『人民の星』 5839号2面 2013年11月20日付

アメリカ 破綻する「オバマケア」 実態は保険会社に新市場

 アメリカでは「国民皆保険」をかかげた医療保険改革(オバマケア)が実施段階にはいっているが、大混乱におちいり、大統領オバマが謝罪しなければならない事態となっている。このなかで公的な医療・福祉を切りすて、民間保険会社にあらたな市場を提供し、勤労人民の生命と健康を食いものするオバマケアの実態があらわとなっている。
 アメリカでは、新自由主義の経済政策とリーマン・ショックを契機とした金融・経済恐慌の犠牲おしつけで、首切り・失業、人民の貧困化がひろがり、最低でも月五〇〇j(約五万円)する保険料を個人で払えず、無保険者が拡大した。二〇〇〇年に三八四三万人だった無保険者は、リーマン・ショック直後の〇九年には五〇六八万人へと一二〇〇万人もふえた。

日本の皆保険とは別物 変わらぬカネ次第の医療
 アメリカでは盲腸の手術に二〇〇万円以上もかかるなど、カネがすべての高額医療で、保険がなければばく大な支出をしいられる。病院は来院した患者にたいし、保険にはいっているか、その保険がどこまで適用されるかを確認しなければ治療せず、ほうりだす。アメリカの医療水準は高くても、アメリカの総人口(三億人)の六分の一が医療をまともにうけることができない。
 オバマ政府が「無保険者の解消」「国民皆保険」をかかげてもちだしたのが「オバマケア」である。「オバマケア」は、アメリカ国民に保険加入を義務づけ、低所得者には国が助成金をだすし、保険会社の市場競争が強まることで保険料も安くなると宣伝してきた。
 義務化は来年一月からはじまる。それを前にして一〇月から、加入する各種医療保険を比較・選択するための医療保険取引所のインターネットサイトが開設された。「国民皆保険」というが、日本の国民健康保険のように公的保険ではなく、政府がきめた基準にもとづいて民間医療保険会社がつくった保険プランをあっせんするものである。
 混乱の一つは、インターネットサイトで比較・選択しようとする人が殺到し、システム障害がおき、一カ月たっても解決せず、加入申請がすすまない状況がつづいている。義務化にともなう加入期限は来年三月までとしており、それをすぎると無保険者は罰金(課税)をとられる。罰金は年収によってきまり、最低金額は二〇一四年で一人あたり九五j(九五〇〇円)だが、一五年には三二五j(三万二五〇〇円)、一六年には六九五j(六万九五〇〇円)へとあがっていく。
 このままでは数千万人の加入申請をさばくことができず、期限を延長すべきだとの声があがっている。

再契約させ保険料引上げる
 混乱のもう一つは、民間保険会社の保険に加入していた人たちが契約を打ち切られる事態があいつぎ、大問題となっていることである。その総数はさだかではないが、報道ではフロリダ州の医療保険連合組織が三〇万人、カリフォルニア州の大手が一六万人、ペンシルベニア州の最大の保険会社が顧客の二〇%、フィラデルフィア市の保険会社が顧客の四五%、それぞれ契約をキャンセルしたとしており、キャンセルの対象者は一四〇〇万人にもおよぶといわれている。
 保険会社が大規模な契約打ち切りをはじめたのは、オバマケアを契機に保険料を大幅に引上げ、大儲けしようとしているからである。既存の保険プランが、オバマケアが規定している最小限度の補償項目をみたしていないというのが口実である。
 オバマケアが基本的な補償項目としてあげているのは、@外来診療、A緊急治療、B入院、C妊娠、新生児ケア、D精神科、薬物乱用ケア、E処方箋、Fリハビリ、G各種検査、H予防、健康診断、慢性病対策、I小児科ケア、の一〇項目である。
 保険に加入している勤労人民は、保険料をできるだけ低くするために、大病になった場合に対応したものにするなど、補償対象を限定してきた。それがオバマケアで契約解除にされ、あらたに基本的な補償項目をいれたプランで再契約するか、医療保険取引所であらたなプランをさがすかの選択をせまられているのである。
 再契約で保険料が二倍、三倍、自己負担が五倍、一〇倍になるというケースもざらにある。保険会社は補償対象の病院、医師、薬などをこまかく限定していることから、あらたなプランにのりかえることが困難な人もいる。オバマは「加入中の医療保険を継続することもできる」とくりかえし断言してきたが、それはまったくうそだった。

最低保険料で4割自己負担
 これから表面化してくる問題もある。無保険者がオバマケアをつうじて保険に加入しても、「カネがすべての医療」はまったくかわらないからである。オバマケアは、保険料を助成するとしているが、依然として個人の負担は大きい。医療保険取引所で提供されるプランは、保険を医療費の何割負担にするかによって四段階にわかれている。
 『ニューヨーク・ポスト』紙の掲載した例で見ると、保険の補償が六割で自己負担が四割のブロンズプランでは、独身で年収三万jの場合、月額保険料が三九一j(約三万九〇〇〇円)である。収入の一五%以上が保険料としてすいあげられるのである。補償が七割のシルバー、八割のゴールド、九割のプラチナと、補償があがるほど保険料が高くなる。
 保険料がもっとも低いブロンズプランをえらんでも、高額医療の四割も自己負担しなければならず、ほとんどの人が家計破たんに追いこまれるのは目に見えている。救急治療にかかった場合、ブロンズプランでは一泊三〇〇j(三万円)もかかる。このため、罰金覚悟で無保険にとどまる人が続出するとみられている。政府の財政事務所の見積もりでも、来年中に保険に加入するのは一四〇〇万人程度で、二〇一〇年代おわりまでに二五〇〇万人へと上積みされるが、三〇〇〇万人近くが無保険者にとどまるとしている。
 低所得者むけにはメディケイドという公的保険があり、病院や医師、薬の制約はあるが、自己負担はほとんどなしで治療をうけることができる。メディケイドではいま六八〇〇万人が保険対象である。だがオバマ政府は、財政赤字での歳出削減でメディケイドを的にしており、これから一〇年間でメディケイド予算を三四%削減する方針であり、メディケイドの対象となる医療がますますせばめられようとしている。
 オバマケアによって、「カネ次第」のアメリカの医療はなんらかわるところはなく、無保険者ばかりか、勤労人民全体の医療・福祉の破壊はいっそう拡大するすう勢にある。アメリカの医療の現状は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加を推進し、特区などによって規制改革・構造改革に拍車をかけようとする安倍政府の親米売国政治の行き着く先をしめしている。