今回の日本脳炎ワクチン中止について

 5月30日に「日本脳炎ワクチン中止」という報道がいきなり出てびっくりされたことと思います。我々小児科医にも全くその通知はなく、皆様ばかりでなく我々にとっても「寝耳に水」の状況でした。その後通達が来ていろいろな経緯がわかりましたので皆様方にご説明してみたいと思います。
 日本脳炎は、水田に住むコガタアカイエカという蚊が日本脳炎ウイルスを持っている豚を刺したあとにヒトを刺して感染する病気で、感染すると100人から1,000人のうち一人ぐらいが発症します。ただし一旦発症すると約三分の一は死亡、三分の一は障害を残すと言われています。かつては年間5,000人くらい発症していましたが、最近では激減して、ここ数年の日本での患者発生は年間10人以下になっています。
 その一方で、現在の日本脳炎ワクチンはその製造過程でマウス(はつかねずみ)の脳を使うため、製品の中にマウスの脳の成分が混入する危険性があると言われています。今回問題となっているADEM(急性散在性脳脊髄炎)という痙攣などを起こす重症の副反応は、日本全体で年間1件程度発生することが前々から知られていましたが、それが原因の可能性も否定できないと考えられていました。ただし、今までは軽症の子ばかりだったのですが、昨年山梨県で発症したADEMの子は後遺症を残すほどの重症で、それがワクチンと関係ありと推定されました。
 5月20日に「化血研」という製薬会社からマウスの脳を使わない製造方法によるワクチンの製造承認が厚生労働省に提出されました。厚生労働省は、新しいワクチンが使える準備段階が整ったからには、現在のワクチンを使わないようにしようという意向があるのではないかと思われます。つまり、日本脳炎が発生しなくなったからワクチンがいらなくなったというわけではなく、新型ワクチンの登場まで一時期中止しておこうということではないかと推測しています。
 厚生労働省は以前薬害エイズにおいて、危険性が少ないと考えられた加熱製剤という薬がありながら危険性の高い非加熱製剤を投与し続けたことが過失にあたるということで訴訟になっています。その状況を反省して、ADEMの危険性が少ないワクチンが準備段階に入ったからには、マウスの脳を使っている現在の古いタイプのワクチンを当面中止することの方が好ましいと判断したのではないかと思われます。
 より安全と考えられる新型ワクチンが売り出されたらまた接種再開(来年か再来年か?)になりますので、その後の発表を待ちたいと思います。それまでは積極的には接種しない方がよいと考えます。ただし、短期だとよいのですがあまりにも中止期間が長いと、日本脳炎を発症する人がまた増える可能性もあるかと思います。また、東南アジアなど日本脳炎の流行地域に転居する人はやはり現在のワクチンを接種した方が安全と思われます。