禁止薬物は7種類に分類される。

1・興奮剤 48種類
2・麻薬製鎮痛剤 8種
3・タンパク質同化ステロイド、男性ホルモン製剤 36種
4・利尿剤 13種
5・隠蔽剤(いんぺいざい) 3種
6・ペプチドホルモンとその同族体 9種
7・β遮断剤 19種 と β2刺激剤 7種

1・興奮剤

闘争心を高め、疲労を押さえる働きがある。代表的なものとして、カフェイン、エフェドリン、アンフェタミンなどがある。
日本体育協会では、カフェインは2004年、禁止薬物からはずし、監視プログラムに移行した。コーヒーなどの飲み過ぎに特別注意を払う必要はなくなったのだが、カフェインについては監視対象として調査は継続され、その結果によっては再び禁止される可能性もある。

アンフェタミンは、闘争心を高め、眠気や疲労を減少させる作用がある。また、体重の抑制や食欲低下の治療薬として使われるが、医療目的以外の使用はほとんどの国で禁じられている。合成覚せい剤の一種で「スピード」とも呼ばれる。

エフェドリンは、気管支拡張剤として、または局部麻酔を行った時の低血圧に対する処置として使われている交感神経興奮剤である。敏捷性を上げたり、エネルギーの燃焼効率を上げる作用があるといわれ、重量挙げの選手やサッカー選手が使用した例もある。

アンフェタミンもエフェドリンも、元々は咳(せき)を静める薬として使われ、市販の風邪薬の中に含まれている。

エフェドリンは有名な漢方薬である葛根湯(かっこんとう)に含まれる「麻黄」の中にも入っている。また、ルルやカコナールなどの漢方薬にも入っている。

2・麻薬製鎮痛剤

怪我の痛みや激しい運動による苦痛を抑える。モルヒネ(ガンや手術後に伴う痛み)や、ペンタゾシン(激痛に対して)などが代表的。
これを使用すると、場合によっては自分本来の能力を超えた力を発揮する場合がある。

3・タンパク質同化ステロイド、男性ホルモン製剤

タンパク質同化ステロイド、男性ホルモン製剤はテストステロンを基本としており、男性ホルモンを人工的に作りだしたものが両者である。

※テストステロン:男性ホルモンの一種で、男性的な身体の発達を促進させる。体内で自然に形成されるものであるが、薬によってテストステロンを増やすことも可能であり、筋肉増強の効率がアップする。

一般的に筋肉増強剤として使われているステロイドといえば、タンパク質同化ステロイドのことを指す。
これを使用し、ハードトレーニングとタンパク質の摂取を積極的に行えば、身体が劇的に変化し、通常の場合よりもはるかに筋肉の量や強度が増す。
種類もいくつかあるが、代表的なものとして、ベン・ジョンソンが使ったスタノゾールや、マリーン・オッティが使ったナンドロロン、アーノルド・シュワルツェネッガーが使っていたアナボリック・ステロイドなどがある。

4・利尿剤

本来は、むくみを取るためや不要な体液を排出する目的で使われるが、ドーピングに使用する場合は、減量のためであったり、使った薬物を体外へ排出するために使われる。

5・隠蔽剤(いんぺいざい)

薬物を使用したことが検査の時に発覚しないように、体外への排出を促(うなが)したり、薬の存在を隠す作用がある。

6・ペプチドホルモンとその同族体

タンパク質同化ステロイドや男性ホルモン製剤と同じような働きがあり、成長を促進したり、タンパク質同化作用を持つ。
特に代表的なものはヒト成長ホルモンとEPO(エリスロポエチン = 造血ホルモン)である。

ヒト成長ホルモンは、骨の発育や筋肉の発達、代謝を促進するなどの効果があり、人間の成長において、幼児期にこのホルモンの分泌が少ないと低身長症、多すぎると巨人症を引き起こす。 本来の使用目的は、病気などに伴う低身長の人の治療のためであるが、筋肉の増強という目的で使用する選手もいる。

エリスロポエチンは、赤血球を増やす効果があり、赤血球は筋細胞に酸素を運搬する役割を果たすため、持久力が増し、疲れにくくなるなどの効果がある。

本来は腎臓から分泌されるホルモンであり、元々体内にあるものであるが、人工的に合成することが可能になってから、貧血の治療などに使われるようになった。

7・β遮断剤とβ2刺激剤

β遮断剤は、高血圧や狭心症などで使われる薬で、心拍数や心拍による出量を減少させる作用がある。 興奮剤の反対のようなもので、これを使用すると運動能力は上がるどころか逆に低下する。

しかし、射撃や弓道、アーチェリーなど、静的で集中力を必要とする競技においてはその沈静作用が効果的で、また、照準を定めた時の手の震えなどを抑える働きもある。

β2刺激剤は、本来は気管支喘息(ぜんそく)などの病気において使われる薬である。器官はβ2交感神経が統括しているので、このβ2交感神経を刺激することによって器官を拡張し、咳(せき)を静める効果がある。

また、β2刺激剤は脂肪の燃焼を促進したり、タンパク質の分解を遅らせる効果もあるため、減量や筋肉の増強にも効果がある。

副作用

ドーピングで使用される薬物の多くは、本来は病気の治療に使われるものである。しかしドーピングの場合、治療における適正な量をはるかに超えた量が使用される。そのために、普通では考えられないような副作用を引き起こす場合もある。

●タンパク質同化ステロイドや男性ホルモン製剤を過剰に摂取した場合、まず男性では精神的にやたらとイライラしたり、攻撃的になり、性格そのものが変わってくる場合がある。

勃起や性欲の減退、髪の毛が抜ける、爪が変形する、皮膚が老化する、そして男性ホルモンと関わりの深い前立腺や精巣、腎臓にガンの発生の確率が高まる。また、本来であれば男性ホルモンを正常に分泌する器官が損傷を受けて、逆に身体が女性化してしまい胸が乳房のように出てくる場合もある。

また、女性が使用した場合であれば、男性化現象が発生する。ヒゲが生えてきたり全身が毛深くなったり、ノド仏が出っ張ってきたりする。 声が低くなるかあるいは逆にカン高くなるなど、声も変わってくる。整理不順や不妊になる場合もある。男女問わず、動脈硬化が進み、身体に湿疹が発生する。

●ヒト成長ホルモンの場合では、体内のホルモンが過剰になり過ぎて末端肥大症のように手足が大きくなってくる。また、その影響は内臓筋にも現れ、内臓が肥大していく。

顔つきがごつくなり、声も低く太い独特の声となる。これらの症状は一度かかると直らない。

●エリスロポエチンの場合、赤血球が増えた結果、どろどろの血液となり、血栓が出来やすくなって脳梗塞や心筋梗塞を誘発する。

●エフェドリンなどを始めとする興奮剤 では、幻覚が見えたりパニック状態になる場合もある。また、不整脈も発生する。アンフェタミンは、精神分裂病のようになることもあり、タンパク質同化ステロイドと一緒に使用していると非常に危険である。


Top Page   ウエイトトレーニング&フィットネス   筋肉雑記帳   No.31   No.33

このページの先頭へ