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(ERP パッケージの導入計画の策定について)

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(設問ア)
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1.W社のERPパッケージ導入計画の概要
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1)W社情報システム再構築計画の背景と目的
 W社はH市に本社を置く,従業員数約5百名,年商約
2百億円の株式会社である。W社はY県東部でライブ喫
茶とケーキ店のチェーンを展開している他,オリジナル
CDの販売も手がけている。
 W社では,既に退職した情報システム部員を中心に自
社開発したシステムを利用していた。これは,各店舗に
おける経費と売上高の管理,CDの在庫数量・原価等の
管理,本社経理システム,の3つのアプリケーションが
別々に構築されているものであった。
 これらのアプリケーションは,ユーザの要求に基づい
て頻繁に改訂が加えられ複雑化していたが,ドキュメン
トが残っておらず,保守が困難であった。また,アプリ
ケーション相互間の連携がなされておらず,データの再
入力やチェックのために効率が悪いものとなっていた。
 近年の不況のため,W社の売上は伸び悩んでおり,業
務の効率化とコスト削減が課題となっている。情報シス
テム担当のN取締役の発案を受け,W社取締役会は情報
システムの根本的な再構築を決定した。

2)ERPパッケージの導入計画
 W社情報システム部次長である私は,N取締役から情
報システム再構築の責任者に任命された。私は各店舗,
CD販売部門の担当者へのヒアリングと,本社経理部と
の協議の結果,ERPパッケージの導入を決定した。
 私はW社の主要業務を取りまとめ,3社のベンダに新
システムの提案を依頼した。提案内容やその他の要因を
検討した結果,H市内のベンダが技術力・実績ともに優
れていると判断し,これに決定した。
 パッケージには若干の機能追加が必要であり,総費用
は約5千万円と見積もられた。昨年2月に要件定義を開
始し,12月までに完成する計画であった。
(設問ア:800字ライン)

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(設問イ)
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2.既存業務の改革によるERPの効果的な活用
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2.1.要件定義のためのヒアリングと各部の要求事項
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 私は2月初めにベンダのSEと打ち合わせ,店舗統轄
部,音楽事業部(CDの販売を統括する部),経理部へ
のヒアリングを開始した。要件定義は4月には確定させ
る予定であったが,各部との協議の結果は,当初以下の
ような状態であった。

1)店舗統轄部
 店舗統轄部との協議の際,ベンダのSEはパッケージ
の機能説明とデモンストレーションを行った。そして,
当初から予定されている必須の機能追加以外の追加・修
正は行わない旨を述べた。しかし,現行業務に精通して
いる店舗統括部の担当者は,具体的な業務や個々の出力
帳票はパッケージと異なる点が多いと主張して,多くの
追加要望を出した。
 私はベンダSEとともに,現行業務を変更してパッケ
ージに合わせるべきであると主張した。しかし長年固定
された業務を必須のものと考えている担当者の主張と,
実際の業務の細部を理解していない私たちの一般的な主
張は平行線をたどってしまった。

2)音楽事業部
 音楽事業部とも同様の協議の場を設けたが,まず事業
部長自身が自らの商品管理構想について語り出した。そ
して,機能追加・修正を最小限に抑える原則は理解でき
るが,自らの構想に基づいてシステム要件を定義して欲
しいと要求した。音楽事業部長は私のかつての上司であ
り,私はこの要求を即座に拒絶することを躊躇した。

3)経理部
 現行の経理システムは他のシステムとは独立している
ので,仕訳データの入力チェックに多くの手数が掛かっ
ている。現行の業務に精通している担当者は,ERPパ
ッケージの導入によって入力チェックが不要になること
を理解できなかった。そして,現行業務で使用している
管理帳票の殆どがパッケージの機能に含まれていないた
め,これらを印字する機能を全て追加しなければ業務を
遂行できないと強く主張した。

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2.2.既存業務の見直しによる要件定義の確定
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 上述したように,ERPパッケージの導入によって既
存の業務を根本的に見直し,パッケージの機能にあわせ
て業務を効率よく再構築するという考え方はなかなか現
場に理解されなかった。私は要件定義を予定通り確定さ
せるため,ベンダのSEでシステムコンサルティングを
得意とするT氏とともに改めて各部を調査した。そして
以下に記すように,ほぼ当初私が想定した計画通り,4
月末に要件定義が確定した。

1)店舗管理部
 私たちは再び店舗管理部の担当者からヒアリングを行
い,現行業務に関する詳細な情報を得た。次にH市東部
にあるW社直営ライブ喫茶に出向き,実際の業務を観察
した。そして,現行業務の長所と問題点を詳細に検討し
た結果,殆どの業務はパッケージに合わせたやり方に変
更しても問題ないか,むしろ効率が上昇することを確信
した。一方,現行業務のやり方のほうが優れている場合
も見出された。しかし,それに合わせて追加機能を開発
すると,開発コストが効率化によるメリットを遥かに上
回ることが試算された。
 私は詳細な報告をまとめて店舗管理部長に提出すると
ともに,T氏とともに担当者へのプレゼンを行った。店
舗管理部長が私の考え方に好意的であったこともあり,
また担当者も私の説明を理解してくれたため,概ね私の
計画通りの要件定義が確定した。一つだけごく軽微な新
機能の追加が必要であることが判明したが,15万円で
できるものであった。

2)音楽事業部
 音楽事業部の業務についても私はT氏とともに詳細に
調査し,ERPパッケージを計画通りに適用することが
適当であると判断した。私はこの件に関する報告書をま
とめ,事業部長と音楽事業担当取締役の他に,N取締役
にも写しを提出した。
 両取締役からの指示を受け,事業部長は私たちの計画
通りにERPパッケージを使用することを了承した。

3)経理部
 経理部の業務についても私はT氏とともに調査をした
が,経理部の要求は長年定着した効率の悪い業務に拘泥
していることが明白であった。私は問題点をまとめるだ
けでなく,T氏の協力を得てERPパッケージ導入によ
って経理業務の効率化を図った他社事例を報告書にまと
めた。この報告書を評価した経理部長のトップダウンに
より,私の計画通りERPパッケージを適用することが
決定された。

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(設問ウ)
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3.ERP導入に際する合意形成過程の評価
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 以上のように若干の紆余曲折はあったが,本計画の要
件定義作業はほぼ予定通り完了した。そして開発も予定
通り完了して現在は順調に稼動している。しかし,現行
の業務を分析し,それを変更することに関して担当者の
合意を得る過程には,以下のように若干の問題があった
と考えている。

1)業務内容の詳細な調査の必要性
 現行の業務の効率が悪く,ERPパッケージの導入に
よって全体としては大幅に改善されることが明白であっ
た。しかし,個々の業務をこなす担当者を説得するため
には,事前に詳細な調査をした上で,問題点を明確にし
ておく必要があった。
 結果的には時間の損失も大幅な予算超過も起こらなか
った。しかし,T氏に手間を取らせたことと,店舗管理
機能で小規模な追加開発が生じたことが問題である。当
初から綿密に計画を立てていれば,T氏の仕事も軽減さ
れ,追加機能は当初予算の範囲内で処理できたものと考
えられる。

2)十分な根回しの必要性
 担当者や事業部長を説得するために,その上司を使っ
て半強制的に納得させた場面もあったが,今後の社内の
人間関係を考えると,やや問題であった。しかし,本シ
ステムが順調に稼動し,業務が効率よくこなされること
によって,遺恨がなくなるものと楽観している。
(設問イ+ウ:2625字ライン)





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