らせて森林や植物を枯らせ、生物にとって、最も大事な水の環境までも破壊した。
こういった、細かい土砂やスス、チリなどの不純物はあまりにも大量であり、これらが風に乗って地球を覆い始めた。太陽の光は遮断され、地球は暗黒の世界となった。これ以来、来る日も来る日も日光はさしこまず、植物は光合成が出来ずに枯れていった。植物がなくなるとそれを食料としていた草食動物たちも食べるものがなくなり、次第に固体数は減っていき、ついには絶滅した。
草食動物たちが死に絶えると、それらを食料としていた肉食動物たちも食べるものがなくなる。共食いをしていた恐竜たちもいたが、それらにも限りがある。肉食動物もエサがなくなり、やがては死滅していった。小惑星の激突は、その衝撃が収まった後でも、日光の遮断(しゃだん)、気温の急速な低下、植物の死滅、それに伴うエサ不足からくる動物たちの死滅という副作用を長期間に渡って残したのである。
▼クレーターの発見
1978年、ペンフィールドという人物(メキシコ国営石油)が、ユカタン半島付近で、油田発見のために磁気調査を行っていたところ、この付近の磁気データがきれいな弧を描いていることに気づいた。
重力分布データを地図に投影してみたところ、チチュルブの村を中心として円を描いていることを発見した。クレーター自体は大昔のものなので地下に埋もれてはいたものの、地磁気の異常や重力の異常、及び重力分布のデータによって巨大隕石の衝突跡がこの地にあることが確認された。
このクレーターは「チチュルブ・クレーター」と呼ばれ、直径は約180kmにも及ぶ巨大なものであることが判明した。
また、この地の6550年前の地層から、稀少金属であるイリジウムが数十倍の濃度で検出されたことも衝突跡であることの一つの証拠となった。イリジウムは地球上ではほとんど検出されず、これが大量にあるということは、宇宙からもたらされた可能性が高いからである。
この巨大隕石衝突説を最初に提唱したのは、物理学者のルイス・アルバレスと、その息子のウォルター・アルバレスであり、1980年にこの説は発表された。
しかし、同時期にすでに生息していた爬虫類で、現在でも生き残っている生物はおり、また、学術的には恐竜の範囲に含まれないものの、海に生息していた魚竜や首長竜、空を活動の拠点としていた翼竜までもが絶滅したという理由にまではならないという指摘もあり、発表当時は、単なる説の一つとしてあまり大きくは取り上げられなかった。
しかし2010年3月5日付けのアメリカ科学誌「サイエンス」に「恐竜の絶滅は、やはり小惑星の衝突」との記事が掲載された。これは、古生物学、地質学、地球物理学などの世界12か国41人の研究者が半年をかけ、これまでの様々な論文を調査し、結論を出したもので、「恐竜絶滅の論争に決着か」とも報じられている。
▼月から来た水
小惑星との衝突説以外に、恐竜が絶滅した仮説として代表的なものに「大洪水説」があげられる。
太陽系5番目の惑星である木星は、ガスの塊であって、大地というものは存在しない。はるかな太古、この木星に異変が起こった。木星の表面に現れた赤い塊が突然球体となって飛び出したのである。その赤い塊は彗星となり、これ以降、極端な楕円軌道を描いて太陽の周りを回ることになる。
その彗星が地球に近づいて来た。地球とぶつかることはなかったものの、彗星は地球に近づいた時、地球の衛星である「月」に多大な影響を与えた。彗星の重力に引かれて月が通常の軌道をはずれ、地球に近づいたのだ。
距離が縮まったことにより、月と地球はお互いの星が相手の引力によって強い影響を受けた。
潮汐(ちょうせき)力(地球上において、海水が月や太陽の引力の影響を受けて満ち引きする力)が異常なほどに高まった。、
現在では月は空気も緑もない星という印象があるが、太古の月には、水があり、しかも地下に膨大な量の水が閉じ込められていたと推測されている。この「地下水」が地球の引力に引かれ始めた。
地球に向いた方の面は強烈に地球に引っ張られ、地下の水たちは異常な圧力となった。そしてついに高圧となった地下水は月の表面を突き破り、飛び出してきた。地球に向いている面全般でこの現象が起こった。
地上から飛び出した水はそのまま上昇を続け、月の引力圏を振り切り、一直線に地球へと引き寄せられていった。水は宇宙空間に出た瞬間、氷となり、大量の氷が地球へと向かっていった。
一方、地球の方でも月の引力の影響を受け、月に向いている面では異常なほど海抜が高まっていた。
月からやって来た氷たちは、地球の大気に入ると次々と蒸発し、水蒸気となって厚い雲を作った。爆発的に増えた雲はみるみる地球を覆(おお)いつくし、世界各地に凄まじい豪雨をもたらした。
外にいれば呼吸も出来ないほどの激しい雨であり、川は氾濫し各地に大洪水をもたらした。豪雨は延々と続き、生物が生活出来る範囲をはるかに超えた雨が長期間地球に降りそそいだ。
月から来た水の量は想像を絶する量で、これにより地球の重さが2%から5%増加したと言われている。
質量の増加は地球の重力にも影響を及ぼした。地表から地球の中心部に向かって引っ張られる力のことを引力というが、地球は自転しているので遠心力も働いている。遠心力は地球の中心から外に飛びだそうとする力で、引力とは正反対の力となる。
すなわち引力と遠心力のバランスが、今我々が感じている重力となっている。月からの大量の水によって質量が増加した地球は、それに伴って自転の速度が大幅にダウンした。
自転の速度が遅くなった(1日の長さが伸びた)ということは遠心力も弱まったということになる。つまりは、引力が変わらなくても重力は増したということになる。これも仮説ではあるが、月からの水が来る以前は、地球の重力は現在よりも20%低かったと推測されている。豪雨の前には体重8トンだった恐竜は、豪雨が収まった後には体重が10トンになったことになる。
恐竜絶滅の要因として、「生物として大きくなり過ぎた」ということもその一因として上げられている。
大型草食恐竜として代表的なブラキオサウルスは、推定体重40トンとされているが、骨格から復元したイメージでは、その筋肉でその体重を支えられるはずがないとも言われている。更に、心臓から頭までは8メートルもあり、頭まで血液を送ろうとすれば人間の6倍の血圧が必要であり、現在の環境ではそのような生物が動いてエサをとり、活動出来るはずもない。
だが恐竜たちの生きていた時代が、現在よりもずいぶんと重力が低い世界であったならば生存することも可能である。
月からの水によって重力の増した世界では、恐竜たちは大き過ぎるがゆえにまともに動くことが出来なくなっており、環境の変化についていけず死滅することとなった。
この時期に襲った隕石か洪水か、いずれにしても恐竜が絶滅した時期には、全ての生物種の70%が死滅したと考えられている。
▼その他の説
代表的な説は、巨大隕石と大洪水だが、それ以外にも恐竜絶滅の原因は諸説ある。
・哺乳類が大量に発生し始め、恐竜の卵を次々と食べてしまった。
これも代表的な説であるが、哺乳類は恐竜と同じ時代を生きてきた期間も長く、いきなり恐竜を絶滅に追い込むほど卵を食べ始めたというのも不自然であり、海に生息していた生物に対しては説明も弱い。また、他の生物の卵も食べそうなものだが、特に恐竜だけが狙われたというのも不自然である。
・種の寿命が訪れた
生物種は永久に存在出来るものではなく、ある一定の時代ほど生存し続けると遺伝子に異変が起こり、その種族は滅亡していくという説。2億年近く生存し続けた恐竜という種族は、そのあたりが種の寿命だったという。
しかし、恐竜の時代から現在まで生き残っている哺乳類や両生類、昆虫などもおり、この説には当てはまらない種族も多く存在している。
・ポールシフト
地球の磁力はN極(北極)とS極(南極)を中心とした磁力に覆われているが、4800万年に一回の割合で、このN極とS極が入れ替わる。これをポールシフトといい、この時に磁力が一瞬0になる瞬間がある。
この時に宇宙からの大量の放射線を浴びて恐竜たちは死滅したという説。ならば、地球上の全ての生物が死滅しそうなものだが、恐竜以外の種が生き残っているという点で矛盾が生じる。
・火山活動
世界的に火山の活動が活発となって噴火を繰り返したために噴煙やチリなどが上空に蔓延し、太陽の光を遮(さえぎ)って地球は暗く寒い世界となった。巨大隕石の場合と同じような理由による説である。隕石説と共に有力な説の一つとされている。
・植物の変化
裸子植物に代わって被子植物が増えてきたために、草食動物の内臓がそれに適応出来ずに、草食動物から死滅していき、草食動物を食べていた肉食動物もエサがなくなって死滅した。
しかしこれは陸上の生物のみに当てはまるものであって、海洋生物の絶滅に関しては説明不足となる。食物のみにその理由を求めるのは無理がある。
恐竜の絶滅に関しては様々な説があり、どれも一長一短あって、現在一番有力な説である隕石の衝突という件に関しても確定とは言えない。
一番の問題は、推定で6000種類もの恐竜がいて生態も大きさもバラバラであるのに、なぜか恐竜という種族だけが滅びたということである。(しいて言えば鳥類が、恐竜から分岐して進化した生物と言われているので、そういった意味では恐竜は絶滅してはいないということにはなるが。)
同時期に生きていた哺乳類や両生類など、先に絶滅しそうな弱そうな生物で生き残っているものも多い中、恐竜は小型種も含めて全て絶滅し、海洋生物である首長竜なども絶滅した。
どの説も生物の絶滅という点では満たしているものの、恐竜という特定の種族だけが絶滅したということに関しては、現在まだ有効な説はない。しかし恐竜研究のスピードは早く、少し先の未来ではまた違った説が有力となったり原因が確定されているかも知れない。