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 A社における生産計画業務と取引先需要計画の統合

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(設問ア)
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1.業務プロセス統合の概要
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1.1.業務プロセス統合の背景
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 A社は電気部品を製造するメーカであり、国内に3ヶ
所の工場を有している。A社の製造する電機部品は、電
気メーカに納入され、最終製品に使用される。また、
A社の製造する部品は特殊加工が必要であり、業界2位
の20%のシェアを確保している。

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1.2.業務プロセス統合の狙い
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 これまでA社では1ヶ月間分の製品在庫と、3ヶ月先
の見込み生産に基づく仕掛在庫を持っていた。これは、
製造原価ベースでA社の営業利益2年分に相当するもの
であり、キャッシュフローの悪化、不良在庫となった場
合のリスク等、経営に与える影響は大きい。従って、
A社では在庫削減を喫緊の課題として捉え、50%削減
の目標を掲げた。長引く不況の中、在庫削減については、
A社同様に関係取引先においても経営課題の一つとして
考えられていた。

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1.3.対象業務プロセスの概要
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 A社が上記目標を達成するために着目した業務プロセ
スは生産計画である。従来A社では、月に一度の生産計
画会議にて営業部門より報告される受注見通し・市場動
向をベースに見込み生産を行っていた。しかし、前述の
目標を達成するためには、A社単独による見込み生産を
改め、取引先の需要予測(購入計画)と、A社の生産計
画を統合した製造・販売の一体化が必要であると考えら
れた。この業務改革を実施するにあたり、A社では、
「SCM導入委員会」を発足した。私の勤務するN社は、
10年前よりA社情報システムのアウトソーシングを請
け負っており、今回私は、システムアナリストとして、
A社業務プロセスの改革に参画する事となった。

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(設問イ)
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2.統合前後の業務プロセスの比較
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 前述の通り、今回統合の対象となる業務はA社生産計
画業務と、各取引先における需要予測であり、以下のそ
の比較を行う。

(統合前)
 A社営業部門が報告する受注見通しと市場動向に基づ
き生産計画を立案。しかし、営業部門の報告する数値は、
達成目標という性格も含んでおり、実際の受注能力より
も大きい数字を提示する傾向にあった。また、月次単位
の生産計画では、需要変動への対応力が弱い。

(統合後)
 取引先より入手する需要予測データに基づき生産計画
を立案。具体的には、各取引先のシステムより、需要予
測データをFTPで受信し、A社生産計画システムに連
動させる。A社では、週単位に生産計画の見直しを実施
する。

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3.業務プロセス統合における留意点
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 業務プロセスの統合は、自社だけで無く関係取引先と
の間において、相互にメリットが享受できなければ長続
きはしない。私は、業務プロセスの統合を推進するにあ
たり、次の点に留意した。

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3.1.業務プロセス統合による効果の明確化
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 以下の視点から、A社・取引先各々において、在庫削
減が可能であると判断した。特にA社においては、過去
の長期滞留在庫の発生状況とその原因分析の結果から、
50%の在庫削減は可能であると見込まれた。

a.A社営業部門が報告する数値に比べ、取引先より連動
する需要予測データは精度が高く、A社の生産計画精度
は格段に向上する。これにより、在庫削減が可能となる。

b.取引先に対しては、A社の在庫・生産進捗予定情報を
提供する事により、取引先ではA社に対する発注タイミ
ングを直前まで引き付ける事が可能となる。これにより、
取引先での在庫削減が可能となる。

c.需要予測と生産計画を週単位に見直しを行う事により、
急な需要変動に対応する事が可能となる。これは、A社
および取引先相互において在庫削減が可能となる。

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3.2.業務プロセス統合の可能性検討
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 SCMの導入にあたっては、A社の全ての取引先と協
力体制を築く事が望ましい。しかしながら、A社の取引
先も地方単位に分社されていたり、また工場別に取引を
行っている場合もあり、全体では100社を超えていた。
 これら全ての取引先に一斉にSCMを導入することは
現実的では無い。一方、SCM導入委員会では従来方式
の生産計画の与える影響から、生産量の7割をカバーで
きない場合には、SCM導入のメリットは無いと判断し
ていた。

 これについては、まずA社トップマネジメントの署名
による書面を用意し、取引先への協力要請を行った。し
かしながら、当初快く引き受けてくれた企業は20社に
留まっており、生産量に換算した場合5割という状況で
あった。SCM導入委員会では、以下2点の施策を実施
する事により、最終的には50社で8割の生産量を
カバーできるに至った。

a.取引量の多い重点顧客については、営業取締役自ら訪
問して、協力を要請する。

b.営業部門に対し、A社だけのメリットを追及する業務
改革では無く、相互にメリットを享受するための業務改
革である事を強調させ、取引先への理解を求める。

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3.3.業務プロセスの統合に関する社内・取引先との調整
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 私は、業務プロセスの統合を進めたところで、実際の
業務担当者のレベルで意識改革が進まなければ、高い効
果は望めないと考えた。

 例えば、需要予測と在庫・生産進捗予定情報をA社と
取引先の間で共有する事になるが、予定情報はあくまで
も一つの予測に過ぎない。しかし、これらの情報が日替
わりで大きく変わるようでは、相互に不信感が生まれ業
務プロセスの統合は失敗する。私は、以上の考えを委員
会に提示し、次の対策について事前に取り組んで頂いた。

a.生産効率を追求する場合、同様の品種を連続して製造
する方が望ましい工程もある。従って、少量の注文であ
れば別注文と纏めて作業を実施するように、随時生産計
画の見直しを図っている。しかし生産計画の見直し結果
により出荷可能時期が頻繁に大きく変わるようでは、取
引先に与える影響は大きい。従って、SCM導入委員会
ではトップマネジメントに対し、多少の段取り替えの生
産効率追求よりも一旦提示した生産進捗予定情報を重視
する事について了解を取り付け、トップマネジメントか
らの通達として生産計画部門への指示を行った。これに
より、生産調整部門では充分な権限と責任を持って、従
来よりも段取り替えを多く含む生産計画の立案が可能と
なった。

b.取引先についても、本当に必要な時期と必要な量を提
示して頂けなければ、需要予測に基づいて生産計画を立
案するA社には意味が無い。例えば、手配可能時期に大
量に仕入れてしまうという考え方では、需要変動に弱く
相互に不良在庫を抱える事となってしまう。従って、取
引先の購買部門に対しては、A社営業経由により、需要
予測データがA社でどのように使用されるか、その情報
の重要性について説明を実施して頂き、使用に耐え得る
精度を保って頂く事を御願いした。


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(設問ウ)
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4.業務プロセス統合の評価
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4.1.目標の達成状況
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 SCM導入後1年が経過している現在、A社について
は、目標であった5割の在庫削減を達成している。これ
は、SCM導入委員会からの働きかけが奏効していると
判断する。特にトップマネジメントによる協力要請や、
社内の意識改革の徹底は効果が大きい。

a.取引先については、最終的に80社がSCMに参画し、
約9割の生産量がカバーされている。また、新規の取引
については、SCMへの参画を条件としている。

b.段取り替えについては、従来は月間平均5回であった
ところが、15回まで増えているが、A社では5割の在
庫削減効果に比べれば、切り替えロスは問題にならない
レベルであると判断されている。

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4.2.取引先での評価
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 精度の高い在庫・生産進捗予定の情報提供により、
A社への発注タイミングを平均で1ヶ月引きつける事が
可能になった。取引先での在庫削減の具体的数値につい
ては不明であるが、上記発注タイミングの変更は、取引
先での在庫削減に充分寄与していると考える。





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