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□ R社健康管理システムの構築における業務分析・設計
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(設問ア)
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1.R社健康管理システムの構築
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1.1.開発の背景
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 R社は西日本を中心に10支店を展開する電気工事会
社である。R社においては社員の健康管理を検診簿(紙
ベース)にて運用していたが、毎月本社人事部より送ら
れてくる異動者一覧を元に、検診簿を各支店間でやりと
りしていた。大きな支店では1000人以上の社員がお
り、支店により検診簿の移動時期にばらつきがが生じて
いた。また、全社で統一の指導基準が無く、検診を委託
する外部医療機関の結果を元に保健指導を実施するため、
同じ検診結果であっても指導内容が異なり、各支店の保
健指導や再検査の指示に支障を来していた。
 一方でR社は社員の構造的な高齢化に伴う健康維持の
ため、全社的な健康管理システムの構築が企画された。
 私はR社健康管理システム構築に提案時点より参画し
ており、受注後はSEとして開発に携わる事となった。
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1.2.システムの概要
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 システムの機能は、現行の手運用からコンピュータに
よるデータの一元管理と、それに伴う各支店での業務の
統一化を実現するものであり、以下の内容である。
・本社に全社サーバ+業務クライアントを設置
・各支店に業務クライアント(スタンドアロン)を設置
・検診業務として、検診準備・結果入力・自動判定・判
 定結果入力・結果参照・結果通知・統計と各種マスタ
 管理のシステム構築
・指導業務として、指導内容管理・体力テスト管理・問
 診内容管理・メンタル相談管理のシステム構築
・データのやり取りは全て電子データ化
・全社の指導基準の統一
・各支店の運用は保健婦一名+担当一名を前提
・データ容量は社員12000名(現行9000名)換
 算で、保持期間は最低5年間

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(設問イ)
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2.システム化への業務設計
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2.1.現行業務の論理モデル化
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 前述の通り、現状、顧客では各支店が独立した業務運
用を実施しており、まず全社統一の論理(業務)モデル
を構築する必要があった。しかし、支店は複数の県にま
たがるため、各担当を一斉に集めて、業務の標準化のた
めのヒアリングを実施することは事実上困難であった。
 このため、情報システム部の担当者と本社の衛生部の
担当者と協議のうえ、各支店の担当者に以下のワークシ
ートを送付して、現行の運用(論理)モデルについて記
入してもらった。
・問題点一覧(担当・問題点・改善案)
・運用処理フロー図(対象・担当・場所・タイミング)
・運用作業手順及び作業量(作業項目・要員数×日数)
このワークシートの全社分を集約したうえで、本社の衛
生部の担当者と現行の問題点の洗い出しと処理概要のと
りまとめを実施した。
 この結果、支店の担当者での負担が大きいのは、以下
の内容であった。
・検診準備段階での各社員それぞれに対応した検診コー
 スの設定と医療機関への予約
・検診結果の検診簿への反映
・検診結果をもとにした再検対象者の洗い出しと通知
・人事異動に伴う検診簿のやり取り
・年1回の監督官庁への報告(統計)資料の集計
これを踏まえて、新論理(業務)モデルを策定すること
にした。
 また、本社の保健婦に対して、全社共通となる指導基
準の作成を依頼した。これについては、「検査項目ワー
クシート」を各支店の保健婦に送付し、実際に行われて
いる検診項目の属性と指導基準の収集をしたうえで、全
社標準を決定するような手順を指導した。ところが、本
社を含めて全ての支店では、検診を外部医療機関に委託
しており、指導内容もその検診結果に準じていたため、
あちらをたてればこちらがたたず、という状況で標準化
の作業は難航した。さらに、支店(本社)での外部医療
機関は複数になることが多く、また、料金によって毎年
のように変わるため、自社システムでのデータ変換対応
は、稼働後のカスタマイズ等の発生につながるためでき
なかった。
 これについては、基本的に多数である(標準)こと、
新しい検査方法を採用している(これからの標準)こと
を前提にして、本社の保健婦とともに作成した基準値「
検査項目ワークシート」を各支店の保健婦に送付し、各
医療機関に提示するように依頼した。合わせて、この基
準になるように検診結果を変換してデータ提出するよう
に、各医療機関に対してR社名での依頼書を提出させた。
 この結果、ようやく全社標準の基準値(マスタ)が完
成し、と同時に、各医療機関に対して依頼するデータの
変換式(R社向けにデータを加工する)が決定した。
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2.2.システム導入に伴い追加した新業務
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 システム構築に伴い、データの授受を電子化するため、
以下のデータについてフロッピディスクでやり取りする
ような物理モデル(業務システム)とした。
・人事部からの異動情報(人事部=>衛生部)
・外部医療機関からの受診データ(社外=>R社)
・本社と支店間のデータ(本社<=>支店)
・外部パンチセンタからの問診データ(社外=>R社)
これにより、本社支店間での紙ベースの資料を送ったり
受け取ったりがかなり軽減された。
 また、システムには以下の機能を盛り込んだ。
・人事部からの従業員情報(年齢)を元に、それぞれに
 合った検診のコースを自動設定
・検診結果に対して全社標準の基準値を元にした再検査
 の指示を自動化
・社内管理用の統計に加え、労働基準監督局提出用の全
 社統計(これまでは、各支店にて自店分を集計させた
 ものを本社に集めた後、手集計にて全社分の結果を出
 していた)
これにより、本社及び各支店の担当者の作業不可が軽減
されると同時に、結果の精度が上がった。また、全社標
準の基準値を元にしていることで、保健婦における判定
業務が明確になり、各社員への指導内容にばらつきが出
ることが無くなった。
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(設問ウ)
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..R社健康管理システムの評価と課題
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3.1.業務分析について
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 今回のプロジェクトでは、情報システム部の管理のも
とで、本社の担当者に各支店の運用状況の洗い出しをし
てもらった。ただ、各支店の担当者は組織上、別の部署
となっており、当初はなかなか足並みが揃わなかった。
また、担当者それぞれのコンピュータスキルに差があり、
システム化についての意識の違いが見られた。これらの
調整も顧客に任せていたのだが、本社担当と支店担当が
1対1で調整を行っており、ヒアリングと調整に多大な
手間と時間が掛かった。
 全社共通のモデルを構築することを考慮すると、洗い
出しの時点で、以下のような共同ヒアリングを実施する
べきであった。
・支店からのワークシートを元に作成した現行の問題点
 の洗い出しと処理概要をとりまとめたものをたたき台
 とする。
・支店担当者の本来業務への影響を考慮し、地区単位に
 ヒヤリングの場を設け、本社から説明する。
これにより、支店間での運用の違いをお互いが認識する
ことで、最善の運用モデルが発見でき、それを元にした
業務分析を進めることが可能であった。これにより、時
間の短縮だけでなく、設計に向けての意思の統一も図ら
れたと思われた。
 今後は、顧客の体制と会社環境も考慮したヒアリング
方法を実施するように心掛けたい。
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3.2.業務設計について
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 システム稼働から1年を経過した頃、R社での運用状
況を確認したところ、システム導入以前に比べトータル
の作業負荷は軽減されたとのことであった。が、本社と
支店間でフロッピディスクによるデータのやり取り(デ
ータ管理業務)が煩雑であり、特に支店において担当者
のスキルの問題もあって、運用ミスによりデータの反映
が実施されない月があり、修復に苦労したとのことであ
った。
 当初、本社と支店のシステムを社内LANを使用した
クライアント/サーバ構成にて提案したものの、一部の
支店には社内LANが構築されておらず、また、情報シ
ステム部の意向で基幹業務の性能確保のため、社内LA
Nの使用は見送られた。現在、R社では社内LANが充
実し、また、本社・支店間についても高速な通信回線で
結ばれている。稼働後、1年でインフラが整うことも想
定して、業務モデル設計等を進めていれば、オンライン
でのデータのやり取りが可能となり、運用ミスによるト
ラブルは発生しなかったと思われる。
 業務モデルの設計にあたっては、顧客の将来のインフ
ラについても考慮したうえで、進めていくのが適切であ
った。今後のシステム構築において留意したい。






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