Click here to visit our sponsor



---------------------------------------------------------------------
(設問ア)
---------------------------------------------------------------------
1.X社の情報システムの概要と問題点
---------------------------------------------------------------------
1.1.X社の業務と監査対象となる情報システムの概要
----
 X社は中堅酒類メーカーの子会社で、グループ企業の
社員等に対して酒類を販売する、年商約5億円の株式会
社である。X社で販売する酒類は全て親会社から仕入れ
ていて、通常は在庫を持たずに即日出荷している。しか
し、同じ商品を多数の人に販売するキャンペーンなどの
ために、まとまった数量を引き取って、在庫に入れてか
ら払い出すことも少なくない。
 X社では一昨年秋に西暦二千年問題対応措置をきっか
けに新しい販売会計システムを導入した。このシステム
は市販のパッケージソフトを利用したもので、仕入伝票
と売上伝票等の入力をもとに、在庫管理や会計データの
出力等を行うものである。経理担当者が毎日の伝票を入
力し、月次及び年次処理で会計用の帳票や在庫表を印刷
している。
----
1.2.会計監査で指摘された当該システムの問題点
----
 昨年度の会計監査において、当システムで処理された
会計データと在庫表についての調査が行われた。その結
果殆どの項目で大きな問題は指摘されなかったが、在庫
表の在庫金額の正確性に疑問が持たれた。X社では月単
位の総平均法で在庫品の単価を計算しているが、会計監
査人の試算と一致しない商品がいくつか発見されたので
ある。
 X社監査役はこの点を重視し、仕入の入力と売上時の
払出の入力処理のコントロールを中心にシステム監査を
実施することを決定した。X社の親会社のシステムコン
サルタントである私は、X社監査役からの依頼により、
当システムの監査を担当した。
(725字ライン)

---------------------------------------------------------------------
(設問イ)
---------------------------------------------------------------------
2.本システム監査の目的と監査手続
---------------------------------------------------------------------
2.1.予備調査に基く監査目的の設定
----
 私はX社監査役及び会計監査に関った公認会計士から
のヒアリングを行い、1年分の在庫表を入手して問題点
を洗い出した。その結果、以下の点についての調査が必
要であると結論し、本調査を行うことにした。

1)入力データの承認手続
 入力されるデータがそもそも正当なものであることを
確認する必要がある。そのため、経理担当に渡される伝
票の内容について、記入する者とその根拠、責任者によ
る承認手続について調査する。

2)入力されたデータの正確性
 1)の伝票のデータが、当システムに正しく入力されて
いることを確認する。

3)データ処理の正確性
 入力されたデータが正しく処理され、在庫数量及び在
庫金額が計算されていることを確認する。

----
2.2.本調査で実施する監査手続
----
 本調査では上述の3項目について、以下のように監査
を実施することにした。

1)入力データの承認手続
 営業と経理の責任者に対するヒアリングと実際の伝票
の調査により、以下の点を確認する。
 ・伝票起票者と起票の際のルール
 ・伝票の承認手続

2)入力されたデータの正確性
 伝票が遺漏なく、あるいは重複することなく入力され
ていることを確認するため、伝票枚数と入力件数が一致
することを確める。次に伝票のサンプリングを行い、正
確に入力されていることを確認する。また、仕入金額の
合計と、親会社からの請求書を突き合わせ、一致するこ
とを確認する。

3)データ処理の正確性
 指定された1つの商品に対して、在庫数量及び金額を
計算する監査用プログラムを準備する。これを用いて、
いくつかの商品のデータをサンプリングして計算する。
また、架空の商品について作成したデータを本システム
に入力し、監査用プログラムと処理結果を比較する。

---------------------------------------------------------------------
(設問ウ)
---------------------------------------------------------------------
3.監査実施時におけるコミュニケーション上の工夫点
---------------------------------------------------------------------
 システム監査を実施するに当たり、最初に問題となっ
たのは、X社社員の不安感である。外部から監査が入る
ということは、自分達が不正な行為をしていると疑われ
ているのではないかと感じていたのである。私は最初に
彼らと酒を酌み交わし、世間話を交えながら不安感を取
り除きつつ情報収集することにした。システム監査とは
情報システムを正しく有効に使うために点検することで
あり、不正を摘発するための調査でないことはすぐに理
解された。また、X社内の役割分担や人間関係を知るこ
ともできた。

----
3.1.本調査の実際
----

1)入力データの承認手続
 X社では仕入部門は存在せず、営業担当者が販売する
ものを適宜親会社に発注していた。発注・売上は各営業
担当者が営業部長に伝票を見せて確認印を受けた上で行
っており、特に問題は見出されなかった。

2)入力されたデータの正確性
 経理担当者は几帳面な性格の役職者1名のみである。
1日分の伝票入力に立会った際にも、伝票入力の前後に
枚数や内容を綿密にチェックしていた。過去3ヶ月の入
力内容を調査した結果も、親会社の売掛データと完全に
一致していた。

3)データ処理の正確性
 8種類の商品について監査用プログラムに1年分のデ
ータを入力して計算したところ、商品Aについて、在庫
金額が在庫表のデータと大きく相違していた。商品Aに
ついて全ての伝票を調査したところ、通常の販売が通年
行われていた他に、3月に特売が行われていることがわ
かった。この特売では、外装に汚損のあるB級品を半額
で仕入れ、安く大量に販売していた。そして、それ以降
在庫表の在庫金額が合わなくなっていたのである。
 私は総平均法による在庫単価計算方法に誤りがあると
考え、架空の商品のデータを本システムに入力して調査
した。その結果、過去に存在して既に払い出されている
在庫を全て平均して単価計算をするように設定されてい
ることが確認された。

----
3.2.改善勧告とフォローアップ
----
 私は3.1.3)の問題点を経営者及び経理担当者に説明し
たが、最初はなかなか理解が得られなかった。前任者が
親会社の経理に相談してベンダに設定させたので間違い
ない筈だと強く主張していたのである。
 私は彼らの責任を追及するのではない姿勢を明確にす
るため、きっと前任者の説明をベンダが良く理解してい
なかったのであろうと言うことにした。次に、1月に1
本を1円で仕入れてすぐに払い出し、2月に1本を9円
で仕入れて在庫する架空のデータを本システムに入力し
た。その結果、2月末には1本が5円で在庫されている
結果が出力された。このデータを用いて説明を加え、現
在の計算方法の設定に誤りがあることを納得させること
ができた。
 私は在庫単価の計算方法修正を緊急改善事項として勧
告し、X社はすぐにベンダを呼び、修正させた。
 翌月半ばに私がX社を訪れた時には、修正後のプログ
ラムが正しく処理を行っていることが確認された。また、
X社では前年度のデータを修正後のプログラムで処理し
直して、修正申告を済ませたとのことであった。
 その夜、私はX社社長、監査役、経理担当者と4人で
旨い酒を飲んだ。
(2425字ライン)





[ 戻る ]