Natsuyume Yawa SOUND COLLECTION / KID ファンタジー、メールヒェン、あるいはフェアリーテール。そう呼ばれる お話を作ってみたいと思っていました。できればまがいものでなく、力の 限りにおいて「本物」に近づけたら、と。無論力及ばぬ私の筆では背伸び しすぎの高望みではあります。が、ゲームというメディアには絵、そして 音楽、という強い力があります。私のつたない文章だけでは及ばない部分 を補い、あるいは何倍にも膨らませてくれる力強い味方です。そのことが、 この『夏夢夜話』をゲームというジャンルで形にしたい、と考えた大きな 理由でした。 この、一風変わったお話しには、どんな音楽がふさわしいのか。株式会社 KIDさんから「BGM指定をしてみませんか」というお話しが来たとき、考え 込みました。実は企画段階からある程度のイメージはあったのですが、な にしろ音楽はずぶの素人が考えること。私などが口出ししていいものか…… ですが、これほど思い通りに作った企画が通ることはもう二度とないんじゃ ないか、と思ったとき、図々しくも引き受けることにしてしまったのです。 最初にお願いしたことは「アコースティックな響きに近づけてください」と いうことでした。たとえばドラムセットや、電気的に増幅されることを前提 とした楽器の音は『ファンタジー』にはふさわしくないのではないか、と思 えたからです。イメージとしてはオーケストラ、あるいは前世紀初頭に作ら れたリモネールなどをはじめとするフェアグランド・オルガン、オルガニート 、オーケストリオンなどの自動演奏楽器、オルゴール、それから大道芸人の 手風琴などの響き。曲調は、たとえばバロックやロマン派、印象派の音楽に 近いもの―――そんな無茶な依頼でした。 ―――完成した音楽は私の漠然としたイメージをはるかに超えていました。 もし夏夢夜話をプレイしてくださったみなさんが、不思議な世界の風や空の 色がすこしでも感じられたのなら、それはグラフィックタ、そしてここに収録 されているBGMの力です。制限の多いお願いの中で最高の曲を創り上げてくだ さったキューブの皆様に心からの感謝を捧げます。 そうして、この素晴らしい曲の数々を耳にしたみなさんの心が、わずかな時間 でも、もういちど夏夢夜話の世界をさまようことがあれば―――制作の末端に 関った人間として、これに過ぎる喜びはありません。 【水無月知宏】