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レンズ製造業社における生産計画システム導入計画に対する監査について

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(設問ア)
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1.私の携わった業務の概要とIT投資の目的および期待される効果
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1.1.監査対象となった企業
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  I社はレンズ加工業者として従来,一眼レフカメラや
眼鏡用のレンズを製造し各種メーカーに納入してきた。
最近ではデジタルカメラ,特に携帯電話付属のカメラ用
のレンズの受注が増えてきている。これらデジタルカメ
ラ,携帯電話の特徴として製品の仕様決定,設計,市場
投入までの期間が非常に短く,また製品寿命が非常に短
いことがあげられる。このためメーカー側としても各種
製品の生産ラインを垂直立ち上げする必要があるが,
 I社としてもメーカーの動向にあわせ生産ラインを短期
間に組替え,対応する体制を築く必要があった。また,
メーカー保証目的で一定数の在庫を確保,納入する必要
があるものの,新製品の投入サイクルが短いために過剰
な在庫による不良資産の増加というリスクが大きくなっ
ている。

 そのような中,品質の改善(ISO9001の認定取得) ,環
境に配慮した製造工程の確立(ISO14001の認定取得)が求
められ I社の外部環境は非常に厳しいものとなっている。

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1.2.IT投資の目的
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  I社経営陣は1.1.で述べたような外部環境に対応する
ために生産管理システムの導入を検討している。システ
ムの導入については以下のような事情のため生産管理
パッケージによるシステム構築の実績のある外部ベンダ
に対し生産管理システムの構築を発注することとした。
a.自社システム運用部門のスキル不足 
b.パッケージ利用による初期投資の抑止

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1.3.期待されるIT投資効果
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  I社は今回のシステム構築により受注から納品までの
各工程の作業状況,原材料発注状況,必要な冶具などの
整備状況を可視化し,また,納入先メーカーの急な注文
にも対応できるような体制を実現することを期待してい
る。また,ゆくゆくは蓄積された週時,日時の生産計画
データを活用し業務改善につなげたいと考えている。

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1.4.私の役割
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 私は今回の I社生産計画システム構築において,シス
テムの企画,設計,開発,導入までの各工程において監
査を依頼されたシステム監査法人に所属している。主に
 I社生産管理システムの企画,設計の工程に対する監査
を担当した。本論文では企画についての監査について述
べる。

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(設問イ)
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2.想定されるリスクへの対応および
    法制度面での準拠製確保に関する考慮点
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2.1.IT投資において想定されるリスク
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 主要なリスクとして以下のようなものがある。
a.組織体制の欠陥によるプロジェクトの失敗
b.経営戦略とIT投資の間の不整合に起因する無用なスシ
 テムの構築
c.運用開始後のIT投資が把握できない
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2.2.IT投資においてリスクを低減するための対応策
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 企画段階では以下のようなリスク軽減策がある。

a.システム導入のための全社的組織体制の確立
 例えば,役員をヘッドとした「生産管理システム導入・
改善委員会」を設置し,この下部組織として企画部会
(事務局),生産情報共有部会などを置く。また,企画
部会の構成メンバは単にシステムに詳しいものだけを参
画させるのではなく,生産ラインに従事するものも参画
させる。

 経営陣は生産管理システム導入・改善委員会の運営に
積極的に関与すると共に,各従業員に対するシステム導
入に対する啓蒙に努める。

b.経営体制とIT投資の間の整合性チェック
 通常情報システムの導入計画は経営戦略に基づいて策
定されなくてはならない。この場合,生産管理システム
の導入目的が経営戦略(例えば I社として将来的にはど
のような生産体制,経営体質を築くのか)とどのような
関わりがあるのか明確にする必要がある。そのために生
産管理システムへの投資段階から経営戦略との整合性を
チェックする必要がある。また,システム導入時に陥り
やすい罠としては,あまりにも現在の業務の進め方に固
執するあまり,パッケージのカスタマイズや不必要なア
ドオン開発を行ってしまい,導入費用が初期見積もりよ
りも大幅に増えてしまうということがある。そのリスク
を避けるために,システム導入にあたっては経営戦略を
さらに業務レベルにブレイクダウンし,業務の流れの改
善点を明確化しどのようにシステムを導入するかという
点まで考慮する必要がある。

 また,外部ベンダのシステム構築実績などの情報も積
極的に収集し, I社の経営戦略に沿ったシステムを構築
できる外部ベンダを選定する必要がある。これはパッ
ケージ開発ベンダとシステム構築ベンダが別であること
が多いという事実を鑑みている。同一のパッケージを
扱っているシステム構築ベンダであってもチュートリア
ルレベルのスキルしか保有していないベンダなのか,
パッケージの全ての機能に精通し適切なパラメータ設定
を行うことができるスキルを保有しているベンダなのか
によっても導入コストは結果的に後者のほうが低く押さ
えられるということがあるためである。

c.運用開始後のIT投資効果の評価尺度の策定
 今回の生産管理システム導入目的は,レンズメーカー
としての I社は各種メーカーにとってはサプライヤーの
立場であり,メーカーの動向にすばやく対応する必要性
の高まりがきっかけになっている。また,1.でも述べた
ように,ISO9001,ISO14001 なども考慮するという点に
も考慮しなくてはならない。以上の点をどの程度まで達
成できたかを明示的に評価するための評価尺度を策定す
る必要がある。

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2.3.法制面での準拠性の確保
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 労働安全に関する法令,個人情報保護法,特許法,著
作権法,刑法など必要な資料を調査・収集し,かつ
ISO9001に準拠した品質保証体制, ISO14001に準拠した
環境面へ配慮した生産体制を確立し,システムに反映す
る必要がある。

 法規制や, ISO9001,ISO14001への適合,維持は組織
の責任である。そのため監査にあたって,以下の事項に
ついて仮に遵法性に問題があれば経営陣に対処を勧告す
る。
a.法規制,ISO9001, ISO14001 の要求事項に継続的に適
 合するシステムが機能し,信頼性があること。
b.組織がa.で述べた要求事項に対する適合性を評価てし
 いること。
c.当該法規制に対して不適合がある場合,適切な処置を
 取っていること。

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2.4.IT投資に対する効果を得るための対策
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 システム運用後において,計画段階で期待された効果
が実現されるためには以下のような対策が必要である。
a.期待される効果を従業員各員に周知徹底する。
b.運用ガイドや導入後の業務の流れの変更点について導
 入前・後の教育を実施する。
c.運用効果を測定するための情報収集体制と評価尺度を
  明確に準備する。
d.定量的な効果のみではなく,定性的な評価ができるよ
 うな工夫を行う。

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(設問ウ)
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3.IT投資計画の適切性を監査する場合の監査ポイント
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3.1.監査項目
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  I社生産計画システム構築にあたって以下の項目を監
査項目とした。

a.生産計画システム導入にあたり,全社的な組織体制が
 確立されているか。
b.経営戦略が経営方針に合致しているか。
c.生産計画システム投資計画が経営戦略に整合している
 か。
d.外部ベンダ選定基準が明確化されているか。
e.コンティジェンシー・プランは策定されているか。
f.生産計画システムへの投資に対するリスク分析が適切
 に実施されているか。
g.生産計画システムへの投資に対する評価基準は妥当か。
h.生産計画システム運用開始後のシステムに対する有効
 性評価基準があらかじめ策定されているか。

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3.2.着眼点
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 監査にあたっては以下の点を着眼点とした。
a.社長の年頭挨拶(社内報などでの社長自身のあいさつ
 文),常務会議事録,年次計画書,過去の監査報告書,
 経営陣に対するヒアリングなどからの情報収集。
b.生産計画パッケージシステムおよび外部ベンダについ
 ての情報収集状況。可能な場合はベンダに対するRFP
 の記述内容
c.現状のシステム運用マニュアルの点検
d.利害関係者(現システム運用部門,生産ライン責任者
 など)の意見。
e.生産計画システム投資効果の評価基準の定量化。

以上





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