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(部門間にまたがる業務プロセスの"あるべき姿"に基づいた
                     改革の立案について)

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(設問ア)
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1.部門間にまたがる業務プロセスの改革について
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1.1 改革に至った背景
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 A社は、中堅のバルブ製造・販売会社である。この業
界は、典型的な多品種少量生産で、大きな新製品の開発
も少なく、納期管理とコストダウンが重要な経営課題と
なっている。しかるに、A社では、近年在庫過多が経営
を圧迫し、早急な対策が必要であった。

 A社の社長は、私が所属するベンダー系のSI企業に
現状の業務プロセスの分析と問題点を解決する情報シス
テムの提案を依頼した。

 私は、システムアナリストとして、現状業務プロセス
の分析を行い、業務プロセスの改善を考慮した情報戦略
とシステム計画の立案を担当することになった。

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1.2 改革の概要
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 A社は、販売部門、生産部門、調達部門が以下のよう
に役割分担している。
〔販売部門〕販売計画の策定・販売業務・物流管理
〔生産部門〕生産計画の策定・生産・在庫管理
〔調達部門〕材料の調達

 販売計画から実際の製造までの一連の流れの中で、販
売計画の精度が低いため、在庫切れを恐れて過剰生産が
発生していた。この問題を解決するために、以下の改革
を実施することになった。
・販売部門の需要予測の精度の向上を図る。
・販売活動のための販売計画と生産手配のための販売計
 画を一致させる。
・販売計画と販売実績の差異分析を行い、次の販売計画
 に反映する。

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(設問イ)
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2.改革の立案
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2.1 現行の業務プロセス
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 私は、A社の社長に進言し、各部門の責任者・担当者
を含めた業務改革委員会を立ち上げた。業務改革委員会
は、現在の業務プロセスの把握と、改革実施を円滑に行
うため、社長を委員長とする全社横断的な組織となる。
業務改革委員会を通して、現行業務の分析と問題点の洗
い出しを行い、その結果、以下のことが判明した。

〔販売部門〕
・販売計画は、前年度の実績の5%アップと言った、
 「これぐらい売りたい」という目標的意味合いの強い、
 半期単位の総額を重視したものとなっている。
・販売実績との差異分析も、半期に1回、総額レベルで
 しか行われていない。
・営業日報が単なる就業管理にしか使われておらず、
 個々の営業が取引先を回って得た需要見込み情報は販
 売部門内でも情報共有されていない。

〔生産部門〕
・販売計画が目標レベルとなっているため、生産部門で
 は、前年の実績をベースに、個々の製品の販売数量の
 月次単位の予測を行い、生産量を計算している。
・販売部門の短納期の圧力が強いため、過剰気味の生産
 量となっている。

〔調達部門〕
・生産計画に従い材料が調達されており、大きな業務プ
 ロセス上の問題点はない。

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2.2 "あるべき姿"とのギャップ
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 製造業においては、精度の高い需要予測、それに呼応
した生産計画、生産計画に呼応した調達計画と言った、
一気通巻した業務の流れが実現出来ていなければならな
い。また、需要予測の見直しに応じて、タイムリーに生
産計画に反映されなければならない。さらに全体のリー
ドタイムを短縮して、安全在庫を削減しなければならな
い。しかるに、A社では販売部門と生産部門との間で連
携が足りず、問題が多数発生している。

 私は、販売部門に特に大きな問題があると考え、販売
部門の責任者からだけでなく、一般の営業員にも聞き取
り調査を実施した。その結果、販売部門では売上をベー
スに評価されるため、チームとしての仕事意識が低いこ
とも判明した。

 システムで個々の問題の解決を支援するだけでなく、
評価の仕組みも含めて、全体の業務プロセスを改革する
必要がある。

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2.3 対策
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 私は、A社の業務を分析した結果、次の対策が必要で
あると判断した。

(1) 精度の高い需要予測に基づいた販売計画の立案
 まず、第一に、販売部門が、各営業拠点の需要予測を
積み上げ、販売精度の高い販売計画を立案しなければな
らない。そのためには、各営業拠点が前年度実績、市場
動向、個々の営業が把握している受注見込み情報を加味
して、出来るだけ正確な需要予測を提供する必要がある。
販売計画と生産計画との周期を同期させて、その周期で
販売目標と販売実績の差異分析を行い、次の販売計画に
反映する必要がある。販売計画の周期は、今までの生産
計画のサイクルに合わせて、月次が妥当とした。

(2) 販売計画に呼応した生産計画の策定
 生産部門は、生産手配のための販売計画を立てるのを
止めて、販売部門が立案して経営層が承認した販売計画
に従って、生産計画を策定する。生産部門は、品質・生
産性向上・納期管理に注力することが可能となる。

(3) 販売計画と実績の差異分析と、販売計画への反映
 販売部門が責任を持って、月次で計画と実績の差異分
析を各営業拠点単位で行い、次の販売計画に反映するよ
うにする。

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2.4 特に重要と考え、工夫した点
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 全体の業務プロセスの変更は、従来の慣れたやり方を
変更することになるので、強い抵抗を受けることが予想
される。しかも足並みを揃える必要があるため、トップ
の積極的な参画は必須である。
 私は、上記対策の必要性をA社の社長に納得してもら
い、トップダウンで以下の項目を進めることになった。

(1) 需要予測精度向上のための情報共有の仕組み
 過去の販売実績を取引先別、月別にレポートする機能
を、現在の販売システムに追加する。さらに、営業が取
引先を回って得た需要見込み情報を営業報告で報告させ、
予定通りに受注が進みそうかどうか、特別な需要変動が
ないかなどを情報収集することにした。
 質の高い情報を得るためには、営業の入力負担を減ら
す必要があり、営業力強化もにらんで、携帯端末からの
参照・入力が可能なグループウェアを導入することにし
た。営業の評価も、売上だけでなく、受注前の需要見込
み情報の入力など、全体に貢献するものについても行う
ようにする。

(2) 月1回の販売会議の実施と生産部門、調達部門の参加
 販売計画の実績の差異分析結果の報告と、次の販売計
画の承認を行う販売会議を月1回実施する。その会議に
生産部門と調達部門の責任者も参加して、全体の調整も
行うことにした。これらの改革を混乱なく実施するため
に、従業員の啓蒙・教育の徹底も行った。

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(設問ウ)
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3.私の評価
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3.1 評価
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 単にシステムの改善・導入に留まらず、A社の業務プ
ロセス全体を改善することが出来た。その結果、A社の
社長とも深い信頼関係を結ぶことが出来た。

 最初からステークホルダーを参画させた業務改革委員
会で議論することにより、各部門責任者も全体の視点で
自部門の役割を考えられるようになった。

 販売部門では、受注前の需要見込み情報の入力を評価
指標に加えたことにより、受注の7割が事前に察知出来
るレベルになった。

 販売計画も、9割の精度で推移しており、実際の在庫
量も2割削減することが出来た。

 私は、これらのことから、この業務プロセスの改革は
成功したと判断している。

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3.2 今後の課題
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 今回は、全体のプロセスを一気通巻に流れるようにす
るために主に販売部門の改革に力を入れたが、さらなる
在庫削減を目指すには、生産部門・調達部門の計画の単
位もさらに短く出来ないかを検討し、全体のリードタイ
ムの短縮を図り、変化に強い企業システムを構築する必
要がある。



(注意事項)
この論文の題材には、以下の内容を使用した。

中小企業診断士2次試験 診断助言事例クイックマスター
(甲方秀一氏共著・監修 同友館)

ITエンジニアのための【業務知識】がわかる本
(三好康之氏編著 翔泳社)





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