* * いつかのメリークリスマス * *

 

クリスマス。
それは決して、綺麗な思い出ばかりではない。

彼と彼女が出会った年のクリスマスよりも少し前のこと。
クリスマスを迎える前に、彼は危うく彼女を失ってしまうところであった。

燃えるような赤い髪の男の一太刀は、的確に彼女を体を傷つけ、危うくその命すらも奪ってしまう
ところであった。

あの瞬間のことを、今でも忘れられない。
寒さのせいではなく、体が凍りつくようなあの恐怖――
暗殺者として、死と隣り合わせの彼を縛りつける恐怖。

彼女を。

<黄龍の器>などではなく。

緋勇澪という、たった1人の彼女を永遠に喪ってしまうかもしれない。

あの凍てつくような恐怖。

彼女の体に傷が残ったのと同様に、彼の心に刻み込まれた恐怖という名の傷跡。

「………………傷」

我知らずのうちに、紅葉の口からこぼれた言葉に、澪は「え?」と聞き返した。

そう。
目の前にいるのは、緋勇澪。
あの日斬られ、常人では決して助からない傷であったのに、見事なまでに回復してくれた彼女。

「ま、骨だって一度折れたら、もっと丈夫になって復活するし。ぼくは大丈夫だってば」

と、分かるような分からないような理屈をならべてくれただけあって、彼女はすっかり元気であった。
だが、どうしても気になってしまう、その傷跡。

袈裟懸けに入った、朱色の線。
腕利きの医者のおかげで目立つものではないのだが…それでも、完全に消えるものではなくて。

「……澪、服脱いでみて」

彼女は一瞬、きょとんとした顔になり…みるみるうちにその顔色が赤く染まっていく。

「何言い出すんだー!!紅葉ーーーーーーー!!!!」

「……別に、そういう意味で言ったんじゃないけどね…そうか…そういう意味でとられたってことは、
そういう意味でも構わないってことかな?」

「意味わかんないし!!というか、なんで近づいてくるわけ?!」

「いや、期待にこたえてみようかなって思ってね」

表情はあくまで、からかい半分の笑顔で――しかし、ちゃっかりシャツのボタンを外しながら近づいて
くるあたり、どうやら本気でもあるらしく――

とりあえず澪が蹴技を連発して抵抗したので、危うい展開は回避されたようだが。
(この時の被害で、コップがテーブルにあったカップが破損したが)

「あの日、柳生につけられた傷が、気になってね」

「?……そんなに目立たないと思うけど………」

「そうだね。けど、気づいてるかい?君、体が火照ってる時とか…傷後がうっすらと赤く浮かび
あがるんだよ?」

「うん、お風呂の時とか、そう思う………って、何で紅葉が知ってるわけ?!」

「そりゃ、ね。例えば、君を抱いてる時とか…」

「ああああ!!!すいません、もう聞きません!だからそれ以上言わないように!!!」

顔を真っ赤に、ムキになる彼女を見るのは好きだ。
こうして、彼女が側にいることを感じられる瞬間の1つであるし、こうしている彼女はとても可愛いと
思う。

だが、それで彼の傷が消えるわけではない。

彼女の消えない傷が示すのは、彼女を守れなかった自分の罪。
だから、その罪を今、この目で確認したい。彼女にそう告げた。
彼女は、戸惑っていた。

彼女にしてみれば、この傷はあの変態(柳生のころらしい)が勝手に斬りつけてきたものであって、
壬生が罪とやらを感じるようなものではないはずだ。
それでも――真剣な面持ちの壬生に対して「NO」と言えるはずでもなく。

「…少しだけで、いいよね?」

躊躇いがちに、襟元を少し開ける。
さきほどまでムキになってたりしてたせいだろう。
ほんのりと上気しが肌にかすかに見える、傷跡。

その傷跡に吸い込まれるかのように――彼は彼女の襟元から、傷のある鎖骨近くに、口付けを
していた。

「すまない――こんな傷を許してしまって―――」

まるで泣いてるかのような、弱々しい声だった。
何と声をかけたらよいか分からずに、澪はそのままの態勢のまま、壬生の頭を軽く叩いていた。
まるで、子度もあやすかのような仕草で。

途端―――旋律が体中に走った。

さきほどまでは口付けだけだったものが…急に傷跡を舐められて。

反射的に、澪は思いっきり紅葉を蹴り飛ばしていた。

「痛いな……何をするんだい…」

「それはこっちの台詞!いきなり何をするんですかいっ!!」

「傷跡を舐めたら、治るかなと思ってね」

「なるほど……って、嘘つけー!!下心が感じられたってば!」

「そりゃ、当然下心はあるわけだし」

「開きなおるし?!」

またしても、顔を真っ赤にしてムキになる彼女。

表情をころころ変えて、まっすぐな感情をぶつけてくれる。
あの傷跡が、「彼女が喪われていたかもしれない」証だとすれば、今のこの瞬間は「彼女が生きて
いる」という証。

勿論――彼女をこのままにしておくつもりはない。

彼が笑みをうかべた途端に、不意をつかれたかのように彼女がおとなしくなった。
その隙に、彼女に短いキスをする。

一瞬の口付けの後、口から出てきたのは――あの時のクリスマスには伝えられなかった言葉。

 

「メリークリスマス、澪」

 

あの日、あの時のクリスマスの続きを、今のこの時に。


健 露より

ながつき様から、またまたまたSS、戴いてしまいました
(つーか、今回は
かっぱらってきました
ながつき様のHP、今年のクリスマス企画は。
『24日夜〜25日朝まで、ネタと体力の続く限りSSを書き続けるアップする』。

素晴らしすぎです、ながつき様。

私が戴いて帰ったのは『魔人』のSSのみですが、実は、この企画では『魔人』以外にも『ときメモGS』とか、
いろいろなゲームのSSを1本ずつ、4時間くらいのうちに5本もアップされたという、
何とも
ぱわふりゃーなことをされてました……………………。

例によってセクハラ壬生くん(苦笑)で。しかもかなりグレードアップしてるので、
うちのHPでアップするかどうか、戴いた後になってさんざん悩んだのですが。
………… 何だか爽やかだったので(何)、勢いで載っけました。

  免疫って、こうやって付いていくのでしょうか ………………?(誰に聞いてんだオイ)

ながつき様。素敵なお話、ありがとうございました。……そして、よくお休み下さい……


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