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No.34 誰もが避ける夜勤

東京の、とある鉄工所に勤務している川岡明さんは、ある日上司に呼び出され、こう言われた。「川岡君、うちの八王子の工場は24時間稼動なんだが、夜の人手が足りなくて困ってるんだ。申し訳ないんだが、君、ちょっと八王子の工場へ手伝いに行ってくれないかね。夜の勤務の方なんだが。」
「えっ?」と、ちょっと驚いたが、期間は一週間だけという話で、しかも手当ても普通の残業手当てよりもかなり多い。

条件も悪くなかったので、「分かりました。やらせてもらいます。」と、川岡さんが言うと上司は「そうか。やってくれるかっ。」と、川岡さんの手を握りしめた。たかがよその工場へ手伝いに行くくらいで大げさな・・とも思ったが、その時は別に気にもとめなかった。


翌日の夜8時、川岡さんは八王子の工場へ出社した。
「本日より一週間ほど、こちらへ配属になりました川岡です。よろしくお願いいたします。」と挨拶すると、工場長はちょっと意味深な笑いを浮かべた。

この工場に夜、勤務するのは川岡さんと、もう一人は山形さんという男だった。山形さんという男は川岡さんより入社が3年くらい早い。

まもなく夜の10時になると工場長は帰ってしまった。後は川岡さんと山形さんだけだ。そして夜もふけて午前2時。2人で作業している時、川岡さんが何気なく窓に目をやると何か人影のようなものがサッと動いた。

「あっ、誰かいる。」思わず川岡さんが叫んだ。だが、山形さんは何も言わず黙々と作業を続けている。そしてそれから10分もしないうちに川岡さんは、再び窓に人影を見た。今度は人影のようなものではなく、はっきりとした人間の顔だった。どこか淋しそうな、そして青白い顔をした中年の男が無表情に工場の中を見つめている。

「誰なんだ、あんたは」川岡さんが怒ったように言うと、その男はみるみる透明になり、そのままスーッと消えてしまった。その消え方が明かに人間ではないことに気づいた川岡さんは、背筋にぞくぞくっと悪寒が走った。だが、もう一人の山形さんはいたって冷静である。


「山形さん、なぜあなたはそんなに落ち着いていられるんですか? 何か知ってるんじゃないですか?」川岡さんがいらいらして問い詰めると、山形さんは笑いながら答えた。「やっぱり見えたかい? まぁ、そう怒るな。あれは元、うちの社員の横田君の幽霊だよ。」

「幽霊ですか?」思わず川岡さんは叫んだ。
「そう、横田君は、元々この八王子の工場で働いていたんだが、人間関係とか仕事上のことで悩んでいて、ある冬の日に鉄道に飛び込み自殺したんだ。うちの会社に警察から電話がかかってきたよ。それで工場長がビニール袋とワリバシを持って線路づたいを歩いたんだ。」

「ビニール袋とワリバシって・・?」
「こま切れになった横田君の死体の肉片を拾って歩いたのさ。」
「うっ・・。」
「それ以来、ここに横田君の幽霊が出るようになってね、みんな怖がって夜勤をやらなくなってしまったのさ。」


「山形さんや工場長は怖くないんですか?」
「俺はその事件があった後に入社してるから、恨まれることはないだろう? 工場長は肉片を拾って歩いたんだから、これまた恨まれることはないというわけさ。それに横田さんは絶対にこの工場の中へは入ってこないから安心しろよ。」

「入ってこないって・・。何でそんなことが言えるんですか?」
「横田さんはこの工場から逃れたかったらしい。とにかく、辞めたいとか離れたいとかしきりに言ってたらしいよ。」

そう言って山形さんはまた作業を続けた。
そうだろうか? 会社自体に恨みを持っていれば、いつ誰の目の前に現れても不思議はないと思うのだが・・。川岡さんはそのまま一週間勤務はしたものの、もう二度とこの工場へ手伝いにくることはなかった。


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