『人民の星』 5855号1面 2014年1月18日付

破たんする「大阪都構想」 市場原理主義への怒り 安倍の行く末示す

 大阪市長・橋下が共同代表をつとめる維新の会は、人民の反発、批判が高まるなか、その足場の大阪で瓦解がはじまっている。公共部門を民営化で米日独占資本にたたき売ろうとする橋下らへの大阪・勤労市民の批判は強く、橋下らがすすめてきた「大阪都構想」も危機にひんしている。それは安倍晋三らもすすめている市場原理主義の破産をしめすものである。

外資への公的部門たたき売り 猛批判巻き起おる
 橋下は二〇一一年に大阪府知事から大阪市長にくらがえし、自民党をとびだして大阪維新の会の結成に参加した松井を府知事におしこみ、府市統合本部を発足させ、「大阪都構想」をしゃにむに推進してきた。
 「大阪都構想」は、政令指定都市である大阪市と堺市を解体・再編し、現在二四区ある大阪市は五区か七区に、現在七区ある堺市は二区か三区に再編・区割りして特別区とし、広域分野は「大阪都」が管轄するというものである。橋下らは二〇一五年四月の「大阪都」発足をもくろみ、今年一〇月にも住民投票を実施しようとしている。
 橋下らは「財政再建」「府市の二重行政の解消」「民間において成立している事業については、民間にまかせる」をさけび、米日独占資本のための大規模公共事業で生じた財政赤字のツケを労働者、勤労人民におしつけ、人民生活関連部門を切りすて、民営化をすすめ、米日独占資本の利潤をうみだす市場としてさしだそうとしている。
 橋下は年頭の抱負で、「大阪都構想」について「反対意見もあるが、政治的にはすでにきまったことだ」とさけび、強行姿勢をしめしている。だが昨年一年をつうじて、流れは完全にかわった。「財政再建」「役人たたき」を前面にかかげ、行革「合理化」、「民営化」を推進し、人民生活部門を切りすてるという橋下らの手口が通用しなくなった。橋下や維新の会への批判が急速に高まり、自治体選挙で勝てなくなり、大阪府議会では維新の会は過半数割れとなっている。
 昨年一二月、府議会、市議会で、橋下らがすすめる「大阪都構想」のゆきづまりをしめす典型的なできごとがあった。

鉄道売却案が否決 沿線住民が強い反発
 大阪府議会では昨年一二月一六日、府の第三セクターである大阪府都市開発を米投資ファンド・ローンスターに売却する議案が、与党である維新の会の四議員も反対にまわったことで、否決された。維新の会は四人を除名したことで、府議会の過半数をわった。
 大阪都市開発は、泉北高速鉄道(堺市と和泉市をむすぶ沿線一四・三`)やトラックなどの物流施設を運営しており、株式の四九%を大阪府が保有し、他に関西電力と大阪ガスがそれぞれ一八%を保有している。筆頭株主である大阪府は財政再建のためとして大阪都市開発の売却をきめて入札をおこない、ローンスターが落札し、一一月に仮契約を締結していた。だが府議会で売却案が否決されたことで、ローンスターとの仮契約はもちろん、売却そのものが白紙にもどった。
 売却案が否決されたのは、公共性が高い鉄道や物流の会社も米投資ファンドに売却することへのつよい反発、批判が沿線の住民や自治体からでていたからである。売却の否決について堺市民は「やりたい放題の維新の会にもかげりが見えはじめた。外資系に売却することに地元では根強い反対があった。公共交通を外資系の、しかもファンドに売ることなどあってはならないことだ」(高齢者)とのべている。
 与党維新の会に所属しているにもかかわらず反対票を投じた四議員は、堺市や隣接する高石市、大阪市住吉区からの選出である。橋下は「外資だからだめだといったら、大阪に外国の資本がはいらなくなる」とさけんできたが、住民世論とあいいれなかった。
 米投資ファンドのローンスターは、経営がゆきづまったホテルやゴルフ場を買い取り、短期間で経営をたてなおし、第三者に売却するなどしてぼろ儲けする手口をとり、悪名が高い。府議会でも「短期的な利益を追求する外資系の投資ファンドに公共性が高い鉄道や物流の会社を売却することに不安と危惧をおぼえる」との声がでていた。
 府議会で、米ファンドへの大阪都市開発の売却案が否決された翌日の一七日、大阪市議会では市営地下鉄・バスの民営化条例案など九議案が継続審議となった。民営化条例案は、三月議会、五月議会でも継続審議となっており、三回連続の継続審議は異例である。つぎの議会は二月以降だが、民営化条例案を可決するためには議会の三分の二以上の賛成が必要であり橋下らはそのめどをたてることができない。

見抜かれる民営化 ほとんどの公約が破産
 大阪市営地下鉄・バスの民営化への市民の批判はつよい。「なんでもかんでも民間にした方がいい、という考え方に賛成できない。民営化のねらいは、人をへらすことにある。それでは安全な運行ができなくなる」(退職者)。とりわけ市営地下鉄は黒字であり、それをなぜ売却するのかとの批判もある。
 橋下は民営化をあせり、地下鉄の初乗り運賃の二〇円値下げをもちだし、「まず運賃をさげる。しかし民営化できないなら、その後、ふたたび値上げする」とおどしたが、効果がなかった。目先ばかりの橋下の値下げ発言に、身内からも「初乗り二〇円値下げは、あくまで政治判断で交通局としてはむずかしい」(橋下が民間から登用した交通局長の議会答弁)と、困惑している。
 このほかにも大阪市議会は、「大阪都構想」の府市統合に関連した水道事業の統合関連議案を五月に否決し、府立大学と市立大学の統合関連議案も一一月に否決している。
 ある自治体労働者は「橋下のほとんどの選挙公約が吹っ飛んだ。市民の声が影響し、すべて議会で否決された。小さなことは知らないが地下鉄の民営化、上下水道の府市の統廃合、その他公共施設の閉鎖、閉館などすべてが先送りされた。“作戦をねって再度提案する”と意気ごんでいるが、さすがの橋下でも無理ではないか。痛快だ」と、人民世論の高まりを指摘している。
 府や市の議会で、橋下らの意向がとおらなくなる一方で、自治体首長選挙でもあいついで維新の会は敗退している。「大阪都構想」の是非が争点となった堺市長選挙(昨年)では、橋下が連日、現地にのりこみ応援演説をするなど全力をそそいだが、反対の現職市長にたいし、維新の会の候補は五万八〇〇〇余の大差で敗北した。
 また選挙戦の最中、台風一八号の影響で大阪市南部四区に避難勧告がでたとき、橋下は自宅にこもり、現職批判のインターネット発信に終始した。このことに「市長は災害対策本部につめるべきだった。市民の安全など眼中にないのだろう」(避難勧告地域の住民)、「橋下は居直り、まったく反省がない。維新の会の本質がここにあるのではないか」(予備校教師)など、人民の批判がふきでた。

橋下は安倍と同じ 新自由主義の末路示す
 橋下は反共排外主義、親米売国の姿もあらわとなり、この面からも人民の批判が高まっている。橋下は昨年五月の記者会見で、「従軍慰安婦は必要だった」とか沖縄の普天間基地をおとずれたさい米海兵隊司令官に「もっと風俗業を活用してほしい」と進言したことをあきらかにし、内外から批判の声があがった。
 橋下は、この発言が米軍の機嫌をそこねたのではないかとあわて六月にはいり、沖縄をはじめ全国各地で反対世論が高まっていた米軍輸送機オスプレイの訓練飛行を府内の八尾空港にうけいれる意向を表明した。府知事・松井も同様の意向を表明した。これにたいし「八尾空港は事故つづきで、空港が住宅街にあるから深刻だ。ましてオスプレイなどもってのほか」(八尾市の教師)、「米軍にこびている。安倍とおなじだ」(大阪市民)との声があがった。
 「大阪都構想」をはじめとする橋下・維新の会の政策は、安倍政府となんらかわるところがない。橋下のブレーンは小泉政府のもとで規制改革・構造改革をやってきた者や、米大手コンサルトタント会社マッキンゼー出身者でかためられていた。橋下らは、新自由主義の規制改革・構造改革の先取りをやり、安倍政府をささえている。
 橋下・維新の会への批判が高まり、「大阪都構想」にめどがたたなくなっていることは、全国的な安倍政府への斗争の発展と連動している。