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   去り行く夏へ… 回想 〜 2001/9月のカレンダーより 〜



もう30年くらい昔のこと、その為記憶も曖昧なのですが‥‥
子供の頃、家族揃って海辺の親戚(知人かも?)宅にお邪魔した時の
想い出話をご紹介致します。



訪問先で延々と話し込む両親に業を煮やした幼き姉弟…
そんな二人が脱走を企て意気投合!
会話に夢中な親の目を盗み、海岸探検へと出発しました。

道路を挟んだ堤防の彼方には真っ青な空が広がり、
遥かなる水平には綿菓子の如く盛り上がった夏雲が
所々で白銀の輝きを放っていました。
海辺を目指した僕等の眼に最初に映り込んだ情景…
今思えば、それは絵葉書のように色鮮やかな夏のシーンでした。

やがて覗き見た堤防越しの海面は、海底の石ころや
砂地の紋様までも、僕らが容易に見通すことを許してくれました。
水深が浅かったのか?
それとも海水の透明度が高かったからなのか?
ギラギラと強烈に照り付ける真夏の陽光は
一切のストレス無く水底へと導かれていたのです。

当時の美しき海辺の姿は、好奇心旺盛な二人にとって
ある意味、格好の遊園地だったのかもしれません。
波音・潮風・砂浜・貝殻・堤防・魚網‥‥
大自然とそこに生きる人々の営みが与えてくれた
飽く事の無いシーンの連続‥‥。
そんな魅惑の光景が、
瞳輝かせる姉弟の前に次々と展開していったのです。


夢中で海辺を探索し、
いったいどのくらいの時間を過ごしたのでしょうか?
やがて遠くで、僕らを探す母の呼び声がしました。
逸早くそれに気付いた姉は、
返事と同時に両手を懸命に振る仕種。

そんな時でした…大声で母に答える姉の傍らで、
キラリと眼に飛び込んできた不可思議な輝きがありました。

僕の視線を奪ったもの…それは
白砂に半分埋もれたラムネの空瓶でした。
その妖しげな輝きと涼しげな色合いは
揺らめく水中に違和感なく融け込み、
石積み波止のすぐ横にしゃがんで海を覗き込んでいた
僕の心を一瞬で捉えたのです。

母の下へと何度も促す姉を尻目に、
じっと動かない…いや、動けない自分。
そう、まだ幼かった僕にとって瓶中のビー玉は
まさに魅惑の宝物でした。

手を伸ばせば届きそう…だけど全然届かない…
欲しいよ…でも落ちちゃう…濡れると怒られる…
幼心にそう思い、おそらくグッと堪えたのでしょう。
迎えに来た母の声が次第に近づくなか、
ずっと見つめるしかなかったラムネ瓶。

それは青く透き通った海中に僕の心を捉えたまま、
いつまでもゆらゆらと煌いていました。



何故でしょう…
心のアルバムに大切に仕舞われたかのように、
あの日の情景は今も懐かしき記憶のページとして
今なお僕の心に残っています。
(淡い記憶に浮かぶ海の姿は今よりずっともっと綺麗で、
そこに生きる小魚や海草やその他のあらゆる命脈を
見事なほど鮮やかに浮び上がらせていたように思います)

さて、皆様はこの夏を如何お過ごしになられたコトでしょう。
記録的猛暑だった今夏、暑さに促され…
子供時代の想い出が甦ってきたりしませんでしたか?
時には幼き日々の残像を心の中で辿り、
あの頃の自分と心の再会っていうのも良いかもしれません。



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