《今週の金田一さん》感想一覧bP〜bT |
5悪霊島(「野生時代」昭和54年1月〜55年5月) |
今回は『悪霊島』です♪かなりメジャーな作品ですね(^^) 「・・・あいつは腰のところで骨と骨がくっついたふたごなんだ・・・あの島には悪霊がとりついている・・・ヌエの鳴く夜に気をつけろ・・・」 アメリカで活躍する実業家、越智竜平の依頼で、彼の故郷刑部島で行方不明になった青木という人物の行方を調査することになり、久しぶりに岡山を訪れた金田一は、早速磯川警部を訪問し旧交を温めた。磯川警部から、青木という男が妙な言葉を残して死んでいるということを聞いた金田一は、そのまま島に渡り、調査を続行することになった。 島は古くからの家柄の越智家と、平家の落人の末裔である刑部家が対立していた。越智竜平はかつて刑部家の巴御寮人と駆け落ちをしたことがあった。だがその結果、彼は故郷を石もて追われるがごとく出て行くことになってしまったのだ。 磯川警部に救いを求めた浅井はるという市子の死。かつて刑部島で蒸発したと思われる置き薬屋に、神楽一座の太夫。すべての謎の鍵が刑部島にあると思われる中、島では神社の祭りのために帰郷した人たちで賑わっていた。祭りの宵宮の神事の最中に突然の火事騒ぎがおこり騒然とする中、巴御寮人の夫で神主の守衛が、竜平が寄進した黄金の矢で串刺しにされるという事件が起こる。つづいて隠亡谷で、守衛と巴の間に生まれたふたご、真帆、片帆のうちの一人、片帆の死体が発見される。片帆はかつてこの島で蒸発したらしい人形遣いのことで、何かを恐れていた。小さな島で三人もの蒸発者、これは一体どういうことなのか? 最初の事件までが長い。が、それまでも冒頭から不審な死に方をした男が言い残した不気味な言葉、市子のばあさんの死など盛りだくさんである。だが島に向かう金田一も、まさかここまで恐ろしい事件が待ち受けているとは思いも寄らなかったに違いない。 島に伝わる因縁話、巴御寮人の目を瞠る美貌に隠された秘密など、何かが起こる予感がヒシヒシ。島の自然そのものも忌まわしい未来を暗示するかのように怪異だ。かくして起こった恐るべき事件とは!神主は嫌なヤツ(天神ヒゲだって(~_~;))だからまあ別にいいけど、片帆ちゃんはひどすぎ〜(T_T) 筋はどちらかというとシンプル。登場人物の人間模様や島の様子のなんとも妖しげな雰囲気がスキゴコロをそそる。吉太郎が猛犬阿修羅と対峙する隠亡谷の描写は見事としか言いようがない。鳴き騒ぐ烏、阿修羅の鼻面を染める真っ赤な血…!あなおそろしや〜(*_*) そして紅蓮洞の奥深く、大広間に祭られていたのは・・・この陰惨な情景にも、もののあわれを感じずにはいられない。南無南無。巴御寮人はちょっと物足りないキャラクターのように思えていたのだけど、読み終わってみるとあのふわふわした感じがぴったりだったのかもと思えてきた。考えてみれば可哀相な人なのね〜(T_T)ん?可哀相なのは男の方だって?男はアホなんだよっ(^_^;) 磯川警部にとってはすごいことが判明する事件となった。今後どうなるのであろう…? |
4吸血蛾(「講談倶楽部」昭和30年1月〜) |
今回は『吸血蛾』。不気味な題名にそそられる〜(^_^;) 婦人服飾会の第一人者で、モデルたちの憧れの的でもあるデザイナー浅茅文代のアトリエへ送られてきた大きな木箱。模型人形が入っているはずのその箱から滲み出したものはどす黒い血だった。箱のなかには彼女の専属モデル加代子の無残な死体が詰められていた。その死体はまるで咬みきられたかのように左の乳房がえぐりとられ、そのあとには血に染まった一匹の蛾が・・・。 異様な犬歯をもつ謎の灰色づくめの男、文代のショーにやってきては毒舌を吐く昆虫学者、文代を脅迫するムッシュー・Qと名乗る人物、そして文代自身の乳房に残る歯型のような疵痕…謎が謎を呼ぶなか、専属モデルの和子が行方不明に。 行方をくらました昆虫学者、江藤の屋敷から和子の切断死体が発見されるに及び、ついに金田一が立ち上がった。 しかし、金田一と等々力警部ら警察の必死の捜査を嘲うかのように、切り取られた死体の脚は空を飛び、舞台に踊る。 とうとう文代がヨーロッパ留学時代に遭遇した不気味な狼憑き事件を告白するなか、新たな犠牲者が次々と!金田一はこの狼男の跳梁の前になすすべもないのか? ・・・まいった!こうやってあらすじを書くのもたいそう楽しい(?)すごいストーリーだ。 とにかくのっけから狼男が登場するんだからすごい。変性男子(この表現がまたオモロイ)村越徹が出会ったその男は、眼鏡を二重にかけ(想像し難い)何もかも、皮膚の色まで灰色、耳まで裂けそうな口からのぞく剣の先のように尖った歯を持っているという。きゃあ〜(@_@) こいつを先頭に怪しげな連中が目白押しで、怖いって言うか笑えるっていうか(^_^;)とにかく盛りだくさんだ。 ムッシュー・Qなんてお遊びのキャラを挿入しているのもいいね〜。まさかこの正体が…とは!(おいおい〜) 脇役の無意味とも思われる不審な行動には、なんだか惑わされるが、実は本当に無意味だったのもあるような気が(笑) 狼男の正体は、まさかまさか???と思っていたら、ひぇ〜やっぱりこいつだったの〜(爆)殺人淫楽者の血、ときたか(^_^;) 今回は金田一があざやかな推理を展開する場面がちょっぴりなのが残念だった。とにかく死体のオブジェを山ほど積み上げたままに終わってしまったねぇ。 横溝さん、これ楽しんで書いたんだろうな〜と思うとわたしも楽しい。なにはともあれ、あ〜面白かった♪(笑) |
3貸しボート十三号(湖泥・堕ちたる天女) |
今回は中編を三本。まずは『湖泥』。(「オール読物」昭和28年1月) 二つの神田家、北神家と西神家の確執の原因はもう伝説の彼方なのだが、両家は未だに強く反目しあっている。そこへ一人の美女が絡んで跡取息子同士が恋仇に。北神家との縁談がととのった直後の村祭りの日、美女は行方をくらませた。湖水に浮かぶ彼女の死体を引き上げたのは、村の持て余し者九十郎であった。 死体が発見されたときの異様さと、死体そのものの不気味さがなんともものすごい幕開きで、その後の展開への期待が高まる。 世間が狭いと人間関係も発酵しすぎるのね〜。犯人は異常者だが、それを生み出したのもまた因習にとらわれた村の人々だということか。 しかし義眼というのは・・・ちょっと気味悪すぎ(^_^;) 二本めは『貸しボート十三号』。(「週間朝日別冊」昭和32年8月) そのボートの中を見たとき金田一は全身ゾーッと総毛立った。その様子から、等々力警部が「生首半斬り偽装心中事件」と名付けたこの事件の被害者は異様だった。 まず女。四十前後の年増でレインコートまで着込んでいる。絞殺されたあと心臓をえぐられたらしい。男はぐっと若く二十二、三。なぜかパンツ一つの裸で、こちらは心臓を一突きに殺されているが、そのあと首を締められているのが謎だ。そして二人とも首を半ばまで鋸引きにされているのだ。 やがて男が大学のボート部に所属していたことがわかる。しかも部員たちのアイドルとの婚約がととのったばかりだった。 驚くほどたくさんの人が関わった複雑な事件で、若者たちの証言を通じて彼らの微妙な心理をたどった後、金田一が関係者全員を前にして真相を披露する場面は効果満点。読後感がいいのは登場人物の人柄がみな健全であるからだろう。 悪魔的所業とみえる殺人現場で始まる冒頭から、人間味のある潔い幕切れにいたるまでのバランスがとてもいい。なかなかの傑作と見たぞ! 三本めは『堕ちたる天女』。(「面白倶楽部」昭和29年6月) 道に転がったコンクリート片。それに乗り上げたトラックは荷台から箱が滑り落ちたのも知らぬげに去っていった。箱から出てきたのは石膏細工の人形、その内部には勿論、死体が塗り込められていたのだ。 またまた出たぞ、石膏詰めの死体(笑) 猟奇的殺人かと思われたが実はごく現実的な動機であった、ということを昔馴染みの磯川警部がらみで考えついた金田一の勝利。しかしこの凶悪カップルは実はホモでもレズでもないというのは無理じゃないの?それとも欲にかられるとなんでも出来ちゃうのかっ?この事件では金田一もややお疲れの様子だ。 |
2女王蜂(「キング」昭和26年6月〜27年5月) |
お待ちかね(?)今週の金田一さんは『女王蜂』。 月琴島―それは伊豆の下田から南方へ海上七里、地図にものっていない小島だ。かつて源頼朝の落胤を身ごもった女がこの地に流れ着いて子を産み、連綿として続いたその子孫が現在の大道寺一族だと言われていた。 そして物語は、その末裔、大道寺鉄馬の一人娘琴絵が、伝説に惹かれて島を訪れた一人の学生と恋に落ちたことから始まる。その学生は島の岬の突端、鷲の嘴といわれる断崖から転落して謎の事故死を遂げ、やがて琴絵は月満ちて一人の女児を生んだのだった。 その娘、智子がいよいよ18になり、亡き母の遺言通り東京の養父のもとへ身を寄せることになった。 ところがその養父に対し、「月琴島からあの娘をよびよせることをやめよ」という脅迫文が届けられる。やがて東京へ向かう彼女らが逗留した修善寺の旅館で、一人の男が無残な死を遂げた。 母親と同じように、いやそれ以上に美しく成長した娘、智子。愚かな男どもの心を虜にしてしまう彼女の魅力には、金田一もちょっとクラクラしているようだ。 トリックなどはあまり大げさなものは使っていないが、小技が冴えているという感じで、興味を持続させる。 島そのものを密室に見立てて、ヒントの「蝙蝠」もなかなか気が利いている。殺人現場に鳴り響く美しいウェストミンスターの鐘の音なんていうのにもワクワク。編み目記号を使った暗号も面白い趣向だが、なんで暗号を使う必要があるのかはよく分からない(笑) 登場人物の脚色も心憎いといいたいところだが、ヒロイン智子はいまいちだなあ。どうも面白みがなかった。やはり陰のヒロイン神尾秀子に軍配を上げたいところ。彼女の生き様は潔い。 真犯人にもわるい感情はほとんど持てないままで終わってしまった。しかしこの人物は一体なぜ、金田一がこの事件にかかわるように仕向けたのだろうか。 割と厚い本だが、読後感は軽め。印象もどちらかと言うと明るい。 全体的には『女王蜂』という題名で期待したほどのインパクトはなかったが、全編を貫いているものがたとえ狂気であったとしてもすべて「愛」であるというのが、何かもの狂わしく切ない。 |
1獄門島(「宝石」昭和22年1月〜23年10月) |
とりあえず超入門編ということで『獄門島』。(おいおい、いまさらなんだよ〜(^^ゞ) 昭和21年9月の上旬のこと、備中笠岡から出港した連絡船には年の頃は三十四、五というところ、風変わりなセルの袴(どんなんじゃ?)をはいた小柄な男が、死んだ戦友鬼頭千万太からの手紙をもって、獄門島に向かおうとしていた。 鬼頭家で見つけたのは、月代・雪枝・花子の三姉妹。 亡き鬼頭千万太は息絶える寸前に、この三人の妹が「殺される」と、この男金田一耕助に言い残していたのだった。 島の網元、本鬼頭と分鬼頭の確執もいよいよ激しくなる中で、本鬼頭の跡取の戦死の知らせは「おどろおどろと、岩をかむ波の音のように、遠雷のとどろきのように……」続いて起こる悲劇の前触れとなったのであった。 う〜ん、何でこんな陰惨でおどろおどろしい事件なのに、うっすらと物悲しい情感に満ちているのだろうか。 しかも上品ですらある。 トリックのきっかけとなる芭蕉の俳諧、和尚の造形なども、日本的なココロに訴えられちゃってもう、もう・・・って感じなのである。 「修羅の妄念」に憑かれた真犯人(?)の心情は、大掛かりなトリックの必然性までも納得できるものにはなっていないかもしれないが、そんなことはどうでもいいんだも〜ん。 金田一を赤面させた三姉妹の「くすくす忍び笑い」がいつまでも耳に残るような余韻を残して……(南無) しかし、金田一の兵隊さんって…役に立ったのだらうか(笑) |