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(ビジネスの変革のためのITの活用について)

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(設問ア)
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1.私の携わったシステムの概要と問題点
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 C 社は電線・ケーブルメーカーとして発展してきた企
業である.電線やケーブルといっても,素材や使用用途
により製品は多岐にわたる.C 社では製品の素材・用途
ごとに工場を設立し,工場は一事業所として独立採算制
で事業を行っている.本論文ではC 社伸銅品工場(以下
伸銅品工場)を対象とする.伸銅品とは銅の合金を原材
料とする電線,パイプ製品である.伸銅品工場では営業
部員が受注時に顧客より製品仕様を受け取り,その製品
仕様に合せて設計部門が都度製造工程を設計し製造を
行っていた.

 伸銅品工場は以下の問題を抱えていた.1)営業部員は
工場内の負荷状況を把握せずに受注を取ってくる.その
ため短納期の受注に対応するために製造現場が混乱して
いる.2)生産管理部門で生産現場の現状に合せるためと
いう名目で工程情報を修正することが恒常的に行われて
いる.この作業のため,生産管理部門の負荷が多大なも
のとなっている.3)結果として顧客に納入する製品につ
いても不良が多発し顧客満足度が低下している.

 以上の問題を解決し,事業部として発展するため,伸
銅品工場では受注から製造までの部門間の連携を強化し,
顧客満足度を向上させる製品を提供するという構想を掲
げた.その実現のため工場長(事業部長)自らが責任者
となり,各部門のキーマンをメンバとするプロジェクト
チームを結成し,目標の実現手段としてITを活用するこ
ととした.

 私は生産管理ソリューションを展開しているH 社のシ
ステムエンジニアである.伸銅品工場IT導入プロジェク
トのベンダ側のリーダーとして,要件定義,機能設計,
開発,テストの全工程に携わった.


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(設問イ)
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2. ビジネスの変革におけるITの貢献部分と私の工夫点
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2.1.ITの活用方法の基本方針
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 私はITを活用する前に伸銅品工場の製品販売に関する
あるべき姿を描く必要があると考えた.現状では伸銅品
工場は,営業部員は受注時顧客から提示される仕様を機
械的に受け取ってくるだけである.納期について多少は
交渉をするものの,顧客にメリットを与える提案を行え
ないため,大部分は顧客に押し切られていた.

 私は,営業部員が顧客と交渉する際の材料となる製品
の設計情報や工場内の負荷に関する情報を営業部と設計
部門,生産管理部門の間で共有できないことが顧客と営
業部員が有効に交渉できない原因であると考えた.そこ
で,部門間の連携を実現する手段として情報の共有化を
進めることを検討することにした.

 私は,品質が高く,伸銅品工場の顧客の使用目的に
合った製品を提供するという伸銅品工場の目標を実現す
る手段が他社の先行事例やH 社の過去案件に無いか調査
を進め,それを元に以下のようにITを導入し業務の進め
方を変革することを提案することとした.

1)顧客の仕様にあわせて設計をするという従来の業務の
 進め方から,標準製品のラインナップを取り揃え,顧
 客の使用用途に合せた製品を提案するという進め方に
 大きくシフトする.

2)標準製品のラインナップを取り揃えたことにより生産
 管理部門での製造工程の変更を行うことをやめる.こ
 れにより生産管理部門は本来の業務である生産計画の
 立案,管理に注力できる.

3)設計部門では工程設計支援システムを刷新し標準製品
 の各工程の情報や作業条件を営業部門,生産管理部門
 との間で共有化する.

4)生産管理部門に生産計画スケジューラを導入し,生産
 計画および受注単位での作業実績を営業部門と共有化
 する.

5)営業部員にモバイルPCを携帯させ,標準製品の工程情
 報や最新の生産計画情報や作業実績を顧客先でも参照
 できるようにする.

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2.2. 私の工夫点
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 2.1.に述べた業務の進め方は現在の伸銅品工場の業務
の進め方からかけ離れている.伸銅品工場のプロジェク
トメンバーを集めた席で提案内容を説明したところ,以
下のような質問が挙がった.

1)標準製品のラインナップを取り揃えたとしても,顧客
 からはどうしても標準製品では対応できない要望が挙
 がるのではないか?(営業部門の意見)

2)現状でも設計支援システムはホスト上で稼動している
 とはいえ,実績のあるシステムである.刷新による効
 果が分からない(設計部門の意見).

3)現在は現場で業務をつんだ人員が生産管理業務を行っ
 ている.現場のノウハウをもとに生産計画を立案して
 いるが同等の計画の立案ができるのか?(生産管理部
 門の意見).

 以上の意見が出されたのは私の提案内容と現在の業務
の進め方の間にギャップが存在しているからである.そ
こで,私は,現状の収益構造や実際の業務の進め方につ
いて調査を行い,提案した内容とのギャップを埋める方
策を立てることにした.これは,伸銅品工場の身の回り
にある業務上のデータを実際に使うことで,提案内容に
対する理解を深め,抵抗感を少なくすることが重要と考
えたためである.

 まず,伸銅品工場における過去3 ヵ年の受注内容を分
析し,受注した製品の仕様について調査を行った.その
結果,全体の70%の受注については少なくとも50回以上
は過去受注と同じ仕様で製造されたものであることが分
かった.単純に算定しただけでも設計コストを三分の一
に抑えることが可能となる.また,これらの受注によっ
て得られた収益は過去三ヵ年の収益のうち実に80%を占
めることがわかった.そこで,これらのリピート受注し
ている製品仕様をもとに標準製品のラインナップを取り
揃え,価格を見直すことで伸銅品工場の利益構造を変革
することができる.また残りの30%の受注のうち2/3 が
これらのリピート受注されている製品仕様を多少変更す
れば製造が実現できるものであった.

 この調査を踏まえて残りの30%を特注品と捉えた場合,
今後,特注品にどのように対応すべきかも見直す必要が
ある.特注品といえども標準製品のカスタマイズで済ま
せられるものが多いため,システムを適切に構築または
利用すれば設計にかかるコストを減らすことができる.
そこで現在使用されている設計支援システムについて調
べることとした.現在使用されている設計支援システム
は20年以上使われているシステムである.詳細に調べた
ところ設計のための計算のロジックは20年前の設計業務
や素材のデータをそのままコンピュータプログラムに置
き換えたものであり,その後の金属加工の進歩や伸銅品
工場の生産現場で培われたノウハウが盛り込まれていな
いことが分かった.このため,工程設計システムの出力
結果を生産管理部門で変更することが行われていた.ま
た,他システムとの連携も考慮されていなかった.

 これを踏まえて,私は設計支援パッケージを導入し適
切にパラメタ設定を行うことで,伸銅品工場で現在製造
されている製品の工程設計を行い,かつ生産管理部門で
の修正作業を不要なものとできると考えた.また,工程
設計システムは標準製品の設計内容を画面上で製品仕様
を変更することでリアルタイムで変更することができ,
かつ変更に伴うコストの増減も計算できる.工程設計シ
ステムは基本的には設計部門が利用するが,営業部員の
もつモバイルPCでも参照およびコストのシミュレーショ
ン機能のみ限定的に使用することで,顧客との交渉の場
でコストの増減にともなう価格の変更についても対応す
ることが即座にできる.これにより特注品を受ける際に
価格面での交渉について顧客側に押し切られることを減
らすことができる.

 生産管理業務についても,現状市場に出回っている
パッケージの中にパラメタ設定により伸銅品工場のよう
な金属材料製造業に対応できるものがある.また,生産
管理部門に対し詳細にヒアリングを行ったところ,現場
のノウハウと称しているもののうち製造工程の変更に関
するものが80%であり,またその他のものは製造工程の
変更が必要ないのであれば本来行う必要もなくなるもの
であった.生産管理業務のひとつに生産計画の立案があ
るが,最新の生産計画についても営業部員の持ち歩くモ
バイルPCで参照できるようにすれば,工場内部の負荷状
況や実績情報を元に納期の調整,もしくは納期までに余
裕の無い受注に対する価格交渉を行うことができる.

 以上の定量,定性両面の効果が明らかになったのを踏
まえ再度伸銅品工場プロジェクトメンバに提案を行い,
私の提案内容にそって以降のシステム開発を進めること
に了承を頂いた.


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(設問ウ)
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3. 評価
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 現在,伸銅品工場では私の提案した機能要件に従って
開発されたシステムが無事に稼動している.営業部門で
は顧客との交渉の場で工場の負荷状況や標準製品のカス
タマイズ時のコストを常に参照しているため,顧客から
不利な条件で受注を取るということが減っている.また,
特注品を受注しようとした顧客に対し標準製品で済むよ
うな方法を提案するということも行われている.これに
よって,以前に比べて特注品の割合は10%前後まで減少
しており,また利益はシステム導入前に比べ20%ほど上
がってきている.今後も増収を見込んでいる.

 設計部門では受注の都度設計作業を行うことをしなく
て済むようになった.これに伴い生産管理部門,製造現
場との技術的な交流を行う余裕が生まれており,標準製
品の改良や新しい製品の提案を社内や営業部門を通じた
顧客に対し行うようになっている.これは私にとっても
うれしい誤算であった.

 生産管理部門も工程設計部門との情報共有,技術交流
を踏まえて,より合理的な業務を行うようになってきて
いる.営業部門が工場の負荷状況を踏まえた上で受注を
取るようになったため,製品の品質維持に注力すること
ができるようになり,伸銅品工場が顧客から良い評価を
得ることに貢献できるようになった.

 伸銅品工場では今回のIT導入による業務の変革により
利益の向上,顧客満足度の向上を実現できた.私として
ははじめにあるべき姿を描き,実態とのギャップを埋め
ることが今回の成功につながったと考えている.今後も
伸銅品工場のビジネスパートナーとして更なる変革に貢
献したいと考えている.

以上





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