Top Page 心霊現象の小部屋 No.105 No.103
これは、ジャーナリストの西浦和也氏が取材した出来事である。 藤本さん(仮名)は、ある駅で駅員をしていた。その駅は都心から結構離れており、急行や特急などはわずかしか停まらないような小さな駅であった。 ある日、藤本さんが電車が入って来る前の安全確認をしている時、ふと一人の男が目に止まった。 その男はホームの先端に立っていた。どうということのない普段の光景だが、この時は違った。男の上半身が何か黒い煙のようなものに包まれていたのだ。 「どこが変だったかって、上半身が真っ黒にぼやけていて見えないんです。」 と、藤本さんは後に語っている。 近づいてよく見ると、煙は男のスーツの襟(えり)の辺りからもやもやと立ち昇っている。その煙が拡散せずに、男の上半身を包み込むようにまとわりついているのだ。 煙のせいで男の顔はほとんど見えない。この光景をみれば誰だって、服が燃えていると思う。だが、周りには結構人はいるものの、皆、まるでこの男の煙に気づいている様子もなく、普通に電車を待っており、何ら騒ぎになる様子もない。 「この煙は俺にしか見えないのか?」 藤本さんは思った。この男に対して何か嫌な予感がした。 昔、何かの漫画で読んだ話に次のようなものがあった。 「主人公は何かのきっかけで、人間の頭の上に火の玉が見えるようになった。火の玉は全ての人間にあり、若くて元気な人は火の玉が大きいが、老人になるに連れて小さい火の玉になっている。 その中に、火の玉がほとんど燃え尽きそうな人がいた。その人を発見してすぐ、その人は主人公の目の前で事故に遭(あ)って死亡した。 火の玉の大きさはその人の寿命の長さを表していたのだ。」 この男だけ煙に包まれており、それが自分だけに見えるという、この状況は、この漫画を連想させた。 藤本さんは直感的に「この男は飛び込み自殺をする気なのではないか。」と感じた。かといって「あなた、飛びこむ気ですか。」などと声をかけるわけにもいかない。 それがきっかけで本当に飛び込む場合もあるし、もし違っていたら名誉毀損(きそん)で訴えられる場合もある。 もうすぐ急行列車が入ってくる。この駅を通過する列車なので、相当のスピードで入ってくるはずだ。 藤本さんは司令部に電話をし、不審な男がいるので、その急行列車は徐行運転で駅に入ってくるように指示して下さいと頼んだ。 司令を受けて急行は駅の手前から減速し、ゆっくりとホームに入って来た。 そして次の瞬間、煙に包まれたその男は藤本さんの予想通り、いきなり駅のホームから線路の上に飛び降りた。 耳をつんざくような急ブレーキの音が構内に響く。飛び込みを目撃した人たちが、一斉の悲鳴を上げた。 列車は停まった。 藤本さんが列車の先頭まで走って駆けつける。線路の上にしゃがみこんで、震えている男がそこにいた。ブレーキは間に合った。男からは煙が消えていた。 後日藤本さんは人命救助を行ったということで、会社から表彰され、金一封をもらった。 それから月日は流れ、藤本さんは車掌になっていた。 ある日藤本さんがいつも通り電車に乗って勤務していると、ある駅に停車した時、再び黒い煙に包まれた人間を見た。今度は女性だった。 ワンピースの胸元から黒い煙が立ち昇り、その煙は上半身を覆っていた。顔が見えないほどに真っ黒くなっている。前回と全く同じだった。 だが、自分の電車は時間通りに出発しなければならない。発車した後に藤本さんは、電車の中から司令室に電話し、飛び込み自殺の可能性のある女性がいるから、あの駅へは徐行運転で入るように次の電車に伝えてくれるように頼んだ。 藤本さんの電車がいくつかの駅を通過した時、司令室から連絡があった。先ほど伝えたあの駅で、やはり女性が飛び込んだらしい。 幸い、藤本さんの忠告通り、電車はゆっくりと駅に進入したために女性の手前で停まることが出来、人身事故には至らなかったということだった。 藤本さんはまたもや表彰された。その後も黒い煙の人間は藤本さんの前に現れ続けたが、藤本さんのおかげで、事故は未然に防ぐことが出来た。5年間で27回もの表彰を受けた。 こうした表彰は、定年までに3回あればいい方と言われる中、藤本さんの功績はズバ抜けていた。しかしその反面、死のうとしている人が分るという能力を持つ藤本さんは、同僚から「死神」というあだ名をつけられ、話題の種にされていた。 「みんな助けてるのにね・・。」 と、ため息混じりに悲しそうに言っていたという。藤本さんはしばらくして退職し、別の仕事についた。 Top Page 心霊現象の小部屋 No.105 No.103 |