このコースは標高日本第2位の北岳を始め、4位の間ノ岳、15位の西農鳥岳など3000mを超えるピークが5座連なる、南アルプス随一の超高層縦走コース。この夏のメインイベントとして7月からずっと機会を待っていたのだが、今年の夏は週末に限って天候が悪く、おまけに台風まで週末を狙ってやってくるので、ようやく北岳に向けて出発したのは、もう夏の終りであった。
北岳だけではなく、3000m尾根の縦走がこのコースの魅力であるが、農鳥岳から奈良田へ下山しても、出発地点の広河原に戻る林道は未舗装路でタクシーも行ってくれない可能性がある。かと言って、この17kmの区間を歩くには時間が掛り過ぎる。おまけに、途中トンネル工事のため1時間に10分間しか通行できないという。奈良田からどうやって広河原に戻るかいろいろ考えた末に、結局下山せずに尾根を引き返して広河原に戻るのが最も速いと判明。往復縦走を1泊2日で行うという、またしてもハードなスケジュールとなった。・このページの紙芝居版”バーチャル登山:白峰三山縦走”はこちらで掲載中です。
99年夏から広河原では自動車の”自主規制”?が行われている模様です(夏だけ??)。広河原に車で乗り入れる際には”規制”の詳しい内容を把握してからお出かけ下さい。
0:15 | 四日市発 四日市東から東名阪に乗り勝川で降りて、春日井から名神に乗り直ちに中央自動車道へ。中央道をひたすら走り、韮崎で降りると、国道52号を南下、”芦安村”への案内を頼りに南アルプス街道に入る。芦安温泉を抜けると、道は狭い山道となり、舗装はしてあるが補修はしてないので、たまに穴ボコが開いていたりする。今回はパートナー氏のオフロード系の車で行って正解であった。夜叉神の長いトンネルを抜け、さらに何度かトンネルをくぐり行くと、目的の広河原で行き止まりとなる。 |
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4:45 | 広河原着 川の方へ降りると両側の空き地が駐車場(無料)となっており、かなり無秩序に車が停められている。駐車場はそんなに広くないので、シーズンの休日は早く着かないと満車になる可能性が高い。 とりあえず、しばらく仮眠。と言っても私は寝られない。横の人は寝ているようだ。 軽く朝食をとって、出発の準備にかかる。 |
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6:10 | 出発 駐車場から見上げると北岳のバットレスが朝日を浴びて金色に輝いている。大樺沢の奥にそびえる標高日本第2位の北岳だが、手前にある、沢に張り出した尾根の方が高く見えるので、それほど高さは感じない。広河原との標高差は1700m位。数時間後にはあの頂きに立つはずだ。吊り橋を渡って、山荘の横から山道に入る。登山道は、この大樺沢に沿って登って行くので水場も多く、”水の豊かな南アルプス”を印象づける。水が豊富過ぎて一部道が川になっていたりする。北岳を見上げながら、沢沿いを登っていると、ふと岳沢からの穂高の登りを思い出した。 しばらく林の中を歩いた後に再び沢に出て、正面にバットレスが大迫力で見えると、”オォ〜”と思わず声が出てしまう。声が出たら大樺沢二俣はもうすぐ。 |
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8:10 | 大樺沢二俣 二俣から見上げると、ゴツゴツした武骨なバットレスも、右手に突き出た丸い八重歯がなかなかかわいい。振り返ると、鳳凰三山が少し霞んで見える。 ここ二俣で、頂上へ右手から廻り込む”右俣コース”と、左手から廻り込み”八本歯のコル”を経由する”左俣コース”に分かれる。八本歯のコルを通るのが最短距離であるが、そのぶん急登である。八本歯のコルは帰りに通ることにして、我々は右俣から登った。 沢と別れると、樹林帯の中を登って行く。登るにつれ傾斜がだんだんきつくなってくる。時折向かいの鳳凰三山が望めるが、雲が掛かって霞んでいる。 40分ほど歩くと、樹林帯を抜けて一気に視界が広がり、二俣から見えたバットレスの”八重歯”の丁度横に出る。横から見ても丸くてかわいい。北岳とこれに連なる小太郎尾根を見上げながら、最後の木陰で小休止。早くもガスがバットレスを登り始め、頂上がガスの中に入ってしまった。 ようやく小太郎尾根にでると、目の前に仙丈岳が扇のように広がっている。右手には甲斐駒ヶ岳が、まるで雪を頂いたように白く美しい円錐形の山頂部を覗かせている(写真では半分雲が掛かっており、残念)。 尾根にでると、一気に視界が広がり、南アルプスの山々が見渡せるようになるので、これまでの急登の疲れが吹っ飛ぶ。尾根をしばらく歩くと北岳肩の小屋に到着。 |
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10:25 | 北岳肩の小屋(大休憩) 狭い尾根に建つ小屋の前からは、鳳凰三山が正面に見えるはずであったが、東側斜面からガスが上がってきて東方向は真っ白であった。甲斐駒も東側から雲に覆われている。仙丈は、東側に北岳があるせいか、雲もなくきれいに見えた。 |
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10:50 | 休憩を終え出発 小屋の左横をすり抜けて尾根を行くと、ややガレて登りもきつくなる。岩山を何度か乗り越えると、標高日本第2位の頂きに出る。 |
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11:20 | 北岳頂上(標高3192m:日本第2位)昼食 北の方には甲斐駒ヶ岳が白い特徴的な山頂を覗かせている。なんとなく登って見たくなる容姿である。東の方向は、あいかわらず視界が悪いが、昼食の間に一瞬雲が晴れることもあり、鳳凰三山を望むこともできた。甲斐駒同様、山頂付近の花崗岩がまるで雪を頂いたように白く見える。西の方の仙丈岳だけはいつも奇麗に見えている。南の方向には、これから歩いていく、標高3000mの尾根が間ノ岳へ続いている。農鳥岳は間ノ岳の東斜面を登る雲に隠れて見えないが、右手遠くには、塩見岳のシルエットが見える。南東方向に見えるはずの富士山は雲の中で全く見えない。 |
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12:10 | 昼食を終え出発 北岳に上がってしまえば、あとは標高3000mの尾根を歩くのは楽なものと思っていたが、尾根の鞍部にある赤い屋根の北岳山荘は、はるか下に見える。高低差は300m近い。尾根道はガレていて、振り返ると北岳の山肌も、岩がむき出しになっている所が多く、荒々しいが魅力的である。 ガレた道を30分ほど下ると、広い鞍部に建つ北岳山荘に到着する。狭い尾根に建っていた肩の小屋と違って、こちらは敷地も広く大きそうだ。 今度は山荘から約150m高い、尾根途中のピーク、中白峰に向かう。我々はいつもペースが速い方で、人を追い越すことはあっても追い抜かれることはなかったのだが、朝からの急登と北岳からの下りで、さすがに登りになると、足が重くなってきた。そこへ、北岳山荘に荷物を置いてきたおばさん達がすごい勢いで迫ってきた。いくら空荷といえ、おばさん達に抜かれるわけにはいかず、懸命にピッチを上げ辛うじて中白峰頂上に逃げきった。 |
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13:25 | 中白峰頂上(標高3055m) 大樺沢から見上げた北岳は、ゴツゴツした不格好な印象であったが、尾根から見た北岳は、背後に甲斐駒、左に仙丈、右に鳳凰三山(残念、雲で見えない。)を従え、左右に裾野を広げた均整のとれた美しい山に見える。 北岳から見た中白峰〜間ノ岳は、尾根を”まっすぐ”歩けば行けそうに見えたが、中白峰から見ると尾根は一度下ったあと、大きく登っている。 |
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14:30 | 間ノ岳頂上(標高3189m:日本第4位)大休憩 ようやく雲が晴れて右に鳳凰三山を従えた北岳を見ることができた。 また、これまで間ノ岳に隠れて見えなかった西農鳥岳を初めて見ることができた。西農鳥岳も標高3000mを超えているが、間ノ岳頂上から見ると、眼下に見えてしまう。 あとは、農鳥小屋へ降りるだけなので、ゆっくりと休憩。北岳は人が多かったが、間ノ岳まで来る人は少なく、のんびりできた。 |
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15:00 | 休憩を終え出発 小屋まではガレた道を300m以上下らなければならず、さすがに足に堪える。明日はここを登るのかと思うと、なおさら足も重い。 |
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15:45 | 農鳥小屋着 ようやく小屋に到着。最近は山小屋と言っても非常に奇麗で、山の上とは思えないほど設備が充実している小屋が多いが、この農鳥小屋は文字通りの”山小屋”で、食事も至って質素である。戸外にあるトイレに行くにも、建て付けの悪い重い引戸をギコギコ開けなければならないので、夜中も誰かトイレに立つ度に一同寝返りを打つという状態で、いつものことだが良く寝られなかった。 |
97. 8.30 晴れ のち 曇り
5:25 | 出発 朝1番に、”新潟に大雨注意報がでている”との報が入り騒然。空は少し曇っているものの、雨が降りそうには見えないのだが、雨が降る前に下山しようと、皆慌てて出発した。我々は、農鳥岳まで行ってまた戻ってくるので、荷物を小屋に置かせてもらって、空荷で出発した。 雲が多く、日の出も見えない。わずかに赤みを帯びた雲海の中に、山が島のように浮かんでいる。 |
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5:55 | 西農鳥岳頂上(標高3051m:日本第15位) 西農鳥岳頂上に着く頃には少し薄日も射してきた。眼前には、薄衣をまとった塩見岳、荒川岳が美しく見える。振り返ると、両肩に仙丈岳、北岳を覗かせた間ノ岳か堂々と広がっている。西の方には、木曽駒ヶ岳、空木岳などの木曽山脈も望めた。 農鳥岳は、”西農鳥のすぐ横”と思っていたが、ガレ道を行けども行けどもなかなか到達しない。小さなピークをいくつか乗り越えてようやく農鳥岳頂上に到着。 |
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6:30 | 農鳥岳頂上(標高3026m)大休憩 ようやく日が射してきて、塩見岳、荒川岳が鮮やかに照らし出された。また農鳥岳は、南北に延びる北岳-間ノ岳の尾根から東にずれているので、間ノ岳と北岳が並んで見られるが、恰幅のよい間ノ岳に比べると、北岳はずいぶん脆弱に見える。 残念ながら東の方は雲が厚く、富士山は頭の先だけしか見えない。しばらく雲が晴れるのを待ったが、あきらめて帰路に就いた。 |
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6:55 | 休憩を終え出発 来た道を辿り、西農鳥岳に戻る。途中、振り返ると、富士山が先ほどよりも頭を出している。 |
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7:25 | 西農鳥岳頂上(標高3051m) 山を美しく見られる時間は非常に短い。”山の天気が良いのは午前中だけ”などと言われるが、朝晴れていても麓から登っていては、頂上に着いた頃には”雲の中”ということになることが多い。その晴れている朝の間に、朝日を浴びた美しい山の姿が見られるのは、山小屋に泊った者だけの特権だ。 ところがその最も山が美しい時に、フィルム切れのため、写真が撮れなかった。残念。フィルムを置いてきた小屋に戻る頃には早くも東斜面からガスが登り始めてしまった。 |
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8:00 | 農鳥小屋 重い荷物を背負って再出発。昨日からの疲労と、空荷の間ハイペースであったこともあって、標高差400m近い間ノ岳の登りは足に堪える。 |
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9:25 | 間ノ岳頂上(標高3189m)大休憩 東斜面からガスが登り、西農鳥、北岳は半分以上雲の中だ。朝見えていた木曽山脈も、雲の中にかき消されてしまった。仙丈岳だけは、東側を北岳でブロックされているためか雲がかからず奇麗に見えている。 |
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10:00 | 休憩を終え出発 中白峰で折り返し北岳に向かう尾根道は、まさに縦走の醍醐味、壮観であるが、残念ながら北岳は半分以上雲の中になってしまった。 |
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10:35 | 中白峰頂上(標高3055m) 今回の登山最期のピークからの展望をゆっくり噛み絞めたかったのだが、北岳も間ノ岳もほとんど雲の中になってしまったので、そそくさと中白峰を後にした。 |
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11:10 | 北岳山荘 大休憩 | |
11:30 | 休憩を終え出発 いよいよ、尾根道と別れて下山路に就く。雲の中にいた北岳もお別れに半分顔を出してくれた。 帰りは”八本歯のコル”を通るルートで下山するために、北岳山荘から”トラバース道”と呼ばれる道へ入る。この道は雲の中の北岳の東側に廻り込むので、辺りは真っ白。少し肌寒い。残念ながら、道脇の花は見頃を過ぎ、皆茶色っぽくなっていた。半月早く来れば、さぞ奇麗だったろう。道は木製のハシゴが架けられた岩場をいくつか下りながらトラバースし、山頂からの道との分岐点に出る。ここからしばらく、大きな岩がゴロゴロする岩場を下ることになる。これは、”八本歯のコル”ルートで登ってくる人にとっては、北岳山頂への最期の試練となる。沢からコルへの急登のあと”八本歯”のアップダウン。そしてこの岩場。登ってくる人はさすがに皆参っているようで、”ひと岩越えてはひと休み”という状態であった。 |
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12:10 | 八本歯のコル 小さなピークを連続していくつか乗り越えるこの八本歯のコルは、登り下りが急であるため木製のハシゴが架けられている。右手には、間ノ岳が望めるはずであるが、ガスが尾根のすぐ横まで迫り真っ白。左手を見下ろすと、大樺沢のはるか奥に登山口の広河原が霞んで見える。 八本歯のコルから大樺沢に出るまでが、また急下降で、またしても木製のハシゴが連続する。登ってくる人は皆うんざりしている。 我々は昼食を取るために、コルから少し下った所にあるはずの水場を探して北岳山荘から歩き続け、ようやく大樺沢に出たが、水は流れていない。そこへ、沢で怪我人がでているとの知らせが入った。我々も下山したら救援を要請するよう頼まれたが、登山口まではまだ2時間以上かかるので、北岳山荘の方が近い。八本歯のコル付近に携帯無線で交信している人がいたことを伝えて登りの人に連絡をお願いした。 |
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12:40 | バットレス下の水場で昼食 沢をしばらく下って、バットレスからの沢と合流する付近で水の流れを発見。ようやく昼食にありつくことができた。 右俣から見上げたバットレスはハイマツであろうか緑が多かったが、左俣から見上げるバットレスはかなり岩が露出しており、全体がひとつの岩でできているように見える。 |
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13:30 | 昼食を終え出発 途中、怪我をして歩けなくなり、道脇で救援を待っている中年夫婦に会った。上では”奥さんが骨折した”と聞いていたが、それほど痛がっている様子はなく、捻挫のように見えた。 |
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13:55 | 大樺沢二俣 ここで行きの右俣の道と合流。この先は行きと同じ道を下る。登りはずいぶん時間が掛かったような気がしたが、下りは早く感じる。水場も多いので顔を洗うなど小刻みにリフレッシュしながら下る。 |
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15:30 | 広河原帰着 下る途中、救助隊とすれ違わなかったので、”日が暮れてしまうのでは?”と心配になり、広河原に着くとアルペンプラザに直行したが、”間もなくヘリコプターが出動する。”ということでひと安心。コーラで乾杯して無事の下山を祝った。 |
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15:50 | 広河原発 帰路は国道52号を清水まで南下してみたが、国道は渋滞で思うように進まない。本当は、夜中に走る”行き”にこのルートで行って、”帰り”は中央道で帰った方が効率的だ。清水から東名高速で帰った。 |
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21:45 | 四日市帰着 |
四日市東-勝川(片道) | 東名阪 | \1,300 |
春日井-韮崎(片道) | 名神-中央道 | \5,350 |
清水-名古屋(片道) | 東名高速 |
\4,250 |
名古屋-四日市東(片道) | 東名阪 | \1,300 |
走行距離 | 往復 | 700km |
宿泊料(1泊2食付) | 農鳥小屋 | \6,500 |
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