Click here to visit our sponsor



----------------------------------------------------------------------

(ソフトウェアパッケージの導入に伴うシステム監査について)

----------------------------------------------------------------------


----------------------------------------------------------------------
(設問ア)
----------------------------------------------------------------------
1.1 パッケージ導入の概要
----------------------------------------------------------------------
 私はレンズ製造業者 I社のシステム監査室に所属して
いる。従来は社内イントラネット,会計システムなどの
運用状況についての自己監査を主に担当してきた。当社
の主な取引先は大手プリンタ /スキャナメーカー C社で
あり,主にスキャナ用レンズを納入している。今まで当
社では生産管理は人手によっていた。これは,従来は
 C社からの受注サイクルがほぼ月次に一回という一定の
サイクルで発生しており,他取引先からの受注について
もほぼ同様の状況にあったためである。これに対し,
 C社は現在 SCMシステムを構築・運用中でありサプライ
ヤーとしての当社も対応が必要となった。

  C社の SCMシステム構築に伴う影響として C社からの
受注内容の変動が大きくなるということが考えられる
 (月次から週次,日時での受注情報の発生や特急注文の
増加などが考えられる)。 この影響に対し,従来どおり
の人手による対応も検討したが現在の月次による生産計
画 (およびそれに伴う原材料の調達計画) 立案のリード
タイムが見直し期間も含め 1週間と大きいため,受注内
容の変動に対しての対応は困難と考えられた。また,受
注変動が大きいということは,変更された受注の影響を
他の受注が被るということである。従って,納期回答の
精度が大きく下がるというリスクが発生する。以上の理
由により A社製生産計画パッケージの導入を検討を開始
した。

----------------------------------------------------------------------
1.2.A社製生産計画パッケージの導入を検討した背景
----------------------------------------------------------------------
  C社に対する他のサプライヤーでも A社製生産計画
パッケージを導入し C社からの要求に応じている実績が
ある。このパッケージはPC上で稼動し,カタログスペッ
ク上はパラメタ調整によって導入先ごとの実情に合わせ
たスケジューリングロジックを選択できる。また,マク
ロによるカスタマイズ機能を搭載しており,パラメタ調
整だけでは対応できない場合でも必要に応じ,機能を追
加できる。また,当社の近辺でも A社製生産計画パッ
ケージを核としたソリューションビジネスを展開してい
るベンダが数多くあり,導入後のサポートも十分期待で
きる。

 しかし, A社製生産計画パッケージは従来組み立て加
工業を中心とした製造現場に対し導入されている事例が
ほとんどであり,自社のようなレンズ業界での導入事例
は少ない。そのため,当社のシステム導入の背景を十分
に汲み取り,システム構築から運用・保守まで委託でき
るベンダを選択する必要がある。

----------------------------------------------------------------------
1.3.カスタマイズやビジネスプロセスの変更
----------------------------------------------------------------------
 当社は今回のパッケージ導入に辺り,目標とする姿と
して受注に対し現在どのような仕掛状態にあるのか (ど
の工程まで終了しており,いつ納入できるのか) という
情報を営業部門,生産管理部門,生産部門,間接部門の
社内の全ての部門において情報を共有する目標を掲げた。
しかし自社内にはソフトウェアの開発スキルを十分に
持った要員がいないという事情があり,要件定義をまと
めた後はベンダ側にシステムの構築,保守を依頼すると
いう方針でいる。

 当社のシステム監査室は A社製生産計画パッケージの
導入においても多数の失敗事例があるという情報を入手
しており,上記のシステムの企画段階のシステム監査を
実施することとなった。私はシステム導入企画段階の監
査チームの一員として参加した。

----------------------------------------------------------------------
(設問イ)
----------------------------------------------------------------------
2.1.コントロールの低下をもたらすリスク
----------------------------------------------------------------------
 現状の業務の流れ,またはその改善案と生産計画パッ
ケージの用意している処理内容の間にはギャップが必ず
存在する。このギャップがコントロールの低下を招く可
能性がある

a.情報システムの導入そのものに対するリスク
 従来は受注変動に対しての生産計画の現場への作業指
示変更は人手により行っていた。当社の規模であると,
計画立案者の作業現場と,実際の製造現場の距離が近い
ということもあり,計画立案者が都度現場に立つ作業員
へその理由を説明してきた.

 生産計画パッケージはスケジューリングに関する全て
の処理や,受注変動への対応処理を自動的に行える反面,
計画に変更が加えられた場合何が理由なのか明確化され
ない場合がある。これは現場に立つ作業員にとっては計
画の変更についての説明が十分にされず,システムに振
り回されて作業するという不信感が発生する可能性があ
る。

 当社の規模では作業員のモチベーションの低下は即座
に生産性の低下に繋がるため,導入にあたって単に計画
システムを導入するだけでなく,なぜ作業指示が変更さ
れたのかを明確にする仕掛け作りにも取り組まなければ
ならない。この仕掛け作りの対応策の一つとしてパッ
ケージのカスタマイズ機能を利用し,受注に対する計画
変更履歴(いつ,どのような理由で変更されたか)を作成
することができないか検討する必要がある。

b.安全性に対するリスク
 計画システムを一度導入するとほとんどの事例では人
手による生産計画立案業務へは戻すことはできない。
パッケージの提供するデータリカバリ機能(障害発生の
未然防止,障害の影響の最小化,障害の迅速対応)が不
十分な恐れがある。企業にとっての情報システムの重要
度により,対策も異なってくる。

  A社製生産計画パッケージの導入にあたっても最低限
の「バックアップリカバリ対策」が整備されていなくて
はならない。また,システムが稼動できない場合への対
応方法についても明確化していなくてはならない。もし
バックアップリカバリ対策が十分でない場合,計画が立
案できないというだけでなく実際の作業現場に混乱をき
たし,最終的に顧客からの受注に対し納期を遵守できず,
顧客からの信頼を失う(顧客離れを引き起こす)可能性が
ある。

c.効率性に対するリスク
 生産計画システムではその性質上,品目に対する工程
情報,および工程間の歩留まり率 (不良率) などのマス
タ情報が常に最新のものに保たれていなくてはならない。
また,生産設備の耐用年数なども考慮し,メンテナンス
時期や交換の時期にあたる計画情報についてどのように
対策をとっているのか,スペック面についてだけでも明
確にする必要がある。

 また,当社が生産計画システムを導入するきっかけは
主な取引先であるC社のSCMシステム構築に伴うものであ
る。これは C社の SCMシステムの変更に伴い,当社側で
も何らかの対応をシステム上取る可能性があるというこ
とである。

d.生産計画システムの有効性に対するリスク
 生産計画システム導入時のシステム化目標が現場レベ
ルにおいて明確でない場合,導入した生産計画システム
が当社のビジネス目的に適合しない恐れがあり,結果と
して投資が無駄になる可能性がある。

e.ベンダ選定に関するリスク
 今回のシステム導入にあたっては外部ベンダに対し,
パッケージによるシステム構築を依頼することになる。
ベンダ間の技術力の差により,実際のシステム構築後に
有効に活用できるシステムが実現されないリスクがある。

----------------------------------------------------------------------
2.2.監査の必要性
----------------------------------------------------------------------
a.情報システムの導入に関しての監査
 今回導入するシステムの導入にあたり,単に経営陣が
導入を決めたから導入するというのではなく,現場に立
つ作業員一人一人がその意義について十分に教育を受け
ていることを独立の第三者により評価する必要がある。
2.1 にも述べたように現場の作業員がシステム導入に伴
い,作業へのモチベーションを低くすることのないよう
に,システム導入に関する作業員に対する教育,および
フォローアップの仕組み作りについてシステム監査を実
施する必要がある。

b.情報システム導入効果についての監査
 以下の点についてシステム導入効果についてシステム
監査を実施して点検・評価し確認する必要がある。
 - 生産計画立案リードタイムの短縮率。
 - 受注変動に対する対応状況。
 - 各受注に対しての仕掛り状況が可視化されているか。

----------------------------------------------------------------------
(設問ウ)
----------------------------------------------------------------------
3.コントロールの適切性の監査の留意点
----------------------------------------------------------------------
3.1. システム導入目的の明確化
----
 当社の今回の生産計画システムの導入のきっかけは主
な取引先である C社の動向に対応するためのものである。
このようにどちらかといえば受身的なきっかけではある
が,単に「 C社にあわせなくてはならないから」という
理由だけでなく,システム導入によって当社として新た
にどのようなことを実現しなくてはならないのかという
目的を明確にしなくてはならない。また,明確にした後,
目的の間に優先順位をつけ,関係者間で共通の認識合せ
を行う必要がある。当社は今回の導入における目的を以
下のように設定した。

 - 受注単位での生産リードタイムの可視化,共有化。
 - 顧客からの納期回答リードタイムを最大 3日かかっ
 ていたものを最大でも1時間まで短縮する。
 - 生産計画立案サイクルを現在の月次から日次に短縮
 する。
 - 仕掛在庫数量を可視化する。

----
3.2.付加機能を最小限度にする。
----
 今回導入することを決めた A社製生産計画パッケージ
は,マクロによるカスタマイズ機能を搭載していること
をセールスポイントとしている。ただし,初期導入時は
可能な限りパラメタ調整のみによる対応とすることとし、
受注変動履歴管理のみを追加機能として開発する。また,
生産現場に出している計画指示書などの帳票類について
も可能な限り A社製パッケージの提供するフォーマット
にあわせるように業務の流れを変更し,パッケージの
バージョンアップなどに対応しやすくする業務の仕組み
を考慮しているかチェックする必要がある。

----
3.3.システム導入に当たり責任者,担当者を明確にする
----
 生産計画システムではマスタデータを最新のものに維
持することが立案結果の精度を高める為の必要条件とな
る。今回導入するシステムでは,従来の当社の業務では
明確にデータ化されていないものも必要項目としている
ため,どのデータについてはどの部門が責任を持って保
守,管理するのかを明確にする必要がある。

 今回のシステム導入にあたっては,データを常に最新
のものに保つという観点からみると生産計画立案担当者
だけでこの作業を行うのはデータの量から推測しても無
理なことである。そのため改めてデータごとに責任者を
明確にする必要がある。

----
3.4. システムの安全性を確保する
----
 PCの場合,ハード面,ソフト面の双方の観点から見て
もセキュリティ機能が弱いのが通例である。従ってシス
テム運用上は人間によるセキュリティ対策に重点を置き,
システム上のセキュリティ対策を補完的に行うこととし
た。以下のような項目がチェック対象となる

 a.複数ユーザが利用する場合の利用ルールの有無とそ
  の遵守状況
 b.プログラム,データの取扱,および保管状況
 c.プログラム,データのバックアップ・リカバリーな
  どの障害対策状況
 d.パスワード等アクセスコントロール機能の状況
 e.セキュリティーホールの有無
 f.障害時対応手順

----
3.5. システムの有効性の確保
----
 情報システムの構築については,投資収益性が要件と
なるのが一般的である。一つの選択肢が他の物よりも良
い場合には,時間と資金を無駄にしないためにも,良く
ないと思われるプロセス設計は途中で切り捨てているか
をチェックする。

 最後にシステムの目的に照らして設計されたシステム
の妥当性がチェックされているかを,企画書や設計書な
どの監査証跡に基づいて監査を行う。

以上





[ 戻る ]