――蓬莱寺京一の場合――
 
 そもそもは俺が『旧校舎に行こう』って言い出したことに始まる。
最近になってまた、回りが騒がしくなってきた事だし、時間のあるうちに実力UPを
計っておきたいところだったから丁度いい機会だと思っていたのに、あいつらときたら
揃いも揃って、部活だ生徒会だのと理由をつけて断わりやがって。
ひーちゃんに至っては「悪い、スーパーの特売巡りがあるから」なんてよく分からない断わり方するし……
挙句の果てに「旧校舎潜るよりたまには部活に顔くらい出せよな」なんて釘までさしていきやがった。
余計なお世話だってーの。
俺はやりたい時にやりたい事をしたいんだ。逆にいえばやりたくない事はやりたくない。
そういう訳で今は部活に出るよりも旧校舎に行って少しでもレベルアップをしておきたい所なんだが
1人でっていうのも考えものだよなぁ……

 そんなことを考えながら歩いてたもんだから正面から歩いてくる人物に気がつくのが遅れた。
正面衝突こそ避けられたものの「あっ、わりぃ」の一言でその場を立ち去る事など到底出来そうもない
その相手の顔を見るなり「げっ」という言葉を飲みこむのにかなりの体力を消耗した気がする。
まぁ、要するに出来る事なら顔を会わせたくない人物という訳で……
素直に謝ってその場を立ち去ろうとしたものの結局それは徒労に終わった。
何故なら当の相手がそれを許してくれなかったからだ。
「相変わらず落ちつきがないな、お前は」
犬神は『どうしようもない奴だな』と思っている事を隠そうともせずにいつもの調子で
淡々と語っている。
「そんな事だから今日のテストで追試になんかなるんだ」
「追試って、センセー?」
「今日のテストの結果だが、飛びぬけてお前だけ悪かった。授業をちゃんと聞いていれば
分かるような問題しか出してないと言うのに何故あんな点が取れるのか逆に教えてもらいたいものだな」
授業を聞いてりゃ分かるったって聞いてなきゃ分かるわけねえじゃねえか。
「まぁ、お前の場合俺の授業はいつも寝てるから分からないだろうがな」
分かってるなら言うなってんだよ。ったく、相変わらず嫌味な野郎だぜ。
そんな俺の態度を見てわずかに眉をひそめた犬神はとんでもない申し出をしやがった。
「せっかくだから今から俺が特別に補習をしてやろう」
「補習〜?なんで今から」
「俺の教師としてのプライドの問題だ」
「そんな物で補習なんかするなよな!」
「まぁ、冬休みがなくなっても構わないって言うのなら話は別だぞ。今度の学期末テストで成績の
悪かった者は冬休み返上で補習って決まったからな」
「冬休みって、まさか……クリスマスケーキも年越しそばも雑煮もおせち料理も食えねぇってぇのかよ?」
「そこで何故食べ物に話がいくかは、分からないがまぁそういう事だな」
「きったねぇぞ。それじゃ成績の悪い連中には楽しみはないって言うのかよ?」
「きちんと勉強すれば済む事だろうが。それに我々教師だって冬休み返上になるってことを忘れるなよ」
「だからって……」
「俺だって冬休みくらいゆっくりしたいからな。だからこれはお前の為じゃない。俺の為に補習を受けてくれ」
そう言うと犬神は俺の襟首を掴んでほとんど引きずるように生物準備室へと歩いていく。
冬休みを盾に取られては文句など言える訳もなく、その後6時間ほどを犬神と過ごす事になってしまった。

 大体、他の連中が用事があるとか言い出さなければこんな事にはならなかった筈なんだ。
こんな事になるくらいなら忠告通り部活に顔を出せば良かった……なんて今更言ってもしょうがないんだけどな。
それにしても、やっぱ納得いかねぇっっ!

 蓬莱寺京一の秋―――どうやら勉学(?)の秋になりそうである。

――霧島諸羽の場合――

 今日こそ京一先輩に稽古をつけてもらうんだ。

そう決意して僕は授業が終わると鞄を片手に教室を後にしようとした。
だけど、そんな僕をひきとめる人がいた。
「霧島君、どこへ行くの?」
さやかちゃんだ。
今日は一日オフだった為最後まで授業を受けたらしい。
明日からツアーが始まるというのに大丈夫だろうか、と思いつつも
「京一先輩の所に行こうと思ってるんだけど」
そう答えるとさやかちゃんは少し怒った顔をしたもののすぐに笑顔を取り戻し
「私も一緒に行ってもいい?」
と聞いてきた。
「でも、明日早いんだろう、大丈夫?」
「大丈夫」
そう言われては断わる理由もないから二人連れ立って真神学園に向かう事にした。

 真神学園の前まで来ると丁度龍麻先輩の姿が見えた。
「龍麻先輩!」
と声を掛けるとすぐに気づいてくれてそばまでやってきた。
「今日は京一先輩と一緒じゃないんですか?」
「あぁ、あいつは今日は別。あいつまだ中に居る筈だけど……どうする?」
「じゃあ、待ってみます」
「そうか。悪い、俺急ぐからまたな!」
そう言うと龍麻先輩は、何をそんなに急いでいるのかは分からないけど走り去っていってしまった。
「龍麻さんがあんなに慌ててるなんて珍しいわね」
とはさやかちゃんの弁であるが僕もそう思う。
あの、龍麻先輩が慌てるくらいだからよほど大切な用事なんだろうけど……
とにかく今は京一先輩だ。
早く出てこないかなぁ……

 それから30分ほど待ってみたけれど京一先輩は出てこない。
「おかしいなぁ、すぐに出てくると思ったんだけどなぁ」
「もう帰ってしまったのかしら?」
さやかちゃんの声に少しばかり毒が含まれているように感じるのは多分気のせいだろう。
あんなに立派な先輩を嫌うなんて事はないはずだから……
その時、校門から誰かが出てくる気配を感じた僕達はそっちの方へと目を向けた。
京一先輩か?と思ったのは一瞬だったが出てきた人が見知った顔であった事に気づき声を掛ける。
本当なら別の人が良かったのだけれど、他に見知った顔がいないのではしょうがない。
「醍醐さん!」
「霧島か。どうしたんだ、こんなところで?」
「京一先輩を待ってるんです」
「京一?あいつまだ残ってるのか?」
「龍麻先輩はそう言ってましたけど」
「そうか……でもこれ以上待っててもいつ出てくるか分からないぞ」
「そんな……せっかく京一先輩に稽古をつけてもらおうと思ったのに……」
落ち込む僕を見てさやかちゃんが優しく声を掛けてくれた。
「また今度来たらいいじゃない。京一さんだって忙しいのよ、きっと」
「そうだね、今度はあらかじめ連絡してから来る事にするよ」
「そうした方がいいだろうな」
醍醐さんもそう言って「京一には俺からも言っておこう」と約束までしてくれた。
「じゃあ、私達これで失礼しますね」
「醍醐さん、失礼します」
そうして僕達は真神学園を後にした。

「すっかり遅くなっちゃったけど、さやかちゃん大丈夫?」
「えぇ、私は平気よ」
「でも明日からツアーが始まるし。僕が考えなしだったね、ゴメン」
「霧島君が謝らなくても……」
「でも……」
「そんなに気にするなら明日からのツアー手伝ってくれる?」
「勿論だよ」
「じゃあ、明日からヨロシクね」
「うん」

 霧島諸羽の秋――スポーツの秋(?)を目指していたはずが何故か違う方向へと行ってしまったようです。

――劉弦月の場合――

 家――といっても実質は野宿に近いものであるんやけど――に帰る途中で思いもよらない人と遭遇した。
別にその人に会うのが嫌やった訳やなく、むしろ嬉しかったんやけど何でここにあの人がいるんやろ?
たしかあの人の家ってこっちの方角ちゃうよな?
「アニキー!」
それでも一応声を掛けてみる。
間違えとったら間違えとったでそんときは笑ってごまかしてしまえばいいやん。
そんな、ある意味楽観的な気持ちで声を掛けたのだが……
「あぁ、なんだ弦月か」
と、言いながら近づいてきた。
それにしてもなんや、ぎょうさん荷物抱え取るけどどないしたっちゅうんやろ?
わいの視線が荷物に注がれていることに気付いたアニキは
「買いすぎちゃってさ……」
と苦笑しながら言った。
でも、買いすぎっちゅう量やろかこれって?
確かアニキは一人暮らしのはずやのに、この量を1人で消化するのはムリとちゃうん?
それでも、もしやと思うことがあって聞いてみる。
「誰か客でも来るん?」
「いや、そんな予定はないけど……」
なら、これだけ大量の食料をどうするっちゅうんやろ?
そんなわいの疑問を解決してくれたのはアニキの次の言葉だった。
「たくさん作って冷凍しておけばいつでも食えるだろ?幸い明日は休みだし色々と作りだめしとこうと思ってさ」
なるほどな。わいの所には冷蔵庫とかそういったものはないからそんな事考えつきもせんかったわ。
そういえば、最近ちゃんとしたメシ食ってないなぁ。
そんな事を考えてたら『グ〜〜〜〜〜!』と腹の虫が鳴いてしまった。
慌てて腹を抑えたが今更そんな事をしても腹の虫が鳴いたっちゅう事実が消えるわけやない。
なんでこの人の前でこないな恥をかかなあかんのやろ……
「弦月……お前腹減ってるのか?」
あぁ、案の定聞いてきよった。
でも今更隠してもしょうがないからこくんと頷いた。
「だったら今から家に来るか?ちょっと遠くなるけどメシ食わしてやるから」
あぁ、何て優しい言葉やろう。めっちゃ感激したわ。
でもそこまで甘えてええんやろか?
そんなわいの考えを読んだかのように
「俺も1人で食うより誰かと一緒に食ったほうが楽しいからな。付き合ってくれるよな、弦月」
と言ってくれたアニキはやっぱり尊敬すべき偉大なアニキや。
 
 その後、更に買うものがあるからというアニキに付き合いアニキの家に着いたのは夕方の6時過ぎ。
今から食事の用意をしていたら遅くなるんちゃうやろか……というわいの思いを裏切るかのごとく
7時には「いただきます」なんて手を合わせて夕飯が始まってたりする。
食卓の上にはどうやったら一時間足らずでこれだけのおかずが作れるんやろか?
と思わず聞きたくなるくらいのたくさんのおかずが並んでいたりする。
「悪かったな、時間が無くてこれだけしか作れなかったけど……」
なんてアニキは言うけれど見る限り5〜6品ほどのおかずが並んでいる。
ちなみにその中にご飯、味噌汁は含まれていない。
う〜ん、やっぱりアニキは奥が深いわ……などとよく分からない感心をしながら
わいはその料理の全てを平らげるのに一時間もかかる事はなかった。
しかもその後アニキ特製のデザートまでごちそうしてもろうて……
日本に来て……アニキに出会えて、わいホンマめっちゃ幸せやわ……

 劉弦月の秋――こういう場合も食欲の秋……と言うのだろうか?

――おまけ・緋勇龍麻の場合――

 ったく、タイムサービスの時間まで後少しだというのに帰り間際に呼び止めやがって京一の奴。
売り切れたらどうしてくれるんだ、一体。
それに、諸羽も諸羽だ。
京一に用事があるのなら直接京一を呼び出せばいいものをわざわざ俺に声なんか掛けるなっていうんだよ。

 俺の隠れた趣味のなかに『スーパーの特売巡り』がある事をしる人間は少ない。
ほとんど皆無と言ってもいいだろう。
別れ際に京一にそんな事をもらした気もするがあいつの事だ、すぐに忘れてしまうだろう。
この習性は独り暮らしを始めてすぐに身につけたものだ。
あの頃はまだ切り詰めた生活をしていたから少しでも安い物を手に入れるのに労力は惜しまなかった。
今は純然たる趣味として行っているのだけどな。

 タイムサービスにも何とか間に合い、買うべきもののほとんどは手に入った。
本当ならもう少し買いだめをしておきたいところだがこれ以上荷物を持つのは不可能。
とくれば後は帰るしかないのだが……
とその時誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。
「アニキー!」
俺の事をアニキと呼ぶ人間は一人しかいない。
実家にいる義弟は『にいちゃん』と呼ぶのだから。
その事から察するにこの声の持ち主は必然的に弦月と言う事になる。
と言う事は……荷物持ちが出来たな。
そんな事を考えながら「あぁ、なんだ弦月か」と声を返しながら弦月の方へと歩みよった。

 その後、買い足りなかった物を買い足し、家に帰ってきた俺は腹をすかしている弦月の為に
早速料理に取り掛かる。
あの腹のすかし具合から見るとあんまり時間のかからないものがいいだろう。
幸い冷凍庫のなかには先週作った料理が保存してある。
これを温めて少し手を加えれば立派な夕食になるだろう。
 
 そうして作った料理を――俺からしたらかなりの手抜きなのだが――美味しいと言って食べてくれた
弦月を見ていたら人の為に料理を作るのも悪くないな……と思い始めた。

 緋勇龍麻の秋――料理は芸術だ!ってことで芸術の秋……

>>あとがき<<

777HITを踏まれた健露さまのリクエストで「『真・阿修羅活殺陣』のメンバーで、『○○の秋』」と

いう事だったんですがいかがなものでしょう(怯)

本当なら3人揃ったお話を書きたかったんですが全てニアミスで終わってます。

劉ちゃんに至っては他の2人と接触する意思すらありません(苦笑)

まぁ、三人三様の秋があったと思ってもらえれば管理人としても助かるんですが……(^^;

相変わらずの駄文で申し訳ありませんが777HIT記念として健露さまに捧げさせてもらいます。


健 露より

方陣技ある割に、何ら関わりがなさそうな3人をリクエストさせていただきまして、無茶苦茶恐縮でした…………ι
しかし、そこはさすが偲様、上手くまとめて下さって!!
何だか、セガサターンで昔あったゲーム『街』を思い出してしまいました。
こういう、構成やネタが練ってあるお話、私、すっごく好きで☆

本当に、ありがとうございました!!


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