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 A社におけるMESパッケージの導入

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(設問ア)
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1.ビジネス変革の概要
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1.1.ビジネス変革の状況
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 A社は電気部品を製造するメーカであり、国内に3ヶ
所の工場を有している。A社の製造する電機部品は、電
気メーカに納入され、最終製品に使用される。また、
A社の製造する部品は特殊加工が必要であり、業界2位
の20%のシェアを確保している。

 A社の月次生産計画は、見込み注文・確定注文から立
案され、ERPの一部として機能してていた。一方、日
別の具体的な作業指示・作業順序、つまりスケジューリ
ングについては、一部のベテラン社員により決定されて
いた。しかし、このスケジューリング方式は以下の理由
により見直しを避けられない状況にあった。

a.生産が多品種少量生産となっており、人間系によるス
ケジューリングは限界に達していた。例えば、納期達成
率で評価した場合、5年間の間に95%が90%にまで
低下していた。

b.ベテラン社員は向こう5年間で定年退職を迎えるが、
高度経済成長以降極端に採用を抑えていたため、充分な
後継者が育っていない。

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1.2.システム全体構想の概要
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 以上の理由からA社ではスケジューリング業務の抜本
的な見直しを喫緊の課題として捉え、
MES(Manufacturing Execution System)パッケージ
の導入検討を開始した。MESパッケージは、注文納期
や、作業条件・設備制約等の種々な制約・条件をパラ
メータ登録し、スケジューリングの自動化を行うもので
ある。A社の受注・出荷管理はERPの一部機能として、
作業指示・実績収集についてはFAとして長年稼動して
いる。今回のMESパッケージ導入の目的は、スケ
ジューリングの自動化を行い、同時にERPとFAの絶
たれた輪を結合する事にある。

 私の勤務するN社は、10年前よりA社情報システム
のアウトソーシングを請け負っており、私はシステムア
ナリストとして参画する事となった。

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(設問イ)
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2.ビジネスの変革とIT活用の貢献
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 前述の通り、5年間の間に納期達成率は5%低下して
いる。これは、多品種少量生産だけでなく、A社および
取引先での在庫削減というビジネス環境の変化に対して、
人間系でのスケジュールが限界に達しているものである。

 システムの全体計画を立案する上で、現行業務の課題
を整理し、システムによる解決策・貢献度を明確にする
事は重要である。一般的に、このフェーズでは実務担当
者へのヒヤリングが行われるが、私は、これまでシステ
ム企画に参加していない現場のスケジュール担当者にい
きなりヒヤリングを行っても充分な成果は得られないで
あろうと判断した。従って、多品種少量生産の与えるス
ケジュールへの影響を一般論や過去の経験から整理し、
A社の特殊性を反映した上でヒヤリングを実施した。以
下は、そのヒヤリングの結果得られた現行業務の課題で
ある。

a.品種数が増えた事により、設備・工程・処理回数も増
加している。これは、スケジュールのバリエーション増
加に直結し、最適なスケジュールを検証する事が困難に
なっている。

b.上記に伴い、上工程でのスケジュールの組替えが、ど
の程度下工程に影響を与えるか予測が難しく、また注文
納期が厳しくなっている事から、結果的にに出荷までに
スケジュールを取り戻す事が不可能な事態が発生してい
る。

c.スケジュール変更を全工程に周知するタイミングが、
交代勤務の変わり目であるため、最大で8時間のタイム
ラグがある。

 いずれの課題も、MESパッケージの導入により実現
される、a.スケジューリングの自動化 b.スケジュール
および作業進捗状況の共有、により改善可能であると判
断できた。尚、A社ではMESパッケージ導入の効果に
ついて、2年後に納期達成率を従来の95%に引上げる
事を目標とした。

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3.重要と考え工夫した点
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3.1.ITの最新動向と自社への適合性
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 MESパッケージの種類は決して豊富では無いが、幾
つかの候補から、A社の特殊性をサポートできるものを
選定した。

a.同一設備を異なる目的で同一ロットが処理される。

b.一度の処理で目的の作業結果が得られない場合には、
現場の判断にて再処理を行う場合がある。

c.ロットアウトした品質異常材を、低グレードの注文に
振り替える場合がある。

 私は、パッケージの選定にあたり、RFPを作成し、
パッケージベンダーに提案を要請した。特にパッケージ
ベンダーが作成する提案書については、他社製品とのベ
ンチマーク重点を置く事を指示した。何故ならば、一般
的にパッケージベンダーは自社製品の長所のみをアピー
ルし、短所を隠そうとする傾向にある事は、私の経験か
ら明白であった。同業他社の視点から競合製品を評価さ
せる事は、より様々な角度でかつカタログスペック以上
に踏み込んだ比較を行う事を目的としたものである。

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3.2.関連システムとの連携方法
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 MESシステムは、ERPとFAの中間に位置するも
のであり、これら関連システムとの連携は必須要件とな
る。連携方式としては、外付けの開発、標準機能とパラ
メータ調整の2通りが考えられる。私は、以下の理由に
より、標準機能とパラメータ調整によりデータ授受可能
なパッケージを選択した。

a.外付け開発の場合には、MESのみならず関連システ
ムのバージョンアップの制約になり、将来的にA社情報
システム全体のボトルネックになる可能性がある。

b.外付け開発の場合には、実際のシステム開発時の工数
を増加させる可能性がある。

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3.3.現行業務からの移行方法
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 MESパッケージの貢献は、a.スケジューリングの自
動化 b.スケジュールおよび作業進捗状況の共有、にあ
る。導入の難易度は、前者が圧倒的に高い事は明白であ
り、当プロジェクトを成功させるためには、実用可能な
スケジュールが自動生成される事にある。

 納期達成率の回復については2年後という長期目標と
して設定された事もあり、私はまず現行レベルの精度を
得る事を目標とし、最適化については運用開始後に
チューニングを行っていく方針を提案した。

 ここで重要なポイントは、自動スケジューリングの結
果を、スケジュール担当者だけが調整したのでは最適化
は全く進まない事にある。スケジュール担当者が最適で
あると判断した条件を、パッケージのパラメータに反映
させてこそ、次回にはより最適なスケジュールが得られ
る。従って、私は少なくともMESパッケージの運用開
始後1年間は、スケジューリング担当者の判断で調整を
行う事を原則禁止し、スケジュールを組替える場合には、
パラメータ調整を行う事を義務付けた。


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(設問ウ)
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4.ビジネスの変革とIT活用の評価
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4.1.目標の達成状況
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 現在MESパッケージ導入より2年を経過しているが、
目標の納期達成率95%は1年後にクリアし、現在では
98%の納期達成率となっている。一方で、ベテラン層
も数人ずつ退職を迎えているが、スケジューリング業務
は円滑に運用されている。

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4.2.施策の貢献度
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 スケジューリングの精度については、当初は5回/週
程度のパラメータの見直しを行っていたが、その後1年
後には1回/月程度に落ち着き、突発的な品質異常が発
生しない限り、自動スケジューリング結果で現場の作業
が可能なレベルに達した。これは、現行業務からの移行
を実施する際に、スケジューリング担当者単独で調整を
行わせず、パラメータの調整をシステムと共同で実施し
た成果であると判断する。
 尚、現在では3回/月程度となっていが、これは新し
い品種・設備のサポートによるものであり、今後もこの
程度の調整は発生すると思われる範囲である。

 以上、目標の達成については、システム全体計画にお
いて考慮した様々な施策が奏効していると判断する。





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