『人民の星』 5866号2面 2014年2月25日付

ウクライナ争乱の背景 米欧が政府転覆へ干渉

 旧ソ連邦諸国でロシアと国境を接するウクライナで、内戦をひきおこし政府を転覆しようとする米欧政府の策謀があからさまとなっている。首都キエフでは、米欧政府の支援をうけた反政府グループと警察部隊などとの銃撃戦がおき二〇日までに双方にあわせて八〇人近い死者がでている。この衝突を口実に米欧政府は対ウクライナ制裁にふみだし、干渉を拡大している。
 反政府グループの中心は、CIA(アメリカ中央情報局)や米国務省、EU(欧州連合)からの資金援助をうける「過激派」や「自由、民主、人権」をかかげたNGO(非政府団体)である。
 衝突のきっかけは昨年一一月、ウクライナ政府がEU加盟をみこんだ「連合協定(自由貿易協定)」の締結を中断し、ロシアとの経済関係強化にカジを切ったことにある。ウクライナ政府は巨額の財政赤字をかかえており、「連合協定」締結によるEUからの経済支援は少額であるし、IMF(国際通貨基金)から緊縮財政政策の実施をせまられる。一方、ロシア政府は、二八〇億jにおよぶウクライナの対ロ債務の再編や経済援助に応じることを表明していた。
 これを契機に政府の退陣を要求する野党勢力のデモが、首都キエフをはじめとするウクライナ西部で拡大し、今年にはいり政府庁舎や州施設庁舎を占拠する挑発的な行動へとエスカレートした。米欧政府は野党の代表と会談するなど公然とデモ隊を支援した。
 そしてソチ冬季オリンピックの開会でロシア政府がかかりきりになるのをみはからって挑発はエスカレートし、一八日、慎重な対応をとってきた警官隊と衝突し死者がでた。いったんは政府と野党は「停戦」に合意したが、警官隊にたいする狙撃がひん発し銃撃戦となり、一気に死者が拡大した。
 米英仏独首脳はこの段階でロシア政府の人権抑圧をとなえ、ソチ冬季オリンピック開会式を欠席した。

シリア「内戦」とおなじ手口
 ウクライナでの事態は、「反政府デモ」での衝突から「内戦」が組織されたシリア政府転覆の手口とうり二つである。ウクライナ政府は一九日、「騒乱は民主主義の発露ではなく政権奪取のこころみだ」(首相代行)と非難した。ロシア政府は二〇日、ウクライナ各地で政府施設の占拠がおきていることや、治安関連施設から武器をうばおうとする動きがおきるなど、「クーデターのこころみ」がおこなわれているとして、ウクライナ政府への全面協力を表明した。
 ウクライナ政府転覆の指揮をとっているのは米国務次官補(欧州・ユーラシア担当)ビクトリア・ヌーランドである。ヌーランドはウクライナで反政府の行動がはじまると、昨年一二月なかば、ウクライナへのりこみウクライナ政府首脳に圧力をくわえるとともに、野党代表と協議したり、反政府グループの座り込み現場にものりこみ「激励」するなど、あからさまに干渉している。
 ヌーランドはウクライナから帰国して直後の講演で、「世界はキエフの中心部でおきているドラマを見ている」と政府転覆策動をさらにあおり、ウクライナが旧ソ連邦から離脱した一九九一年いらい、米政府がウクライナの「民主化」を促進するために五〇億jを投資するなど、干渉をつづけてきたことを公言した。さいきんでは、ヌーランドが電話で駐ウクライナ米大使に野党のだれを新政府に起用するか指示をだす会話が暴露されている。

ロシアの海軍基地撤去狙う
 米政府による「民主化」をかかげたウクライナ政府転覆の干渉は、二〇〇四年の「オレンジ革命」いらい、二度目である。米政府がウクライナに親米欧政府をつくろうとするのは市場獲得をはかるとともに、アメリカにつぐ核戦力をもつロシアをおさえこむためである。ウクライナをEUやNATO(北大西洋条約機構)にとりこみ、米欧の勢力圏をウクライナまでひろげ、ミサイル防衛のレーダー基地や対空ミサイルを配備するとともに、旧ソ連邦いらいウクライナの黒海沿岸にあるロシア海軍基地を撤去させるためである。
 さらにそれは昨年らい、シリア攻撃が頓挫(とんざ)したり、イランとの核協議合意などで、ロシアに中東地域での外交の主導権をとられ、威信失墜となったオバマ政府の必死のまき返しでもある。
 「自由、民主、人権」は米政府の干渉、侵略の手口であり、シリアの現状にもはっきりしめされるように民族や宗派などの対立をあおり、国土を荒廃させ、人民に多大な犠牲と苦難をしいるものである。
 ウクライナは、旧ソ連邦いらいロシアとの経済的なむすびつきが強い東部地域とNATO、EU加盟国であるポーランドに隣接する西部地域がある。アメリカはウクライナを東西にひきさこうとしている。
 だが、アメリカの干渉にウクライナと世界人民の怒りは高まっている。アメリカの干渉は、また破たんするにちがいないし、破たんさせねばならない。