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 中堅建設会社の情報戦略の策定について

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(設問ア)
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ア−1.S社の事業と経営戦略
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 S社は、従業員350名、売上高80億円の中堅建設
会社である。重化学プラントの建設工事の請負を事業の
中心として来たが、プラント業界は構造的不況が続いて
おり、ビルやマンションのリフォームやリニューアルを
中心とした一般建築分野にシフトしている。最近、建設
関係の人材派遣事業やアウトソーシング事業の会社を買
収した。
 S社の経営戦略は、建設事業では、一般建設分野への
全面的シフトである。また、安定した収益が期待できる
人材派遣事業も強化したい。
 ビルやマンションの工事は、居住者の都合から、春や
秋に集中する傾向がある。S社の建設事業部の売上高6
0億円の6割も9〜12月に集中していた。すなわちそ
れ以外の時期は社員が遊休化することを意味する。人材
派遣事業の業務フローのベースは日次であり、月次決算
書を待つ今の会計処理では間に合わない。
 S社の経営課題は、業務スピードの向上である。建設
分野においては、最新の工事情報や営業情報を反映させ
て、年間を通じて工事案件を平準化し、経営資源の配分
を最適化することである。また、経営判断、意志決定を
迅速に行い、資金計画などに反映して、特に工事集中期
のリスクに対処することである。人材派遣分野において
は、日次の業務処理が求められていた。
 わたしは、S社より、建設事業部の情報戦略と情報シ
ステム全体計画の策定と立案について依頼を受けた。

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(設問イ)
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イ−1.情報戦略の策定
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 わたしは、S社の経営戦略を実現するために、次のよ
うな情報戦略を策定した。
 a.建設事業部員の情報リテラシ度を活用・進展する情
  報基盤となるミドルウェアを導入する。 
 b.経理システムの情報を、整理してDB化し、データ
  ディクショナリを含めて公開する。
 c.管理部、経理部電算室を統合・改組して、情報セン
  タ部を新設する。
 S社の建設事業部員は全員がエンジニアで、1人1台
のPCが配布されて3年が経過しており、情報リテラシ
度は高かった。工事状況や日報などの工事情報も電子化
されており、これを報告書作成に利用するなどEUCが
始まっていた。ただし、建設事業部内で収集できる工事
情報だけでは、有効な情報となるには不足である。勘定
系の経理伝票データと連結してはじめて、有意な情報と
なる。
 S社には、自社開発した経理システムがあったが、十
数年を経て、開発者が退社しドキュメントも散逸してい
た。運用・保守にわたる経理部電算室も、適切な保守が
できず、その場しのぎの対応に終わっていた。実際にD
B構成やフィールドのデータ型などをみると、正規化が
くずれていたりして、システム外への提供にはたえられ
ないものが多かった。
 工事情報と経理情報を連結させる事により、全社的に
有効で有意な情報となる。事業部の稼働率や負荷を予算
と比較した予実情報として営業部にわたせば、見積価格
などを機動的に運用した営業活動を行える。つまり、工
事集中期と閑期で価格差を設けることにより、案件を閑
期に誘導し、平準化を図るのである。工事の進捗に応じ
た入金・支払予定もタイムリにつかむことが可能となり、
これを経営判断にいかせば、最適な資金計画ができる。
 情報・データの入力は、工事や営業などの業務部門の
一般部員が現場で行なうことになるので、経理システム
の端末では対応できない。モバイル環境に対応できるシ
ステム基盤が、将来を見据えると、必要である。
 わたしは、ユーザフレンドリで機動的な運用ができる
WWWアプリを用いたミドルウェアを導入する事で、工
事情報と経理情報を連携できる情報化、EUCが推進で
きると判断した。情報の新鮮度は、報告、伝票発行や入
力を発生時点で行なうような業務改善で維持できる。

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イ−2.管理部と電算室の改組の必要性
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 ミドルウェアを活用しEUCを推進するには、経理情
報・データを開放せねばならない。また、データの場所、
型や各TABLEの関係などのDB構成、いわゆるデー
タディクショナリも合わせて公開する必要がある。ユー
ザが利用しやすいように整理・半加工しておくことも重
要である。これを行なうのは、経理システムの運用・保
守に携わる電算室である。
 しかし、経理部直下である電算室員には、情報システ
ムに携わっているという自覚は少なかった。例えば、受
注報告書などの工事情報も、決算帳票に必要なデータだ
け入力されていた。全社的な経営資源、リソースの一部
であるという認識はなかった。端末エミュレータもGU
I可能なものにバージョンアップされてはいたが、端末
は経理ホストへの入力機という意識で、部店長などの建
設事業部員が帳票を閲覧したいというニーズを理解する
ことができず、単に入力画面をいじるだけに終わってい
た。
 更に、経理部員としてみても、翌月7〜10日を経な
いと決算帳票が出力されないという現状に疑いをもって
いなかった。精度を得るためにはある程度の期間が必要
だという認識である。当然、決算処理前の生データを開
放する事には批判的であった。
 決算帳票や工事報告などから最新の資金需要をつかみ、
資金計画などの経営情報を作成するのは、管理部である。
支払利息を最小化するなど効率的な資金計画には、最新
の情報が欠かせない。しかし、管理部では、単に過去の
実績や着工時の予算などと比較しただけの経営情報の作
成であった。予実情報は、決算帳票をもとにしていた。
最新の情報をタイムリに反映した分析や予想が行なわれ
てなかった。
 わたしは、現状の組織のまま情報化を行なっても、経
営戦略の実現、業務スピードの向上は達成できないと判
断した。管理部と電算室とを統合・改組して情報センタ
部を新設するように情報戦略にもりこんだ。また、統合
・改組にあたっては、慎重に行うように進言した。


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イ−3.統合・改組上の工夫
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 わたしは、統合・改組にあたっては、その効果が発揮
できるように、次のような工夫を行った。
 a.組織のあるべき姿と業務プロセスを明確にする。
 b.必要な知識、習得すべきスキルの基準を明らかにし
  これを開示する。
 c.知識・スキルを習得する機会を与える。
わたしは、必要な知識・スキルが習得できる研修・講習
会なども提示した。
 現行の電算室員、管理部員の業務が新設される情報セ
ンタ部では、どのようになるのかをはっきり認識される
ような仕組みを作りこんだ。


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(設問ウ)
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ウ.評価
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 わたしは、経営戦略を達成する情報戦略に電算室と管
理部を統合・改組して情報センタ部とすることをもりこ
んだ。業務の目的・範囲・プロセスを明確にしたために、
ねらいどおりの効果を発揮できると判断している。
 経営トップは、日常の意志決定をするための情報につ
いては、最新のものが得られるならばある程度の誤差は
許容する。正確で精度のある決算帳票を待っていては、
重大なリスクに直面する場合もある。
 情報は、ユーザ層や業務の内容によって、提供の仕方、
加工・整理の仕方、情報量などを按配するべきである。
意志決定や業務判断に必要で十分な情報が提供されるべ
きであり、それ以上もそれ以下でもない。状況によって、
正確なあるいは詳細な情報が得られる手段が用意されて
いればいいのである。
 業務スピード向上のために、何が必要で何が必要でな
いかはユーザや業務の内容によって判定すべきであると
認識している。

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