「アベ・スタイル」の完成、そしてさらなる飛躍…
制作のプロセスで一番楽しいのは表面板の設計。表面板の厚さを決めたり表面板にカ木(ちからぎ)をくっつけたりする作業のことだ。同じ種類・長さのカ木でも削り方・乾燥時間によって曲がり方が違う。たとえばカ木を5ミリ曲げるのに何gのカがかかるかは、切った時と何年か経った時とで確実に違う。緻密な研究を要するが、この表面板設計が音づくりの原点になる。
カ木で音のイメージが変わるので、太さや重さ・組立て方を研究しながら少しずつ自分の音を作っていった。最初は模倣から入り、試行鍔誤の繰り返しの中で、2年前“アベ・スタイル”が完成した。
「これに辿り着くまで20年かかりました」
その言葉の奥には、何かをひとつ越えた満足感と自信がしっかりと見えた。
注文のほとんどは、プロ・アマの演奏家やギターの先生から。東京には“アベ・ギター″を置く専門店がある。最近はアメリカ・フランスからの注文もある。
演奏家の求める音によって選ぶ楽器が違う。大切なのは
「弾き手と作り手の求めるものが同じ接点に立っていること」。
ここ10年、舶来物を使っていた演奏家からの注文も増えたという。
「やっと僕もそこまできたのかな」
とつぶやく。夢を忘れず、心を素直にして好きなことをとことん追求して生きていると、その人やその人の作品の波動に引き寄せられる人たちが必ず現れる。これこそ芸術家が味わう存在の醍醐味だ。