観天望気講座


1.9月の観天望気

 9月といえば何といっても台風です。今年は、日本に近い海上で小規模な台風が次々と発生するのが特徴ですが、それでもかなりの雨をもたらします。
 台風が来るときの観天望気としては、空一面に広がる黄金色の夕焼けがあげられます。大型で強い台風などでは、中心の上空から吹き出す巻雲や巻層雲がはるかかなたから到達して、異様な空模様を呈します。台風の襲来は「ひまわり」画像で早くから察知されますので、観天望気の利用価値もあまりありませんが、台風が上陸して中心がはっきりしなくなったような場合には、風の吹き方で中心の右側にいるか、左側にいるかがわかります。
 その方法は、風の吹いてくる方向の変わり方に依存します。例えば最初風が南東から吹いていたとします。その後風向が南になりさらに南西になった場合、風の吹いてくる方向を向いていると身体は右へ右へと回って行くはずです。
 これを風向が順転する(veering)といい、そのときは台風の進路の右側にいることになります。

 これに対して、風の吹いてくる方向がしだいに左へ左へと変わっていく場合、風向が逆転する(backing)といい、このときは台風の進路の左側にいます。風向が全然変化しないで、風速がだんだん強くなる場合、それは台風の中心がまっすぐに向かってきているときです。
 9月の上旬には、残暑が続く年もあり、このときには夏型の天気の「雷三日」が見られることもありますが、今年は太平洋高気圧が弱く、早くも大陸の高気圧が張り出してき始めているのでどうでしょうか。中旬あたりからは秋雨前線が現れ、不順な天気が続くことがありますが、これに台風が加わると、弱い台風でも注意を要します。
 とかく防災の月の観天望気は油断ができません。
                                    1999/8/25 福谷

2.10月の観天望気

 10月も10日頃をすぎると、秋雨前線も姿を消し、移動性高気圧と低気圧が周期的に交互にやってくるようになります。年によっては「おくての台風」がくることもありますが、秋晴れのさわやかな好い季節となります。

「天高く馬肥ゆる秋」といわれますが、これには雲と空気の澄み具合が関係しているようです。1978年から1982年までのデータですが、福岡(47807)と大分(47815)の00Zと12Zの雲の状態(CL,CM,CH)を見てみると、10月はCL=1とCL=2の観測回数が夏や冬にくらべて少ないようです。これは対流の強さが弱いせいでしょう。
 また下層雲のため上層雲の見えない状態CM=/,CH=/も10月や11月が最も少なくなっています。このように空に低く覆い被さる雲が少ないので、圧迫感がないのかもしれません。なお雲がない状態(CL=0,CM=0,CH=0)が10月で特に多いわけではありませんので、移動性高気圧とその周辺の雲が空を高く見せている(?)といえます。
 ちなみに春の場合、雲の状態は秋と似ていますが、黄砂などでいわゆる「春霞」となり、秋のように澄みわたった空の高さは感じられません。
 「何とか心と秋の空」もよく使われます。変わりやすい天気は、観天望気の出番です。温帯低気圧の接近は、温暖前線の接近でもありますが、巻雲、巻層雲などをフルに活用しましょう。

〇同じ方向にまっすぐに伸びた巻雲がたくさんならぶ。
〇ろっ骨状の巻雲が見られる。
〇巻層雲に暈(かさ)が見られる。
〇飛行機雲が長い間消えない。
〇高層雲その他に波状のものが見られる。
etc.

 この他にもたくさんありますが、どれも雨の前兆で、 複数あれば確率が高くなります。
 温帯低気圧が西から接近する場合、雲の動き方が下層と上層でちがいます。下層の雲は南よりの風に流され、上層の雲は西よりの風に流されています。日本のことわざにも「上り雲(南から北に流れる雲)は雨」というのがあり、西欧(多分イギリス)の船乗りの言い伝えにもCrossed-Winds Rulesとして同じようなものがあります。

(Alan Watts:Instant Weather Forecasting,ISBN 0-229-11724-4)
 また最近の Bulletin of the American Meteorological Society,Vol.80,No.5,May 1999,pp901-903にもW.Clement Leyの上層流の研究で、温暖前線の接近に伴う下層雲と上層雲の走行の違いが述べられています。
 先月に続いて、雲の動きの話になりましたが、これも天気の予測には重要です。
                            1999年9月25日 福谷

3.11月の観天望気

 この月は晩秋から初冬へ移り変わる時で、その典型的な現象はよく知られているように「小春日和」と「木枯らし」です。また、紅葉前線もかなり南下して、深まり行く秋に「秋は夕暮れ」を実感させられます。
 最近、癒(いや)すという語が流行っていますが、夕日を見るのも、なんとなく心が癒されるものです。「星の王子さま」は夕日を見るのが大好きで「だって...かなしいときって、入り日がすきになるものだろ......」(岩波少年文庫より)といって、1日に43回も日の入りを見たそうです。
 そこで夕日→夕焼け→夕焼け雲ということになりますが、夕焼け雲には晴れを予告するものと雨を予告するものがあるようです。一般論としては、雲が黄色かだいだい色に輝いているものは晴れ、異様に赤く染まって黒々として水っぽい雲(!)を伴っているものは雨といえるようです。(参考:飯田睦治郎編、雲、山と渓谷社、250-251頁)
 11月3日は特異日(Singularity or Calendaricity)の一つにあげられることもありますが、1966年から1998年までの天気を「天気図集成」と月刊誌「気象」(共に日本気象協会刊)の豆天気図と解説記事で見てみますと、雨らしいのは1969年、1972年、1987年、1994年といったところで、ほとんどが「好天」「快晴」「青空」「晴天」という文字が並んでいます。その中で1969年の文化の日は、前日夕焼けなのに「意外の雨」のようですが、この夕焼けは赤々としすぎていたのではないでしょうか。
 晴れになるか雨になるかの検証は、簡単にできますので、夕焼け雲による天気の予想は観天望気の格好の教材です。
                              1999/10/12 福谷
4.12月の観天望気

 12月は1年中で最も昼間が短く、しかも年末で忙しく、ゆっくりと空を眺める暇などなさそうな月ですので、観天望気もお休みにと思いましたがやはり開講します。

 (その1) 

 「時雨」を歳時記で見てみますと冬の季語のようですが、落ち葉に降りかかる通り雨は12月あたりにぴったりの風情です。この季節は大陸から寒気が流れ出してきますが、日本列島はまだ冷え込んでいないので、対流による雲ができやすくなり、層積雲や大きな積雲から降ってくるのがこの雨です。
 このような天気を空模様だけで予測するのは困難です。どうしても天気図の助けを必要とします。しかし、冬型の気圧配置と雲との関係は、その地勢に応じてかなりはっきりしていますので、地方毎の特徴を捉えておけば、この雲の発生の予測精度も向上するでしょう。
 一般に、大粒で驟雨性の雨は発達した積雲から、弱い雨は層積雲からですが、雨が降るか降らないかを見分けるのは難しい問題です。いわゆる雨足が見えていればその雲の動きに注意すれば済みます。雲間から光芒が降っているものは、雲から水滴が落ちている証拠です。雲の底が黒々として乱れているものも、雨を降らせています。これに対して、雲の底がなめらかで比較的明るく、しっかりと固まって硬そうなものは雨をもたらしません。
 (その2)

 12月の終わり頃には、年末低気圧(年末寒波、クリスマス寒波)がやってくるとよくいわれますが、それほど多いわけでもなさそうです。(「気象」34.12、永沢義嗣:天気図の話 No.12 師走の低気圧参照)。かえって年末日和とよばれる穏やかな天気が多いくらいです。これも例の「気象」天気図の12月31日を1966年から1998年までの33年間で見てみますと、「年末日和」または「穏やかな年末」というのは、1966,1968,1971,1972,1973,1974,1975,1978,1979,1991,1996年です。これに対して「年末低気圧」は何と1986年だけ!! 忙しい年の暮れにやってくる悪天侯は、たしかに厄介者ですが、日本海側での大雪や海や山が大荒れになるなど観天望気の面でもあなどれません。特に寒冷前線の接近を知らせる雲(積乱雲)の堤には、海上の小舟艇などは十分注意して安全運航に努めましょう。
                            1999/11/18  福谷

5.1月と2月の観天望気

  

   これらの月は一年で最も寒い月です。シベリア大陸から寒気が日本海に流れ出してできる筋状雲はおなじみの雲ですが、この対流雲にもいろいろなものがあります。海水と大気との温度差が大きいときにできる発達した積雲で構成された真ん中に穴の空いたオープンセル。温度差が小さいときにできる層積雲で構成された穴のないクローズドセル(オープンセルの領域ととクローズドセルの領域の境目の少し北側にジェット気流があることが多いといわれる)。風向と直角に横方向に並ぶ雲の列。ボルテックスチェーンとよばれる渦巻き状の雲のつながり。済州島の風下によく現れるカルマン渦。等々

   この雲は可視画像で見た方が赤外画像よりも明瞭です。最近ではインターネットで雲画像が見られるサイトもかなりありますが、テレビの衛星画像(赤外画像)でも注意してよく観察すると多少は判別できます。暖かいお茶の間にいながら、宇宙から眺めた映像を使って、この寒気の吹き出しによる様々な雲のパターンから天気の予想をするのも面白いでしょう。

                         2000/1/18    福谷

6. 3月の観天望気

  3月は9月と並んで強風の月ということは、案外知られていないようです。この強風は日本海で発達した低気圧へ向かって吹き込む南風のことが多いようです。いわゆる「春一番」もその一つです。瀬戸内海のデータですが、風向の統計値の風配図(wind rose)を見ますと、3月は南西の風が卓越しています(瀬戸内海の気象と海象、海洋気象学会Vol.13,No.1・2,1967)。

 風が強い場合、その前触れとなるものに、レンズ雲(lenticular cloud)があげられます。この雲は巻積雲、高積雲および層積雲で見られますが、高積雲がその代表です。なめらかなレンズ状のものもありますが、粒状のものが全体としてレンズ状になったものもあります。

 この雲は山岳等の地形の影響で生ずることが多いようですが、いずれにしても上空で風が上下に波打っている場合に、波の峰の部分で作られます。上空の強風はしだいに下層に伝播して来ますので、そのうち地上でも強風が吹き荒れるようになります。

 台風の場合、右半円が風が強いことはよく知られていますが、温帯低気圧の場合、右半円に相当するのが暖域です。暖域の突風を暖気突風といいますが、海山共に十分警戒すべき現象です。

                       2000/02/27    福谷

 

 

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