『人民の星』 5875号3面 2014年3月30日付

診療報酬改定 薬価報酬引下げ 大病院から患者を追い出す

 安倍政府は四月から診療報酬の改定をおこなう。政府は今後、高齢者がふえていくなかでできるだけ国家の負担をへらす目的から「病院から在宅へ」という方向をうちだしている。今回の診療報酬改定は、消費税引上げに対応した改定であるとともに、政府の医療政策の方向を具体化している。そのやり口は、薬価(薬価点数)の引下げでういた政府資金を、在宅医療へ割りふり、全体として在宅医療へ医療機関を誘導しようとしていることである。

家族の負担で療養をしいる
 患者を病院から追いだして家族の負担で斗病、療養をさせようとする在宅医療重視政策からその原資確保のために、「儲けすぎの大手調剤チェーン」キャンペーンを利用し、薬価の大幅引下げをやろうとしているのである。今回の診療報酬改定では、消費税引上げによるコスト増に対応して一・三六%ひきあげたが、他方で薬価を中心に一・二六%を削減するというのが特徴で、全体として〇・一%の改定率にしている。実質的にはマイナス改定である。

調剤薬局はやっていけない
 この改定による薬価の引下げ総額は、五五〇〇億円に達する。日本薬剤師会は「薬価等の引下げがおこなわれることは、備蓄医薬品の資産価値の減少や売上の減少につながり、資金繰りなど、保険薬局の経営にたいして大きく影響する」と危惧(きぐ)を表明している。零細薬局からは「調剤薬局はやっていけないようになる」という声がでている。
 調剤基本料については、処方せん一回の受付につき、これまで四〇点(一点は一〇円)だったものが四一点になる。
 ただし、一月四〇〇〇回をこえる保険薬局(大型門前薬局など)の場合は、現行二四点であり、それが二五点になる。そのうえ今回の改定では、月二五〇〇回をこえる薬局についても現行四〇点から二五点にさげるとした。数人の薬剤師がいる調剤薬局がこれにあたると見られている。

後発医薬品使用で下がる例
 後発医薬品(価格の低いジェネリック医薬品)をつかった場合の点数加算も、これまで薬全体に占める後発医薬品の割合に応じて、五点、一五点、一九点と三段階とされていたのが、今回の改定で一八点、一九点の二段階に改定された。算定の条件がかわったので単純な比較はできないが、たとえば使用した後発医薬品が三〇%の割合でこれまで一五点だったものが、今度の改定でゼロとなることがおこるといわれている。
 薬剤料では、あらたに「三種類以上の抗不安薬、三種類以上の睡眠薬、四種類以上の抗精神病薬の投薬をおこなった場合は、所定点数の八〇%の点数で算定する」としている。患者の必要から見た場合、抗不安薬や睡眠薬で三種類以上、抗精神薬で四種類以上というのは普通なのが実情である。いままでどおり薬を処方するにしても、二種類、三種類程度におさえるにしても、いずれにしても薬価の算定額はひきさげられる。
 処方せんの市場規模は約一〇兆円であり、このうち院外の調剤市場が約七兆円となっている。最大手のアインファーマシーズはセブン&アイなどが出資しており、年間一四〇〇億円を売りあげている。数百の店舗をもつ大型調剤チェーン店が全国にひろがっている。これらのチェーン店には金融資本のほかメディバル、三菱商事、三井物産などが出資している。
 そして、大量購入によって薬を安く仕入れ、ばくだいな利益をあげている。おなじ売上げでも大手と零細では利益率で大きな開きがある。
 今回の薬価引下げは、国の医療費負担削減を第一にした改定である。それは 零細な調剤薬局店にも打撃をあたえるものとなっている。

急性期病院の病床も減らす
 今回の改定ではまた、国の医療費の支出削減をはかるため、急性期病院の病床をへらす方向をうちだしている。二〇〇六年度の改定で、重症患者むけの病床が激増し、現在三六万床になっている。これは患者七人に看護師一人を配置した急性期病床に移行すると、入院基本料が三倍に算定されるようになったため、大手病院などがきそって「七対一病床」にきりかえた結果生じた。政府・厚労省はこの政策をかえ、二〇一四〜一五年度で九万床を削減する方針をだしている。「重症」の基準をきびしくして病床の削減―患者の追い出しをうながすのである。
 在宅医療の推進では、「主治医制度」の創設(月に一万五〇三〇円を配分)や訪問診療を優遇しているが、現状では患者と家族の負担も大きく、医療機関の側の負担も大きいため、そうかんたんにはすすまないと見られている。
 今回の診療報酬改定で、もっとも打撃をうけるのが調剤薬局であり、処方箋受付が月二五〇〇回(一日一〇八回)の薬局では最悪の場合、年間一〇〇〇万円以上の売上減になるという試算もある。チェーン店での賃金引下げや人員削減、零細個人薬局などでは廃業の危機さえうまれかねない内容となっている。また、急性期病院では今後、看護師の削減の問題もでてくる。
 労働者、勤労人民の健康をまもる立場から、安倍政府の医療破壊とたたかうことがもとめられている。