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(A社情報システムの中期計画策定について)

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(設問ア)
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1.中期計画の概要
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1.1.中期計画が必要になった背景
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 A社はシステムLSIやDRAM等に使用する半導体
素材を製造するメーカである。長引く不況の中、飛躍的
な市場拡大を望む事はできず、既存の市場に対しシェア
を拡大していく事がA社の経営課題であった。そこで
A社では「徹底的な顧客満足度の向上による拡販」を経
営方針として掲げ、それをサポートする情報システムに
ついても抜本的な見直しを実施する事となった。

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1.2.中期計画の概要
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 先の経営方針を受け、A社の中では具体的な経営戦略
への落とし込がなされた。更にそれをサポートする情報
システムとしては以下のテーマが中期計画に掲げられた。

a.顧客要請である現品単位でのトレーサビリティを確保
 する事を目的にした、現品管理単位の変更。

b.注文変動への対応や、正確な納期回答の実施を目的と
 した、需要予測と生産計画システムの導入。

c.リードタイムの短縮や現場の省力化を目的とした、
 FAシステムの導入

d.情報システム基盤の刷新。
 特にa.を実現するためには、既存のシステムを根本的
に再構築する必要があった。従って、a.の実行に合わせ
て、開発生産性・保守性の向上を目的に、ホスト計算機
を採用しているA社の情報システム基盤の見直しを実施
する事とした。

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1.3.私の立場
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 SIベンダであるN社は、A社中期計画策定を委任契
約で受注し、N社に勤務する私はシステムアナリストと
して参画する事となった。システムアナリストである私
の責務は、A社経営方針を実現できる情報システムの企
画・提案を行い、経営に貢献する事であった。


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(設問イ)
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2.中期計画の検討手順と検討結果
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2.1.検討の手順
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 前述の情報システム中期計画の結論を得るために、次
の手順で検討を進めた。

a.検討委員会の組織
 検討を漏れなく、かつ効率的・効果的に行う事を目的
とし、A社内の全ての部署よりキーマンを選んで頂いた。

b.経営戦略の確認
 先の経営方針は各事業部単位に具体的な戦略に展開さ
れており、個々に内容を確認した。

c.情報システム機能の具体化
 先の経営戦略に対し、情報システムとして必要な機能
の具体化と、現状情報システムとのギャップを分析し、
新しい情報システムのあるべき姿をイメージアップした。

d.投資対象と開発時期の検討
 各々の経営戦略と必要な情報システム投資について、
投資対効果の分析を行い、投資対象の絞り込みや、開発
時期の調整を実施した。

e.情報化戦略の策定
 以上の結果を情報システムの中期計画として取り纏め、
トップマネジメントの承認を得た。

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2.2.検討の結果
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 前述の「b.情報システム機能の具体化」の結果、情報
システムに求められる機能としては以下に集約される事
となった。

a.ロット単位の現品管理からピース管理への変更
 これは、一部顧客から品質管理の強化とトレーサビリ
ティの確保の観点から要求されているものであり、今後
多くの顧客から要求されると見込まれていた。具体的に
は、製品一品単位に一意に識別可能な管理番号を与える
事となる。

b.需要予測と生産計画システムの導入
 従来A社では、需要予測・生産計画業務を人の経験と
勘に頼っていたため精度が悪く、また急な注文変動への
対応が困難であった。今回、正確な納期回答の実施を目
的とした需要予測・生産計画システムの導入が必要であ
ると判断された。

c.FAの導入
 基本的にA社工場にはFAシステムが導入されておら
ず、ホスト計算機から出力される作業指示書を元に作業
を実施し、結果をホスト端末に入力していた。これにつ
いては、省力化とリードタイムの短縮を目的にFAを導
入する必要があると判断された。

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3.検討のポイント
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3.1.新しい情報システム基盤の採用
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 A社の情報システムは、構築後10年を経過しており、
先のロットという管理単位に見られるようにビジネスア
ーキテクチャも陳腐化していた。一方で、システムの基
盤も、ホスト計算機というプロプラエタリな環境に構築
されており、顧客要求に対するシステム変更にスピーデ
ィには対応できない状況であった。客観的に評価して、
A社現状システムの保守性については、RDBMSを使
用しデータ中心もしくはオブジェクト指向で分析・開発
されたシステムと比較した場合、50%増の工数を要し
ていると測定された。

 私は、このような状況は当然同業他社に対する弱みに
なる部分であり「顧客満足度の向上」を実現できないリ
スクになると判断し、情報システムの中期計画において、
システムのダウンサイジングを織り込む事を提案した。

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3.2.開発の優先順位付け
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 前述の開発テーマは、いずれも情報システムを根本を
改造するものであり、実現するために必要なコストと工
期は、各々のテーマ単独で1億円以上・最低でも1年が
見込まれていた。そこで委員会では、今回中期計画にて
対応するテーマの絞り込みと、開発優先順位付けに着手
した。これについては、A社情報システム部より、全て
の機能を同時に実現する・優先順位付けを行い段階的に
開発する等、幾つかのケースでのシミュレーション結果
を委員会に提出して頂いた。

 私は、評価のポイントは、以下の3点にあると考え、
委員会での検討を実施して頂いた。

a.最も早くメリットを享受できる。
b.トータルでのコストを下げる事ができる。
c.顧客要求仕様であり、主導権をA社が握る事が出来な
 い。

 先の情報システム部より提示して頂いた幾つかの案に
ついて、評価基準に従ってポイントを付与し、最終的に
は、「c.FAの導入」を先送りし、以下の順で開発を行
うべきであるとの結論を得た。

 「a.ロット単位の現品管理からピース管理への変更」
と、「d.情報システムのダウンサイジング」は同時に実
行し、その後に「b.需要予測・生産計画システムの開発」
を行う。

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(設問ウ)
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4.中期計画の不足
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 前述の情報システムの中期計画は、経営会議での審議
を受けた後に実行に移され、私の勤務するN社ではこれ
ら一連の開発を請負いで受注した。

 本来であればシステムテストが完了した時点で、A社
への引渡しを実施し、運用テスト・切替え以降のフェー
ズについてはA社主導で実施する予定であった。しかし
ながら長年ホスト計算機を主体に扱ってきたA社情報シ
ステムでは、運用テスト・切替えに加え、実際のシステ
ムの運用さえもままならない状況であった。結果的に、
開発に携わったN社から継続して要員派遣を受けながら、
システムを運用している状況にある。

 これは情報システムの中期計画において、A社情報シ
ステムの役割と、N社との関係を整理できていなかった
事が原因であると言わざるを得ない。今後、情報システ
ムの中期計画を策定する際には、組織・機能・役割分担
についても合わせて検討を行う必要があると考えている。





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