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 A社EOB導入におけるチームリーダの養成

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(設問ア)
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1.プロジェクトの概要
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 A社は、東日本を中心に100店舗を展開する中規模
のスーパーである。A社における衣料品の売上は全体の
3割を占め、食品に続く重要なカテゴリーとして位置付
けられている。しかしながら、衣料品の店舗発注は、紙
ベースのオーダーブックと、ハンディターミナルを用い
た、バーコードスキャン方式による簡易なシステムで
あった。そこでA社では、より魅力的な売場作りの実現・
発注精度の向上を目的に、エレクトリックOB(以下、
EOB)の導入を決定した。EOBは、商品の販売実績
や天候・来店客数等ガイドラインを参照しながら売場で
の発注を実現するものである。
 私はシステムインテグレータであるN社に勤務してお
り、A社EOBの導入に際し、営業時点より参画してお
り、受注後はPMとして携わる事となった。

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2.チームの特徴
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 社内におけるプロジェクト体制は、以下の通りである。
 ・プロジェクトマネージャ:1名
 ・業務APチーム    :リーダ他7名
 ・基盤チーム      :リーダ他2名
 総勢12名で約1年間、140人月程度のプロジェク
トが計画された。ここで私がチームリーダとしての養成
を図った人物は業務APチームのリーダであるS君であ
る。それは、当プロジェクトにおいて調達できたメン
バーは殆どが流通業の業務知識に乏しく、S君だけが過
去に経験を持ち唯一頼れる存在であった事による。
 一方で顧客であるA社はソフト開発に対する理解が乏
しく、かつ購入者であるという立場から頻繁に仕様変更
を繰り返すであろうリスクが高かった。当然、これらの
調整はPMである私の責任であるが、先ずはチームリー
ダであるS君を窓口として対応していく事とした。

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 (設問イ)
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3.伸ばそうとしたチームリーダとしての能力
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3.1.S君の人物像
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 私がチームリーダとして考えたS君は、私の2年後輩
であり、AEとしての経験は豊富に積んでいた。また5
0人未満の小規模なプロジェクトではPMとしての経験
もあり、数年後には中〜大規模のプロジェクトマネー
ジャとして活躍する事が期待されていた。

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3.2.S君に期待したこと
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 私はS君と面接を行い、現在自分に不足している部分・
今後伸ばしていきたい能力について相談したところ「顧
客折衝能力」に行き着いた。そこで私はA社の特性、社
内でのS君に対する期待を考慮し、S君を業務APチー
ムのリーダに任命する事とした。
 尚、チームリーダには、スケジュール・品質・費用等、
様々な管理能力が求められるが、今回「顧客折衝能力」
に絞った理由は、私の経験上最も難しく、かつセオリー
の無い部分であると考えたからである。

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4.能力の養成と具体的な施策
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4.1.状況の把握方法
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 一般的に顧客は、過ぎ去った仕様変更は忘れてしまい、
本来顧客で決定するべき事項も我々SI業者に任せよう
という傾向にある。A社では特にこの傾向が強く、そこ
で私はS君に対し、以下の管理を行い、そのデータを
もって折衝に当たるように指導した。

 a.仕様変更の回数・プロジェクトへの影響(金額で)
 b.問合せ・回答件数の時系列山積表

 これらの管理は、度重なる仕様変更を過ぎ去ったもの
にせず、プロジェクトスタート時点からの動きを管理・
可視化する事を狙いとしたものである。

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4.2.問題解決方法
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 顧客折衝を行う上で最も重要なポイントは、顧客がよ
り困っていてかつ簡単に解決可能な課題を素早く対応す
る事にあると私は考える。その本質は、ある意味で顧客
に恩を売り、顧客の信頼を勝ち取る事にあると言っても
過言では無い。
 そこで、私はS君自身による顧客折衝上の問題解決を
期待して、以下の権限委譲を行った。

 a.全体計画を狂わさない範囲で、各フェーズ毎のスケ
  ジュールは調整して良い。

 b.開発工数の5%は仕様変更対応のバッファとして使
  用して良い。

 特にb.については、営業時点より参画していた私が、
安全率として設定した10%の一部である。これにより
S君は7人月の範囲において、自分の裁量で顧客折衝の
決定権を得る事となった。

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4.3.報告の仕方
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 プロジェクトでは、週に一度の定例ミーティングを
行っており、その場で私はS君から状況報告を受けてい
た。しかし、フォーマルなミーティングでは、S君自身
メンバーの手前もあり、苦労している話はなかなか出て
こない。私は、日常的な会話の中において、A社の対応
状況や、S君自身の抱えている不安材料を聞出す事にし
た。

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(設問ウ)
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5.チームリーダ養成策の評価と課題
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5.1.評価
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 先に述べた体制で取り組んだA社EOB導入プロジェ
クトも無事に本番を迎え現在は順調に稼働している。心
配された仕様変更についても、実際には取捨選択して対
応したところであるが、ポイントを押さえていたため、
A社からは快く対応して頂いたとの評価を受けている。
 一方でS君自身についても、既に別なプロジェクトで
PMとして活躍している。先日、S君と会話する機会が
あり、当プロジェクトの事を聞かせて貰うと「権限が与
えられた結果、その先には自由と責任が生まれる事が良
く判った。苦労はしたが、個人的には成長できたと思っ
ている。」との事であった。
 私自身不安はあったが、成長したS君を見て、今回の
施策は成功であったと判断する。

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5.2.今後改善したい点
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 人材を養成する事は大切であるが、一方で顧客の立場
に立った場合、既に養成された人物が携わってくれる方
が望ましい事は言うまでも無い。
 今回のプロジェクトにおいても、何度かS君自身では
解決できない問題が発生し、私自身が調整に乗り出す場
面もあった。
 今後、こういった施策を実施する場合には、プロジェ
クトリーダ・あるいは社として充分なバックアップ体制
を取る約束を前提に、顧客にも事前に説明・理解を求め
て進めていきたいと考えている。





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