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(要旨)
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 中堅メーカーA社は自社製品及び関連商品の紹介と販
売を行うウェブサイトを解説することになった。その企
画・開発はA社の他に数社の広告代理店やSIベンダの
B社等で共同して行われることになった。実際の作業は
各社でそれぞれ行っていたが、全体の計画が大幅に遅延
し、完成の見込が立っていなかった。
 私は本件の原因を調査すべく監査を行い、以下の問題
点を指摘した。
・開発者間の連絡ルールや責任が明確になっていない。
・開発標準が明確に定められておらず、責任者すら決め
 られていない。
・全体の進捗を管理する責任者が定められていない。
 私は以上の結果から、プロジェクトを一旦中断して、
責任体制を明確にした上で再開するよう勧告した。しか
し部門長は中断の決断が下せず、開発作業は滞ったまま
である。
(400字ライン)
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(設問ア)
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1.A社ウェブサイトの概要と分散開発の状況
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1.1.A社ウェブサイトの目的と概要
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 中堅メーカーであるA社の経営陣には、情報通信技術
の導入に遅れを取ったという焦燥感があり、昨年夏に新
しい部を作って、e−ビジネスに参入することになった。
A社では独自のドメインを取得し、ウェブサイトを開設
して、自社製品や関連商品の紹介と販売を行うことにし
た。昨秋にまず、自社製品の紹介や検索ができるページ
を公開し、次に自社製品の販売ページを開設、そして、
年末までには提携企業数社の協力を得て関連商品の紹介
や販売のページも完成する予定であった。
 ところがA社ウェブサイトの製作は遅れに遅れ、年末
にやっと自社製品販売ページの一部が開設されたが、不
具合があり、順調に稼動していない。関連商品のページ
に至っては、いまだ完成の目途が立っていない。システ
ムコンサルタントとしてA社の子会社の業務革新に当た
っていた私は、急遽このシステムの検証を依頼された。
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1.2.A社ウェブサイトの分散開発状況
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 A社の担当部門には情報システムの専門家はおらず、
また十分な企画力もない。A社ではウェブサイトの企画
を数社の広告代理店等に依頼し、画面のデザインについ
ては、各代理店の子会社や専属デザイナーが担当してい
る。システムの開発はSIベンダのB社に発注している
が、B社はシステムの設計やサーバの管理が主な業務で
ある。本システムには種々のパッケージソフトを組み込
んでいるが、それらのカスタマイズは各パッケージソフ
トのメーカーに依頼している。また、独自に開発するシ
ステムのコーディング等についてはB社の下請会社数社
が担当している。
(設問ア 725字ライン)

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2.分散開発によって生ずるリスクとコントロール
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 本件のような分散開発にあっては、以下のように様々
なリスクが考えられる。それを低減するためには、各々
の項に記したようなコントロールが有効である。
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2.1.関係者間の意志疎通の不足
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 A社、B社、広告代理店等の担当者は普段それぞれの
会社で作業しているため、相談、質問、議論等が随時で
きる環境にない。意志疎通が不十分であると、A社の意
図したものと、完成したシステムが合致していないこと
もあり得る。実際、完成した商品検索機能が、A社の商
品特性上不適切な構成になっており、再開発によって全
体の計画を遅延させている。
 このようなリスクを低減させるためのコントロールと
して、以下の事項が挙げられる。
1)関係各社等にそれぞれ連絡担当者を置き、連絡の窓口
 と責任を明確にする。
2)定期的に会合を持ち、方針や進捗状況の確認を行う。
 また、会合の内容は議事録にまとめ、速やかに各関係
 者に配布する。
3)試作したページ等は関係者のみがアクセスできるサー
 バにアップし、迅速に確認させるルールを定める。
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2.2.システム開発標準の不徹底
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 本件では、概ね分野毎に別々のスタッフが企画・開発
を担当している。しかし、完成したページの中には、利
用者から見ると同一または類似の機能を持ったものがあ
る。このような場合、開発標準を徹底しておかないと、
結果として利用者が戸惑うシステムになってしまう。実
際、公開直前のテストでこのような不整合が発見され、
当該ページの公開が1週間遅れたことがある。
 このようなリスクを低減させるためのコントロールと
して、以下の事項が挙げられる。
1)開発標準の制定・改訂の責任者を定め、改訂毎に必ず
 全員に配布して、差し替えを徹底させる。
2)品質管理責任者(1)と同一人物が望ましい)が全ての
 試作物について、開発標準の遵守状況を確認する。責
 任者は確認結果について関係者に報告し、確認させる。
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2.3.進捗管理の不徹底による遅延
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 企画・開発の各段階が多くの人間によって別個に進め
られているため、僅かな行き違いの積み重なりが、全体
の大幅な遅延につながる危険性がある。実際、作業日程
や優先順位の勘違いに、特定の作業の遅れが重なって、
全体の日程の大幅なみ直しに至ったこともあった。
 このようなリスクを低減させるためのコントロールと
して、以下の事項が挙げられる。
1)企画・開発全体を統括する責任者(プロジェクトマネ
 −ジャ)を定める。
2)プロジェクトマネージャが進捗状況を確認し、定期的
 に報告書を発行し、関係者全員に配布する。

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3.コントロールの適切性を確かめるための監査手続
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 前章で述べたコントロールの存在、妥当性、遵守状況
を確認するための監査手続について述べる。
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3.1.関係者間の意志疎通の監査
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1)連絡担当者と連絡の記録
 関係各社にそれぞれ連絡担当者が置かれていることを
確認する。そして必要な連絡がこの担当者を通じて正し
く行われていることを記録やヒアリングによって確かめ
る。
 実際に調査したところ、各社ともに連絡窓口が明確に
なっておらず、各自が無秩序に連絡を取り合い、記録も
殆どなされていなかった。
2)定期的な会合と議事録
 会合の実施状況を記録の調査やヒアリングにより確認
し、議事録の存在を確認する。また議事録やその他の記
録、あるいはヒアリングにより会合の内容について調査
する。
 実際、毎週1回A社に関係者が集合して会合を持って
いたが、議題や進行予定が不明確なまま開催されており、
議事録も作られていなかった。
3)試作ページ等のアップロード状況
 試作が完了したページ等がサーバにアップされた記録
と、関係者によるアクセスログを収集する。
 A社のサイトの場合、各広告代理店がデザイン製作完
了後自社のサーバにアップする。これが確認された後、
B社に転送されてデータベースとの連携やリンク等の開
発が行われている。しかし、その転送の際のルールが明
確に定められていないため、B社に転送された後に代理
店のサーバを修正した結果が最終製品に反映されていな
い等の問題が発生していた。
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3.2.システム開発標準の徹底の監査
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1)システム開発標準の制定・改訂と責任者
 開発標準の制定・改訂の責任者の存在と最新の標準の
配布状況を、記録の調査及びヒアリングにより確かめる。
 本件では、実際にはこのような責任者は定められてお
らず、明確な開発標準がないままに開発が進められてい
た。
2)品質管理責任者の存在と開発標準遵守状況
 品質管理責任者の存在と、開発標準の遵守がチェック
されていることを記録の調査及びヒアリングによって確
かめる。
 本件では、実際にはこのような責任者は定められてお
らず、遵守状況の確認以前に標準さえ不明確であった。
そして、最終段階になって担当者の一人が不具合に気付
き、開発が大きくて戻りした記録が3回確認された。
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3.3.進捗管理の監査
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1)プロジェクトマネージャの存在の確認
 企画・開発の全体を統括し、進捗状況を管理する責任
者の存在を記録等で確認し、本人にヒアリングを行う。
 ところが、本件ではこのような責任者は定められてお
らず、ここの作業の担当者が別々に管理をしていた。
2)進捗状況の確認と報告
 責任者が定期的に進捗状況を確認し、関係者に報告書
を配布していることを確認する。
 しかし、本件では上述のように責任者が定められてお
らず、報告書は作成されていなかった。

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4.改善勧告と現在の状況
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 私は以上の体制のままでは、A社のウェブサイトが一
定以上の品質で完成することは当面不可能であると判断
した。私は部門長に対して開発を一旦中断し、プロジェ
クトチームを編成しなおして、各々の責任やルールを明
確にしてから再開するよう勧告した。しかしA社では開
発中断の決断を下せないまま続行しており、いまだ完成
の目途が立っていない。
(設問イ・ウ 2800字ライン)





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