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S社情報システムの中長期計画の策定

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(設問ア)
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1.S社の概要と情報システムの概要
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 S社は、正社員300名の中堅プラント建設会社であ
る。15年前に、一般建築分野に進出した。5年前に、
経営に行き詰まった技術者派遣会社を買収した。本社の
他に、全国に20の支社・支店・出張所をもつ。
 S社の業績はよくない。プラント分野は需要自体が限
られており、過剰競争の中で価格競争は激しく、採算の
とれる案件は少ない。昨年度末に、正社員の10%の早
期退職を伴うリストラを実施した。派遣事業は、ようや
く人材の流出が治まったところである。
 S社の経営戦略は、1つには不況長引くプラント分野
から、より安定した需要の望める一般建築分野へのシフ
トである。2つめは、利益率のよい技術者派遣事業を強
化・拡張することである。
 S社には、20年前に自社開発した基幹経理システムの
他に全社的な情報システムはない。が、2年前に全社員
にPCの無償貸与を完了し、支店にもLANを導入して
いる。主な支社は専用回線で結ばれており、同業種の中
では比較的に情報基盤は進んでいる方である。
 しかし、情報化・IT技術の進展はめざましく、S社
においても基幹システムの陳腐化が問題になっている。
ようやく始まったEUCへの基幹系データの活用、特に
人材派遣事業部から強い要求のある情報系システムの構
築などの課題も未解決のままである。
 このような危機的状況の中で、S社は、社長直下の戦
略企画室を新設した。わたしは、戦略企画室副長として、
次のような情報システムの中長期計画を策定した。
・全社共通の日報システムの開発
・全社共通のデータベースの構築
いずれも、将来にわたる情報システムの基盤である。


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(設問イ)
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2.中長期計画の策定
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2−1.策定手順
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 わたしは、今回の中長期計画の策定を、新基幹システ
ムの構築と同義であるととらえ、次のような手順で検討
を行った。
 a.経営戦略の確認と情報戦略への反映
 b.事業部単位での業務モデル、DFD分析
 c.全社エンティティの抽出、定義
 d.全社情報システム体系の作成
 前述したとおり、S社の事業は建設分野と人材派遣分
野と大きく2つに分けられ、両者のコンセプトには相違
がある。従って、双方からの情報システムへの要求は錯
綜していて、統一は困難ともみえた。
 わたしは、経営戦略を確認し、その核心部が事業分野
内外の経営資源のシフトである事に着目した。S社にお
いては「ひと・もの・かね・情報」のうち、「情報」が
資源として扱えるほどに整備されていなかった。つまり、
「ひと・もの・かね」は重点分野にシフトできるが、
「情報」はそのシフトに連動できる状態ではないという
事である。わたしは、情報を経営資源化する方策を、情
報システムの目的の、まず第一においた。

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2−2.情報の経営資源化の方策
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 経営資源として扱うには、ある程度の量・まとまりが
必要であり、かつ扱いやすい形態も必須である。わたし
は、前者を「蓄積する仕組み」、後者を「利用する仕組
み」ととらえた。
 「蓄積する仕組み」とは、業務に必要なデータを漏ら
さず収集する簡易なマンインタフェースであり、実世界
では営業日報・工事日報である。「蓄積する仕組み」は、
具体的な検索・参照の仕組みで、部門情報サブシステム
とそのユーザインタフェースがこれにあたる。両者を中
継・媒介するものがデータベースである。
 わたしは、戦略企画室としての計画策定の中心を「マ
ンインタフェース」と「データベース」におく事とした。

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2−3.業務モデル、DFDにおける業務の引継ぎ
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 前節の考察に基づき、業務モデル設計に着手した。事
業部間の業種・業態が異なるため、全社的な機能要件を
いきなり定義するのは困難である。わたしは、事業部単
位での業務分析を行い、エンティティを抽出させ、それ
らから全社的な管理対象を定義しようとした。
 従来分野であるプラント・一般建築事業部は、ISO9002
の認証を取得している事もあり、比較的早く作業は完了
した。得られたDFDには、1つの特徴があった。それ
は、データフローにおいて、=(データストア・ファイ
ル)から=へのフローが少なく、○(プロセス)から○
へのフローが多かったことである。これは、あるビジネ
スプロセスから次のビジネスプロセスへのデータの継承、
すなわち実世界における業務の引継ぎが、「文書から文
書」でなく「ひとからひと」へと行われていることを暗
示している。ISO9002により作成された各種の文書が活用
されていなかった。
 文書による業務プロセスの成果の保存と、その参照に
よる業務プロセスの引継ぎ・連携は、組織変更、人員再
配置を大前提としたS社の経営戦略に有効であると判断
した。

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2−4.日報システムの要件定義
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 前節により得られたデータベースの論理要件より、収
集するデータ項目とその行き先であるテーブルが明確と
なった。ここで収集するデータは、全社的な管理対象で
ある。
 わたしは、業種・業態の異なる領域での共通インタ
フェースとして、勤務日報に着目した。人材派遣業では、
営業日報あるいは勤務日報であり、プラント・建築事業
では工事日報である。事業部単位でのエンティティ分析、
DFD分析は、事業部単位での必要データは日報に集約
することが可能だと結論づけていた。
 わたしは、この事業部単位でのインプット手段である
日報を、全社的に普遍化する方策を検討し、階層をもつ
マンインタフェースと構想した。
 第1階層は全社員共通の勤務日報であり、始業時刻、
就業時刻、時間単位での勤務・就労内容など共通事項で
あり、以下、階層を深めるごとに事業部、配置部署に応
じて適用できるように詳細化した。

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2−5.中長期計画の承認
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 以上のようなコンセプトに基づき、わたしは、全体計
画書を作成し、役員会に提出した。「全社的」を前面に
したプレゼンを行い、情報システムの中長期計画は、正
式に承認された。

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(設問ウ)
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3.現行勘定系システムに対する検討の不備
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 現行勘定系システムの開発思想は、15年を経過した
今、陳腐化している。ハード・ソフトの両面からも、現
在のシステム構想の主流であるRDBや情報系に対応で
きない。しかし、ハードとしてのオフコンは、情報系
サーバとして想定しているPCやWSに比較して、信頼
性・安定性はいまだに高いのも事実である。
 新勘定系システムを導入したとした場合、過去のデー
タを変換するプログラムの開発だけで6人月以上かかる。
これは、法定期間の5年間、旧システムを維持するコス
ト以上となる。現行勘定系システムは、ハードのリース
アップ、ソフトの追加をおこなったばかりであり、コス
ト配分上でも慎重な検討が必要であった。
 いずれにしても、現行勘定系の開発時の資料をさらに
再調査する必要があり、時間的な制約から、今回の中長
期的計画に盛り込むことはできなかった。



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