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(A社におけるERP導入計画の立案)

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(設問ア)
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1.統合型業務パッケージの導入計画について
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1.1.A社のビジネス状況
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 A社は電子部品を製造するメーカであり、国内に3ヶ
所の工場を有している。A社の製造する部品は特殊加工
が必要であり、参入する企業は多くない。その中におい
てA社は、15%で4位のシェアを確保している。

 A社では、財務・人事といった共通機能は、主力工場
に集中しているが、営業は5箇所の拠点に分散している。
一方、生産計画の立案から、資材調達・生産・出荷を各
工場個別に行っており、情報システムもまた個別に開発
されていた。このため、以下のような経営課題が認識さ
れていた。

 a.生産管理システムから報告される、在庫・受払い等
  の情報が工場間で共通化されていないため、月次の
  締めに5日間が必要であり、タイムリーな経営判断
   ができない。

 b.営業は注文をどの工場に投入すべきか、生産状況や
  注文の積み上げ状況について、各工場に確認をとら
  ねばならず、事務工期のために注文を逃がしている
  場合がある。

 c.資材調達を、各工場で実施しているため、スケール
  メリットを活かした商談ができない。

 このような背景から、A社では情報の統合化と、業務
の抜本的な再構築に着手する事を決定した。

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1.2.導入計画の概要
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 A社では、基幹業務を見直すに当たり、ベストプラク
ティスを求め、統合型業務パッケージ(以下、ERP)
の導入を決定した。その計画の概要は、以下の通りであ
る。

 a.社長直属の組織として「ERP導入委員会」を発足
  し、トップダウンで導入を進める。

 b.基本的には、ERPのベストプラクティスを採用す
  るが、自社の強み・他社との差別化は一層伸長させ
  る。

 c.現状の課題を解決するために、全工場への一斉導入
  を図る。

 私の勤務するN社は、長年A社の情報システムのアウ
トソーシングを請負っており、私は今回システムアナリ
ストとして、ERP導入に携わる事となった。

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(設問イ)
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2.統合型業務パッケージ導入の基本方針と工夫した点
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2.1.ベストプラクティスの適用方針
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 ERPの導入は、システムの再構築では無く、業務の
再構築でなければならい。従って、まずERPの持つベ
ストプラクティスを理解し、全体最適となるように新業
務プロセスを設計する事となる。一方で、A社が4位の
シェアを獲得できている成功要因を分析し、その成功要
因が、ERPの導入により失われないようにしなければ
ならない。私は、まずERPの候補を洗い出すと同時に、
A社の強みとなる業務の分析に着手した。

 多くのERPの生い立ちはMRPにあるが、A社のよ
うなプロセス産業ではMRPは適用できない。そこで、
私は複数のベンダーに対し、プロセス産業向けERPの
プレゼンテーションを実施させた。一方、A社の成功要
因については、過去の顧客満足度調査のアンケート結果
や、ERP導入委員会での議論の結果、圧倒的に高い品
質保証体制にあると分析された。

 各社のプレゼンテーションが終了した後、具体的な
パッケージを選定する事となるが、選定における最も重
要なポイントは、全体最適の実現性と、品質保証体制の
伸長にある。具体的な選定方法としては、これに適用事
例・価格・サポート体制等の評価項目を加え、ERP導
入委員会の全メンバによる5段階別の評価を実施した。

 結果的に、X社のパッケージが採用される事となった
が、生産管理の特に品質保証機能については、パッケー
ジの適用を断念しスクラッチ開発を行う事を決定した。
その理由は、無理にERPを適用した場合、ハンド業務
が増えるばかりか、逆にA社の強みを失う可能性が高い
と判断した為である。

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2.2.機能の追加・変更方針
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 前述の通り、品質保証以外の部分にはERPを全面的
に適用する事となったが、一部にはERPでカバーでき
ない例外処理も存在する。これについては、アドオン開
発にて対応する事となるが、これを無制限に認めた場合、
工期・予算を守れないばかりか、本来のERP導入の目
的を逸しかねない。

 私は、アドオン開発に対する部門間の不公平感を防ぎ、
プロジェクトを工期・予算内に納めるためには、開発を
承認するためのルールを早期に確立する事が重要である
と考え、以下の通り定めた。

 a.承認は対象業務部門とシステム部門で決定するので
  は無く、ERP導入委員会で承認を得る。

 b.例外処理の洗い出しと承認は、初期のギャップ分析・
  業務設計のフェーズに限定する。

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2.3.トップダウン的プロジェクトの運営方針
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 ERP導入委員会は社長直属の組織である事は既に述
べた。これにより、各業務部門は個別最適の主張を抑え、
全体最適の視点でプロジェクトは進められると考えた。

 しかし、今回の業務再構築においては、従来各工場で
実施していた業務の集中化も含まれており、A社組織の
見直しも避けて通れない状況にあった。従って、私は業
務・組織改革を、トップダウン的に進める事を推進する
ために、以下の施策を実施して頂いた。

 a.3ヶ所の工場を訪問し説明会の実施
 b.協力会社を含む全社員に文書の配布
 c.管理職向けには、コアコンピタンスへの集中に向け
  解決すべき課題等、討論会の開催

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2.4.移行方針
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 A社基幹業務の再構築であるため、特定の工場・機能
を限定した適用開始は現実的では無い。私は、会計年度
の変わり目をターゲットとしたスケジュールを策定した。

 しかし、基幹業務の再構築である事は、システムの切
り替えによるトラブルは絶対に避けなければならない事
を意味する。私は基本方針に、以下の施策を織り込む事
とした。

 a.移行のリハーサルは、3回実施する。
 b.トレーニングの期間を、1ヶ月用意し、全ての従業
  員がトレーニングに参加できる期間と環境を用意す
  る。
 c.切り替え時には、全3ヶ所の工場に、システム要員
  を配置し、24時間体制を敷く。

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(設問ウ)
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3.統合型業務パッケージ導入計画の評価
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 前述の導入方針に従い、ERPの導入は進み、現在で
は稼動後1年を経過している。

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3.1.ベストプラクティスの適用方針
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 品質保証はスクラッチ開発で、それ以外の機能はベス
トプラクティスを適用するという方針を採用した結果、
A社では自社の強みを活かしたまま、全体最適を図る事
に成功した。

 無理にERPの適用を行った場合、品質保証に関する
業務負荷は2〜3倍であったと予測されており、また加
えて品質異常材の誤出荷にも繋がった可能性もあるとの
事から、私は自身の定めたベストプラクティスの適用方
針を高く評価している。

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3.2.A社ビジネスへの貢献
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 ERPの導入結果、A社では製造原価で3%、販売価
格で2%の引き下げに成功しており、現在では、20%
で業界2位のシェアを確保している。これは、業務効率
化に伴う派遣社員の削減、情報の統合化にともなう正確
な原価把握・効率的な生産計画の策定等が寄与している
と判断する。





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