《今週の金田一さん》感想一覧

 

30幽霊座(鴉・トランプ台上の首)
今回は中編を三つ。表題作は『幽霊座』(「面白倶楽部」昭和27年11月〜12月)。
じっさい、この劇場のまえに立つとき、ひとびとは一種異様な妖気に打たれずにはいられないだろう…大正の初めに建てられて、震災も戦災もまぬかれた歌舞伎劇場「稲妻座」。昭和十一年、この小屋で、当時若手役者中人気随一といわれた佐野川鶴之助が、人気の出し物「鯉つかみ」の最中に、舞台の水船に飛び込んだまま失踪するという謎の事件が起こった。知り合いだった鶴之助に呼ばれてその芝居を見ていた金田一にもその謎は解けぬまま、時は流れ昭和二十七年、同じ小屋でおなじ演目「鯉つかみ」が上演され、新たなる惨劇がまたもや金田一の目の前で演じられることとなった。
金田一は歌舞伎界にまで知り合いがいたのねっ…ってなわけで、今回は梨園が舞台。とはいってもあんまり華やかな感じではない。なんといっても「小屋がくさっている」と評判の「幽霊座」、もうボロボロなのである。しかし、「鯉つかみ」の舞台装置はなかなか大仕掛けだ。久しぶりのこの演目を演じるのは鶴之助の忘れ形見雷蔵・・この雷蔵が新たなる犠牲者となるのか〜?と思ってたら違った(^_^;)このお話、凝った仕掛けをうまく使ってて面白いな、と思ったけど肝心かなめのところがいまいちいい加減だよね。殺人鬼っていのも安易だし、ちょっと詰めが甘いですよ〜、横溝センセ(笑)
二つめは『鴉』(「オール読物」昭和26年7月)。静養のつもりで訪れた岡山県で久しぶりに磯川警部と再会した金田一。喜んだ磯川警部は良い湯治場に案内するといい、二人はある小さな村の温泉宿を訪れる。実はその村では、三年前に当主の娘婿が失踪するという事件があったのだ。書置きには三年後に戻ってくるとあり、その日が近づいていた。
磯川警部ときたら、金田一をただ静養させようという気はまったくないらしい。可哀相な金田一(^_^;)それにしても、一体誰が何を企んでいるのかさっぱり分からない事件だった。最後にそのいきさつが一気に明かされるのだが、なんともやりきれない悲しい真相だった。事件が解決したって言うべきなのかどうかよくわかんない結末だ。
最後は『トランプ台上の首』(「オール読物」昭和32年1月)。隅田川のおかずや「飯田屋」の宇之助は、その日もアパートの住人に惣菜を売っていた。いつも贔屓にしてくれるはずのアケミが顔を出さないのを不審に思った彼は、アケミの窓から垂れている血を見つけて仰天!さらにトランプテーブルの上からこちらを見ているアケミの生首を発見した。
この作品はいかにも横溝先生らしいって感じだな〜(^^)導入部もうまいし、「そのカード・テーブルのうえに…ちょこなんとのっかっているのは、なんと、血に染まった女の生首ではないか」っ!相変わらず怪しげな登場人物がたくさんでてくるし、金田一の鋭い観察力も冴えてるし、細かいところまで気が効いていて面白かった。しかし、説明はあとにして、早く手配しないと逃げられてしまうような気がするんだけど(笑)
29八つ墓村
今回は『八つ墓村』。たたりじゃあぁ〜。
鳥取県と岡山県の県境にある山中の寒村、八つ墓村。この不気味な名前の由来は、三百八十余年の昔、落武者八人が住み着いたことに端を発する。落人が、黄金に目の眩んだ村人に惨殺されたあと、村には怪事が相次いだ。そして大正十×年、世間を震撼させる大事件が起きたのだ。東屋当主要蔵が突如発狂したのか、村人三十二人を殺して裏山の鍾乳洞へ逃げ込んだのだ。要蔵の行方は知れぬまま、時は流れ、辰弥のもとへ八つ墓村からの使いがやってきた。要蔵の私生児である辰弥にやがては東屋を継いで欲しいとの話に、辰弥はとりあえず村を訪問することに。ところがその使いとして来ていた辰弥の母方の祖父が彼の目の前で毒殺され・・・これが恐るべき八つ墓村連続毒殺事件の幕開きとなった。
突然余談だけど、私が今回読んだのはかなり古い本で、東京文芸社ミステリーシリーズっていうやつ。書き方もちと古めかしく「・・・むろん、山の中のことだから、耕地といつてはいたつて少なく、・・・」なんて調子だが、これがまた雰囲気にぴったりでいいんだよね〜。やっぱり横溝さんはなるべく古い本で読もう!と意味不明の決意をしたりして(笑)
ところでこの作品だが、なかなかロマンチックな話だった。とりたててびっくりさせられるようなからくりはないけど、巧く組み立てられていると思う。双子の婆様とか、鍾乳洞とか、おなじみの小道具も出てきて安心できるし(^^ゞ本格謎解き物としては食い足らない向きもあるかもしれないけど、でも、動機の問題なんか面白いと思ったし(手帳の謎とか…うまく使ってるよね。村にぴったりのいかにも迷信じみた動機、でも実は…これ、よく出来てるわ〜^_^;)
しかし、やっぱり怪奇ロマンチック冒険ミステリーという位置づけがいいのかもしれない。そういう意味では読んでいてとても楽しいし、ワクワクする。長持ちの底の抜孔から鍾乳洞へ続く地下道、無数にのびる枝道の探検、謎の地図、奇妙な地名、隠された財宝、そして洞穴で出会ったのは…素敵なラブ・ストーリー♪
ところで、金田一はこんなことを言っている。「…あえて告白しますが、今度のこの事件では、ぼくにいいところは少しもなかった」「ところがそれでいて私は最初から、犯人を知っていたのですよ」やっぱり、犯人を知ってても、殺人を未然に防ぐのは難しいということなのだろう。…っていうか、やたらと未然に防がれちゃったら、ストーリーとしては面白くないからね〜、事件の進行とともに存在する探偵の役どころというのは、難しいですなあ(*~~*)とはいえ、今回、金田一はやっぱり名探偵なのだった。濃茶の尼の死体のそばの○○は、犯人の小さな失敗(ううっ、ネタバレ?)…分かりやすそうで、分からなかったなあ〜(←みなさんは、分かった?)
28壺中美人(廃園の鬼)
今回は長編と短編を一つづつ。
まずは表題作の長編『壺中美人』(昭和35年9月)。
成城警察署の川崎巡査は、突然逃げ出した女を追っていき刺されてしまう。ほど近いある画家の家で、画家が刺殺されるという事件がおきた夜のことだった。画家の家のお手伝いの女性の証言は金田一を驚かせた。女出入りはいつものことだったらしいのだが、その夜の女は変わっていた。支那人のようなズボンをはき、現場にある大きな壺の中に入ろうとしていたというのだ。それを聞いて金田一は、最近TVでみた「壺中美人」という曲芸を思い出した。たしかにその壺はその曲芸で使われた壺に似ている。その曲芸の女は殺人の夜から行方不明だ。やがて、画家の妻マリ子の証言で、画家のサディステックな性向が明らかになり・・・。
うう〜む、またまたサディストか。横溝センセのまわりにはよっぽどサド男が多かったのだろうか(^_^;)とにかく、奇妙な性向・性癖を持つ人がこんなに出てくると、異常と正常っていう線引きって、実際には出来ないものなのかもねっ、なんて思ってしまう。私の周りのあの人もあの人ももしかして…なんてね(笑)
ま、それはともかく、アリバイだのなんだの、かなり推理小説としての体裁は整っている。うまくつくりあげているんだけど、余分な要素を詰め込みすぎなんじゃないかなあ。あれもこれもいれた〜い、って感じで結局まとまりが悪くなってしまっている感じ。冒頭の宮武たけの証言って一体なんだったんだ?
ブルドックの譲次ははじめ、「こいつってば、感じ悪〜馬鹿じゃん!」なんて思ったんだけど、最終的にはすごく可哀相な存在になっちゃって。それに、それよりもっとかわいそうなのは華嬢だよね。ううむ、イマイチ後味のわるい作品だった。
もう一つは短編『廃園の鬼』(オール読物」30年6月)。
東京での事件をかたずけて、金田一は休養を取るべく信州を訪れた。そこで奇妙な屋敷に案内された金田一も、やがてそこが殺人事件の現場になろうとは夢にも思わなかった。殺されたのは高柳元教授の妻、加寿子。金田一はその事件の直接の目撃者となってしまう。
人物などはよく描かれていると思うし、設定も面白い。しかし、細部まで気がまわっているとは言いかねるのが残念な作品だった。横溝先生に、この作品の骨子を使ってもう一度練り直してもらえたら、きっと傑作になったんだろうなあ〜。
今回はニ作品ともいい線まではいっているのだけど、イマイチ感心することが出来ないという残念な結果に。ホント、おしい!
27魔女の暦(火の十字架)

今回は中編を二作。まずは表題作『魔女の暦』(「小説倶楽部」昭和31年5月)。
金田一は三晩づけて浅草「紅薔薇座」の公演を見にきていた。それというのも、この興行中にある事件が起こるという奇怪な手紙を受け取っていたからだ。はたして、「メジューサの首」という舞台で、衆人環視の中、ダンサー京子が悶死する。その胸には京子の愛人克彦が舞台で使っている吹き矢が突き刺さっていた。劇団内の複雑な愛憎関係に端を発したと思われたこの事件だったが、やがて二人目のダンサーが新たな犠牲者となる。犯人の狙いは、嫉妬か金か?焦点の絞れない連続殺人事件に金田一の苦悩も深まる。
浅草にある「インチキ・レビュー」紅薔薇座。陳腐きわまるストーリーにストリップをふんだんに見せようというものらしい。これを三日続けて鑑賞した金田一、やや食傷気味のようでもあるが、結構楽しんでいたのかも?!(笑)犯人が「魔女の暦」を作ったりして、雰囲気を盛り上げているのは○。ただ、人間関係がちょっと複雑で、頭に入りにくいのが難点か。しかし、読み進めるにつれ、劇団員の個性も書き分けられているし、保険金問題などもでてきて目新しい感じがあり、面白く読めた。視覚的にはちょっと奇をてらいすぎかもしれないけど(^_^;)どうも、私の中では、真犯人の人物像と「魔女の暦」を作ってた人物とがうまく重なってこないんだよね。
もう一つは『火の十字架』(「小説倶楽部」昭和33年4月〜6月)。
金田一の下へ、「哀れな女」からの手紙が届いた。それによると、血なまぐさい連続殺人が起ころうとしてるという。半信半疑ながら、等々力警部とともに予告の現場に出かけてみた金田一は、トランクに閉じ込められたヌードダンサーとご対面。やがて彼女の愛人が凄惨な死体となって発見された。
ストーリーは結構おもしろい。ヌードダンサーと彼女をとりまく3人の愛人との間には、忌まわしい過去を共有するというつながりが…なんていうのは好みの展開だ。「顔のない死体」トリックのうまい使い方にも騙されそうだし、ヌード写真を科学する、なんていうのも目新しい(金田一、なかなかやるな!)。しかし、男女間の乱れた関係には戦時中ということを差し引いてもウンザリ(苦笑)ワタクシのような品行方正な人間にはアンビリーバブルな世界でございまする(爆)

26七つの仮面
(猫館・雌蛭・日時計の女・猟奇の始末書・蝙蝠男・薔薇の別荘)
今回は短編集。まずは表題作『七つの仮面』(「講談倶楽部」昭和31年8月)。
「―いまになってもひとはあたしのことを、どうかすると、聖女のように見える―と、いってくれる」そう、あたしにも聖女と呼ばれた時代があったのだ。だが、パパが死に、上級生のりん子とあの忌まわしい夜を過ごした時から、あたしの人生の歯車は狂ってしまった…。・・・大きな洋傘を後生大事に抱えた、ちぢれっけの醜いりん子の黒い影の使い方がいい味を出している。結末も見事にきまって、短いながらも中身の濃い作品。
『猫館』(「推理ストーリー」昭和38年8月)。絞殺された女占い師の死体の周りにはねこがうようよ…。しかもそのうちの一匹は首が胴から離れそうなほど深くえぐられて死んでいる。お手伝いの老婆も殺されたその現場には、若い女のものと思われる焼けくずれた裸体写真が散らばっていた。・・・うう〜ん、ちょっとこの犯人には納得できないけど(^_^;)
『雌蛭』(「別冊週間大衆」昭和30年8月)。謎の依頼人に頼まれて、金田一は蓬髪をハンチングに隠し、派手なアロハを着てあるアパートへ潜入。ところがそこで金田一が見つけたものは、カップルの無残な死体だった。・・・金田一の変装ぶりが楽しい。これなら人目につかないと思っているらしいけど、かえって目立つのでは?(笑)
『日時計の中の女』(「別冊週間漫画タイムス」昭和37年8月)。流行作家が買った家は、以前の持ち主の愛人が盗みを働いて出奔したという曰く付き。ところがその庭から、その愛人が死体で発見された。・・・作家とその従姉との関係といい、作家の妻の演出といい(金田一を利用しようとしていたのか?)、かなり凝ったつくりの作品で、しかもよくまとまってて面白かった。
『猟奇の始末書』(「週間ストーリー」昭和37年8月)。中学時代の先輩の招きで海岸の別荘にやってきた金田一は、先輩が悪戯にもてあそぶ洋弓が気になっていた。果たしてその弓を使っての殺人事件が起こる。・・・雰囲気はわるくないけど、結末はつまんない。
『蝙蝠男』(「週間ストーリー」昭和39年5月)。受験勉強中に偶然見てしまった信じられない光景。由紀子はシルクハットを被り、羽を広げて立つ蝙蝠のような男が、人を刺し殺すのを見てしまったのだ。・・・しかし、もし由紀子が見てなかったら、全然意味のないことになるんじゃあ…?
『薔薇の別荘』(「時の窓」昭和33年6月〜9月)。戦後派女傑の一人、吉村鶴子が、親族一同および弁護士に私立探偵の金田一までをこのパーティーに呼んだ意図とは?しかも、もう一人謎の招待客があるという。だが、その夜、鶴子はいつまでたっても客の前に姿を見せなかった。・・・登場人物もたくさんいるし、趣向を凝らしているんだから、もっと話を膨らませたら面白いものになりそうな感じ。