作家別・宮本 輝
みやもと てる:1947年、兵庫県に生まれる。52年「泥の河」で第3回太宰治賞、53年「螢川」で第78回芥川賞、62年「優駿」で第21回吉川英治賞受賞。
著書に、「幻の光」「道頓堀川」「青が散る」「流転の海」「ドナウの旅人」「彗星物語」等多数。
彼は「結核」と「不安神経症」という病を引きずって、生死の恐怖と闘ってきた経緯からか、人間への優しさと慈しみが作品に反映されていると思います。
反面、毒のようなモノもあり、それが陰影のある、奥深い魅力となっていると思います。

「錦繍」 新潮文庫

「前略、蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。」
これから始まる、男女の手紙のやり取りだけで終始する、わりと珍しいかたちの小説です。
亜紀と靖明・・・かつて結婚していた2人が、十何年ぶりかで、全く偶然に再会します。
往復書簡というかたちで、過去の謎、欠落していた感情を埋め合わせる努力をした後、やがて2人は未来に向けて歩み始める・・・

この作品は、亜紀の事情と靖明の事情が折り重なっているので、人によって感銘を受ける部分は違ってくると思うのですが、私は女性と言う立場から、亜紀の現在の事情と生き方にとても心うたれるものを感じました。宮本輝は「人間の業」というテーマを常に掲げている人だと思うのですが、亜紀も、自分の業というものを意識し、何がなんでも「今」を懸命に、真摯に生きようとしています。

人間はその時々刻々と変貌していく不思議な生き物で、その人間の生と死は表裏一体のひどく身近な事として描かれており、だからこそ、命の火を懸命に燃やし続けようとする主人公達の生き様が、モーツァルトの音楽と共に心に染みわたる作品です。

この「錦繍」を読んで、宮本輝の世界に大はまりしてしまい、何十冊と彼の作品を読み漁った訳ですが、やっぱり「錦繍が」私の中では、代表作!
一番好きな作品です!
オススメ度★★★★☆

「優駿」 新潮文庫

もう十年くらい前に読んだこの作品、ストーリーをすっかり忘れていたので、この度読み返しました。やっぱり、泣いた・・・
サラブレッド・・・「生き物はみなそれぞれに美しい。だが、人為的に作り出されてきた生き物だけが持つ不思議な美しさというものが確かにある。サラブレッドの美しさが、その底に、ある哀しみに似たものをたたえているのは、他のいかなる生き物よりも、過酷な人智による淘汰と、その人智だけでは到底計り知ることの出来ない生命の法則との対立によって生み出されてきたからなのだ」(本文抜粋)

北海道の小さな牧場で生まれたサラブレッド「オラシオン」。オラシオンの無事な誕生と輝かしい未来を祈る、牧場主の息子、渡海博正、馬主となる大阪の会社経営者、和具平八郎と娘の久美子、その秘書の多田時夫、騎手の奈良五郎。彼らの運命と、内奥の物語を巻き込みながら、オラシオン誕生の時から、ダービーまでの3年間を各章ごとに視点を変えながら、描かれています。

競馬の世界の奥の深さに引きずり込まれていきます。馬主、調教師、厩舎、騎手、生産者、そして観客。それぞれの計り知れない夢を背負いつつ、また、人智を越えるものの存在を感じさせられる、競馬。始めての方でも解りやすく解説されているので、すんなりと入っていけると思います。
後半、皐月賞からダービーに立ち向かっていくあたりからは、読む者にさえ緊張感と圧迫感を与え、息詰まるような騎手達の駆け引きと臨場感に、どうにも止まらなくなること請け合いです!
読後、登場人物達の生き様を想い、清々しい気持ちにさせられるあたり、これはやっぱり「青春小説」とよぶにふさわしい作品かな、と思います。
オススメ度★★★☆☆

「月光の東」 宮本 輝  中央公論社

「月光の東」は新刊本コーナーへ

lookこの作家「てるちん」コーナーは、まだまだ続けるつもりです。また見に来てね!