No.26アル・カポネの有罪を確定づけた心理作戦


1920年代、アメリカのシカゴを本拠地として全米を震撼させていた、マフィアのボス・アル・カポネ。彼は酒類などの密売ルートを独占し、巨万の富を得たことでも有名ですが、敵対する者には容赦なく、250人もの多くの人々を殺害したと言われています。

しかしその彼もついに1931年、FBI(連邦捜査局)の手によって捕えられ、刑務所に送られています。
ところが、驚くべきことに彼が有罪となった罪状は、殺人ではなく脱税でした。用心深く、なかなかスキを見せないカポネに対して、FBIはカポネが雇っていた会計士に目をつけ、まずその会計士を別件で逮捕しました。


そして、「カポネの脱税の証拠を白状するのであれば、お前を不起訴処分(釈放)にしてやる。」と条件をつけたのです。
この裏切りによって、カポネはついに逮捕されることとなりました。

こうした方法は「囚人のジレンマ」と呼ばれる、人間の心理をコントロールする理論の一つで、タッカーによって発案されたと言われています。

例えば、今、ある事件の共犯者二人(この場合、カポネと会計士)が、何か別の件によって逮捕されたとします。

彼らは別々の取り調べ室に入れられ、捜査官から次のような選択肢を与えられます。



(1)二人とも黙秘を続けたら、別件容疑で二人とも懲役3年とする。


(2)また、二人とも自白すれば、両方とも懲役6年とする。
二人とも黙秘した場合


処分
カポネ 黙秘 懲役3年
会計士 黙秘 懲役3年

二人とも自白した場合


処分
カポネ 自白 懲役6年
会計士 自白 懲役6年




一人が自白・一人が黙秘を続けた場合
(3)片方が自白した場合は、情状酌量として自白した者は
不起訴処分とするが、黙秘を続けた方は懲役10年とする。


処分
カポネ 自白
釈放
会計士 黙秘 懲役10年


処分
カポネ 黙秘 懲役10年
会計士 自白
釈放

自白か黙秘か、どちらかを選ばねばなりません。この場合、二人とも、相手を信頼して黙秘を続けるでしょうか。それとも相手が黙秘を続けている間にさっさと白状してしまって、自分だけ助かろうとするでしょうか。

結果は後者の方でした。「相手が自分を裏切って先に自白してしまうのではないか」、との意識が働き、結局二人とも自分だけ助かろうとして全て自白してしまったということです。