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□ 要件定義における品質の確保
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(設問ア)
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1.プロジェクトの概要
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1.1.A社データウェアハウスの構築
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 A社は、東日本を中心に100店舗を展開する中規模
のスーパーである。A社においては、POSレジスター
の導入は比較的早い時期に完了していたが、その利用は
レジの省力化などオペレーションの効率化に止まってお
り、POSデータをマーチャンダイジング(品揃の計画
であり、以下MDと略す)業務に活かすまでには至って
いなかった。これはデータ提供の仕組みが、ホスト計算
機によるオンライン画面や帳票によるものであった為で
あり、実際のデータ分析にはパソコンへの再入力を必要
としていた事による。
 一方でA社は西日本への進出を計画しており、MDを
強化し、同業他社との競争に勝ち抜くために、担当者が
自由にデータを分析・加工できるデータウェアハウス
(以下DWHと略す)の構築が企画された。
 私は、A社データウェアハウスの構築に営業時点より
参画しており、要件定義を行い業務設計・システム開発
計画を作成する、基本計画工程を受注した。また受注後
は、プロジェクトマネージャを務める事となった。
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1.2.品質管理の課題
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 A社プロジェクト体制は、食品部長をリーダとし、各
課から参画した入社3〜5年目の若手社員により構成さ
れている。特にA社が若手社員を起用した理由は、実際
にDWHを活用する事になる、MD業務担当者の意見を
重視した事にある。但し、各担当者は本来のMD業務と、
DWHの検討を兼務する形となり、実態としてはMD業
務のみで多忙を極めており、システムには充分な時間が
取れない事が予測された。
 この様な体制において、基本計画の品質を確保する事
がプロジェクトマネージャである私の責務であった。
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(設問イ)
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2.品質の懸念と原因分析
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2.1.要件定義途中における品質評価
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 私は、要件定義工程における、品質および進捗管理の
ため、検討事項の消化状況を累積グラフにして日々の管
理を行っていた。ここで、検討事項の具体例としては、
以下のような内容である。
 a.原価・売価、客数などデータ分析に必要な項目の決
  定。
 b.野菜・魚など、仕入れと販売の形態が異なる商品に
  おける、単品レベルでの原価・売価および利益の考
  え方。
 予定していた要件定義工程は2ヶ月間であったが、当
初は順調に伸びていた検討事項の消化件数が、1ヶ月を
過ぎる頃から飽和状態に近づいている事が判った。
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2.2.原因の分析
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 私は、自社開発メンバーを集め、状況の確認を行った
ところ、必ずしも要求が出尽くし、それらの検討が完了
した訳では無く、以下の内容が報告された。
 a.担当者がMD業務に忙しく、ヒヤリング・レビュー
  に対応して貰えない。こちらからの質問に対しても、
  回答期限を1週間以上過ぎる場合が多々ある。
 b.同様な機能に対して、担当者の要望が、所属する課
  によって事なり、かつ擦り合わせを行う姿勢が無く、
  検討が物別れに終わる。
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3.私の実施した対策
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3.1.食品部長への改善依頼
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 私はA社側プロジェクトマネージャである食品部長に、
要件定義の進捗グラフを提示すると共に、以下の説明を
行い、体制の強化を依頼した。
 a.要件定義工程の品質は、システム全体の品質を決定
  するものであり、現状のまま以降の設計・開発を進
  めた場合、大きな手戻りを発生させ、費用・工期と
  もに予算を超過する可能性が高い。
 b.担当者の発想が現状業務の延長にしか無く、同業他
  社との競争に打ち勝つ為の戦略的なシステムを作り
  出す意識に欠けている。現状のままでは単なる業務
  効率化の域を出ないシステムが出来上がる可能性が
  高い。
 以上の申し入れを行った結果、食品部長の判断により、
臨時にアルバイトを雇い入れ、担当者の抱える単純作業
については、極力アルバイトに任せ、DWHの検討に割
く時間を捻出して頂いた。
 また、DWH構築の狙いや、経営層の期待についても、
再度担当者に説明・徹底を行うことにより、意識改革に
も努めて頂いた。
 この結果、担当者のDWHの検討に割く時間は、2〜
5時間/週から、8〜16時間/週へと大きく改善され
た。
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3.2.課長層の参加
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 組織間での要望の擦り合わせが上手く進まない事につ
いては述べた通りである。これについては担当者の上司
にあたる課長にプロジェクトへの参画を依頼する事で解
決を試みた。
 これは、個人あるいは限られた組織内でのベストが必
ずしも組織を越えた次元でのベストでは無い事を理解し、
食品部全体に立った視点での検討を期待したものである。
 結果、DWHの検討は以下の縦・横の木目細かな体制
で進められる事となった。
 縦:担当者を中心とする、自分の所属する組織でのニ
   ーズの具体化と掘り下げ。
 横:課長を中心とする、組織間でのニーズの擦り合わ
   せと、業務の共通化。
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4.評価と課題
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4.1.対策後の要件定義の進捗
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 前述の施策により、一時は停滞していた要件定義も順
調に進み、予定通りの工期で基本計画を完了する事がで
きた。具体的には、停滞期における検討完了件数が、
5件/週であったところが、20件/週にまで改善され
た。
 また、以降の設計・開発工程においても、仕様変更に
よる大きな手戻りを発生させる事は無く、プロジェクト
を運営する事が出来た。これは、言うまでも無く基本計
画工程における要件定義での品質の作り込みが功を奏し
たものである。
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4.2.今後の課題
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 成果物がプログラムとなる開発工程では、『バグ』と
いう形で容易に品質の管理を行う事が可能である。しか
しながら、要件定義における品質は、数値で表す事が難
しい。今回のプロジェクトでは、要件定義の時系列推移
を見る事で品質管理を試みたが、今後更に定量的な管理
が必要であると考えている。
 例えば、ユーザからの要件に対しては『何故』の問い
かけにより、背景の調査や、真のニーズの掘り起こしを
行う事になるが、この『問いかけ』の回数も指標の一つ
に成り得るのではないかと考えている。
 以上、上流工程での品質の作り込みは、更なる研究と
より多くの実プロジェクトでの実績が必要であり、私は
プロジェクトマネージャとしてその検討に取り組んでい
くつもりである。また、その成果については、社内のガ
イドラインとしてまとめあげたいと考えている。



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