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 部門間にまたがる業務プロセスの"あるべき姿"に基づいた
                     改革の立案について

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(設問ア)
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1.改革に至った背景と概要
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1.1.システム構想の背景
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 A 社は全国の主要地域に工場を展開している段ボール
メーカーである.近年A 社の顧客にSCM (サプライ
チェーンマネジメントシステム)を構築する顧客が増え
てきたこと,また段ボールの製造リードタイムが1 日を
切ることが多いという関係で,顧客からの受注の確定が,
A 社工場からの出荷日の1 〜 2日前となることが増えて
きている.そのためA 社はB 社,C 社というA 社が工場
を展開していない地域を拠点とする段ボールメーカーを
子会社化した.B 社,C 社はA 社グループ企業となる前
は各々独立したシステムをもとに生産計画業務を行って
いた.A 社としてはグループ内で異なるシステム基盤を
持つことは事業の発展の妨げになると捉えており,グ
ループ内での生産計画業務の合理化という観点から生産
計画システムの刷新が必要と考えていた.

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1.2.業務の「あるべき姿」
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 A 社はグループ内の生産計画業務を共通化したいと考
えている.これは情報システムの共通化のみならず業務
プロセスも共通化することも意味する.A 社,B 社,C
社という各々異なる企業文化のなか培われてきた業務プ
ロセスをそのままにシステムを共通化しても却って業務
が非効率化すると考えられたためである.そこで,各三
社の生産管理部門のキーマンおよび担当役員で構成され
るプロジェクトを発足し,グループ内の業務プロセスを
含めた生産計画システムの再構築を行うこととなった.

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1.3.私の立場
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 私は主に生産計画ソリューションビジネスを展開して
いるH 社のシステムエンジニアである。今回のA 社
グループ生産計画システム刷新プロジェクトにH 社のプ
ロジェクトリーダーとして要件定義から携わった。


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(設問イ)
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2.私の立案した業務のあるべき姿と現状とのギャップの解消
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2.1.立案した業務のあるべき姿
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 1.で述べたようにA 社,B 社,C 社のそれぞれ異なる
生産計画システムを使用して業務を行っている.これら
三社の生産計画システムを統一するには以下のような方
法が考えられた.

1)親会社であるA 社のシステム,業務プロセスに統一す
 る.

2)親会社,子会社という立場にとらわれず,三社のうち
 最もA 社グループの目指す姿に近いシステム,業務プ
 ロセスに統一する.

3)まったく新しい業務プロセスとそれを実現するための
 システムを開発する.

 私は,今回のプロジェクトに参画するにあたって,
A 社の現行システムの性能評価に関する資料,B 社,
C 社で使用しているパッケージのカタログスペックや市
場での評価を入手していた。それを元に検討を進め,上
記で述べた2)の方針の下,C 社で使用しているパッケー
ジを利用することを前提として以下の業務フローを取り
入れることを提案した。

1)工場の生産ライン稼動時間帯は夜22:00 から翌15:00
までの二交代制とする(これは現行の三社の勤務シフト
と同じである)。このようにすることで工場内の製品在
庫を極力持たないようにし,かつ顧客の求める納期に極
力ちかい日時に納入することで顧客の資材在庫も減らす
ことができる.

2)生産計画業務に必要な日別の注文情報の締め時間は夕
方18:00 とする。

3)生産計画業務は夕方16:00 から19:00 までとする。締
め時間との間に二時間の重なりを持たせるのは,段ボー
ルが製造リードの短い包装材という特性を持つ関係で,
顧客からの受注が確定するのが顧客先からの出荷計画立
案終了後ということも起こり得るため,受注内容のぶれ
を吸収するためである。

4)段ボール製造の際には段ボール原紙製造に用いる個々
の紙の種類の変更や,切断する幅を見ながらロットまと
めと呼ばれる処理を行う。紙の種類の変更に伴う材料の
原価の増加や「落ち」と呼ばれる,無駄な部分が発生せ
ざるを得ないが,パッケージの原価の増加を極力押さえ
たロットまとめを実現できる.計画立案時にはパッケー
ジの自動立案機能をそのまま利用し,計画業務の負荷を
軽減する。

5)将来的には工場の製造設備の中で保守費用の大きい,
段ボール原紙製造設備の保有を減らすため,現A 社,B
社,C 社の枠を超え各工場の製造工程ごとの専門化,集
約を行い,より製造原価を下げる.

6) 5) を見据え,地域代表工場を従来のA 社,B 社,C
社の枠にとらわれずに選定し,ある地域内の生産計画業
務は地域代表工場に集約する.

 今回,C 社の業務フロー,及びシステムをベースとし
た提案した理由は,C 社の生産管理部門は他社に比べ5
割少なく、売上を生産管理部門の人員で割った労働生産
性についても,C 社が群を抜いていた。これはC 社では
パッケージの立案する生産計画を補正することなく,そ
のまま利用している成果であることが判った。加えて,
上記5)に記述した生産モデルに対応できる.従って,C
社で使用しているパッケージを利用した以上の方式を生
産計画立案の "あるべき姿" とした。

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2.2.現状とのギャップ
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 2.1.で述べた"あるべき姿"はC 社で使用している生産
計画パッケージの利用を前提にしたものであった。これ
に対し,A 社,B 社のプロジェクト要員から以下のよう
な疑問点を寄せられた。

1)A 社でも段ボール製造時に発生する「落ち」の減少を
重視している。しかし受注の小ロット化が進んでおり,
自動立案の結果だけでは不満足な結果しか得られないの
ではないか? 現行システムでも自動立案の結果の調整
業務が計画立案業務の中心になっている。

1-1)1)に関連して,特に小ロットの製造が主体になって
いる工場では,受注時に設定された段ボールの個々の紙
について,変更を行って製造を行っている。これは,製
造機械の特性上,ある程度大きなロットまとめがされな
いと稼動効率が悪くなるため,やむを得ず行っている。
通常変更は品質の高い(従って原価の高い)紙に変更す
るため,その分の損失も大きい。

2) B 社では三社の中で最も小ロットの数が多いため,
段ボール原紙製造を行う工場を1 工場に集約し,そこか
ら段ボール箱製造工程(製函工程と呼ぶ)専門の工場に
材料供給という形での生産をもともと行っている。その
ため,現在の方式に変更するメリットが見えない.

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2.3.現状とのギャップ
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 2.2.で挙げられた疑問に対し,私は"あるべき姿"に変
わった場合のメリットを定量的に示すことが重要と考え
た.そこで以下のような対策を採ることで対応した。

 まず,A 社の現在の業務フローやシステムについて再
度確認をとったところ,受注ひとつあたりの受注数量が
大きかった20年以上前の業務フローをそのままシステム
化したものであることが分かった.そのため現在のよう
に小ロット化が進んだ状況に対応しておらず,結果とし
て人手による調整処理を時間をかけて行わざるを得なく
なっていた.提案後の業務フローを適用した場合のA 社
の各工場における製造原価の減少の度合いや生産計画部
門の人員削減数を改めて試算したところ,製造原価は
30%減少し,かつ生産計画部門の人員は,5)のレベルま
で進めただけでも4/5に,6)の段階まで推し進めれば1/2
に減少する.この点を再度プロジェクトメンバに説明を
行うことで了解を頂いた.

 B 社のケースであるが,複数工場間の生産計画の立案
については提案内容の5)で実現できている.ただしB 社
の場合,受注の小ロット化が極端に進んでおり,紙を高
品質なものに切り替えてでもロット纏めを行わないと,
設備稼動効率が現実的でない。プロジェクト発足時点で
の受注データをもとに今回使用することを検討している
パッケージで複数のパラメタによるシミュレーションを
行ったところ,現状B 社で最終的に人手で調整し立案し
ている計画に比べ,設備稼働効率という面では今一歩と
いう結果となった。これを踏まえ私は,将来的にはA 社,
C 社の工場についても現在B 社が保有している段ボール
原紙製造専門工場からの材料供給という形で製造を行う
ように工場の再編を行うことを6)の項目を踏まえ再度提
案した.これは一時的にB 社工場については収益が悪化
するというリスクがある.しかし長期的にみれば現状に
比べると収益を増やすことが見込める.プロジェクトメ
ンバ,特にその責任者である担当役員と現B 社工場にお
ける収益の一時的な悪化というリスクを共有化し,シス
テム導入後,工場の再編を行う適切な時期についての判
断を注意深く行うことで合意した.

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(設問ウ)
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3.私の評価
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 私からA 社グループへ提案した内容を元にA 社グルー
プでは工場の再編,業務プロセスの見直しを行い,生産
計画システムの再構築まで行った。現在,再構築後のシ
ステムは本稼動しており,製造原価の減少や,製造機器
の保守費用の減少といった効果が見えてきている。これ
は部分的な業務,組織の見直しでは得られなかった効果
と考えている。

 今回の成果を踏まえ,今後もA 社グループのビジネス
パートナーとしてA 社に協力していく所存である。

以上





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