音づくりへのプロローグ、始めに心ありき…

 弾くということに重点を置いてギターを作る阿部さんにとって、
「ギターづくり=音づくり」だという。
 燦々と降り注ぐ太陽の光が人の心まで暖かくさせるように、音楽も純粋で自然な音色は人の心を暖かく和ませるカをもっている。
 オーケストラの音は、18世紀は自然な響きだったが、時代と共にテンションの高い音が求められるようになつた。人間の心に緊張感が高まってきたせいだ。今や音楽も癒しの時代だが、ギターの世界はまだまだ。
「若い人が張りのある音をバンバン弾くと弦が切れる。ギターが教えてくれるんです。もっと自然な音色で弾くようにって」。
阿部さんは精神状態をいつもフリーにすることを心がけている。いい音色を聞き分けられる心の耳を養うために。
 阿部さんのギターづくりの原点は、この“精神性”に他ならない。いかにいい音をつくるかに全エネルギーを集中させていると
「神経過敏症になる。その時は一生懸命ギターを弾くと、ふっと心が楽になる」。
朝夕の犬の散歩もストレス解消のひとつ。追いまくられるとギターは作れないので、月一本のペースがちょうどいい。それで食べていけるのだろうか?
 「確かに大変です。でも自分の求める楽器や音がどこまで認められるか試してやろう。とにかく少しでも本物に近づきたいと思ってたから、辛い時もプロセスを楽しみながら精神的マスターベーションで乗り越えたってところはありますね。」
 売れることだけ考えて商業ベースに乗れば生活は満たされるが、自分の求める楽器や音からどんどん離れていく。一方、求めるものに素直になれば生活が大変になる。生活か?こだわりか?この二者択一はいつの時代にもある制作家の宿命というものだ。
 迷いは思いの強さが解決してくれる。そんなことを感じさせる人だが、昔は自分のスタイルに合わないギターを否定していたという。今は認められるようになリ、ようやく
「胸を張って『制作家』ですといえるようになりました」。
プライドが高ければ高いほどコンプレックスは強くなる。コンプレックスとの闘いを越えて、やがて自分も他者も認められるようになる。おそらく、その悟りに似た心の広さがギターづくりに反映しているのだろう。繊細で自分を大切にする人は、謙虚な心を養うために「おごりの時代も必要だった」。
 なぜここまでやり続けてきたのか?
「それは好きだった、性格にあっていたからでしょうね。求める気持ちがあれば真理はあとからついてきますから」
という気負いの無い言葉の後に、
「今から10年後、20年後が楽しみ」と胸を膨らませていた。

 

木と語り合う、素材を生かす。

 


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