『人民の星』 5897号1面 2014年6月14日付
非正規労働者が反撃 牛丼すき家 長時間過密労働に怒り爆発
安倍政府は、集団的自衛権行使の容認を今国会中に閣議決定しようとしている。アメリカに要求されてのことである。安倍政府はそれとならんで社会保障制度も改悪し、労働法制も改悪しようとしている。「残業代ゼロ法案」はその典型である。いまでもさまざまな産業・企業で「サービス残業」があたりまえのようになっているが、それを法律でみとめて、長時間過密労働、低賃金をどんどんやれるようにするのである。それは、「日本を外資の天国にする」という安倍政府の計画にもとづいている。しかしいま、非正規ではたらくアルバイト、パートが劣悪な労働環境に抗議して行動に出る動きが活発になっている。労働者のなかで結束して大資本の横暴に反撃をくらわそうという動きである。
一斉退職で閉店さす 衝撃走ったスト呼びかけ
一八五九店舗(一二年九月現在)を全国に展開する牛丼チェーン「すき家」(株式会社ゼンショーが運営)では、今年二月ごろからアルバイトの抗議の「反乱」がひろがり、五月末には「ストライキ」をよびかけるツイッターもあらわれた。
ストライキにはいたらなかったが、アルバイトの動きは、社会に衝撃をあたえた。「すき屋」ではたらくアルバイトの劣悪な労働環境があかるみにで、職場でどんな怒りが渦巻いているか、職場をきりまわしているのはアルバイトであること、団結して行動をおこせば、大きな社会的影響をあたえられることなどが、あきらかになった。
「すき屋」での事の起こりはつぎのようなものだ。
アルバイトの抗議行動の引き金は、二月中旬に発売しはじめた、新メニュー「牛すき鍋定食」だった。
牛丼の場合、肉とタマネギなどを煮込むだけなので仕込みは約一五分。注文をうけて客に出すまで一分以内という。ところが、報道によれば、牛すき鍋定食の場合は、鍋用の肉を煮る、一人前にわけて、きめられた量の豆腐、うどん、野菜をタッパーにいれ、冷蔵庫にいれる。用意するのは東京のある店舗の場合は五〇人分。準備には少なくとも六〇分かかる。本部は二〇分でやれといったが、とてもできない。
「すき屋」は深夜の一時から朝の七時まで、アルバイト店員が一人できりまわす「ワンオペレーション(ワンオペ)」体制をとっている。ところが、都会では終電直後や朝の通勤時間のとき客がどっときて、注文が殺到する。客が少ないときも、レジ、片付け、清掃、仕込み、在庫や売上げ管理と一人できりまわす。どの店舗も最初から人員不足できりきり舞の超過密労働である。
二五〇店が営業休止に
そこに手間暇かかる新メニューの販売が二月に開始された。これでアルバイトたちの怒りが爆発した。こんなでたらめなことをやっていられるかということとなり、アルバイト店員がいっせいにやめた。アルバイト店員がメールをつうじて勤務をボイコットし、人員募集にも応じる人がいなくなった。
「すき屋」の従業員専用の携帯端末の掲示板には「みんながやめるのなら俺もやめたい」「まじで同時退職しよう」という書き込みがされた。
このため三月のもっとも多いときは約二五〇店舗が営業休止になった。五月一五日時点でも、「すき屋」の計一八四店舗が従業員不足で営業を休止する事態になった。
「すき屋」は一人体制のため、深夜強盗が多く、安心してはたらけないということもかさなった。二〇一一年の末には未遂を含めて七八件の強盗事件がおこった。牛丼チェーンでおこる被害総数の九割が「すき屋」だった。
このようにして一斉退職、店舗休止がひろがるなか、五月二九日(「肉の日」)にストライキをやろうという動きがツイッターに流れ、さらに大きな衝撃がはしった。二九日のストライキは成功しなかったが、アルバイトたちの一斉退職とストライキの動きは、日本中に衝撃をもってうけとめられた。
六月三日時点でも人員不足で一四〇店舗が営業休止状態という。
生身の人間のことなどどうでもよく、とにかく利潤第一だと、ぎりぎりまで人間をへらし、そのうえ一人ではできもしない「すき屋」の新メニューの投入であった。アルバイトだと思ってバカにし、超過密労働をおしつけてきた「すき屋」・ゼンショーにたいしてアルバイトが抗議の反撃に出て、一泡ふかせたのである。
ワタミ等では過労自殺
おなじ牛丼チェーン店・吉野家ではたらいた経験のある三〇代の男性は「すき家だけの話ではない。吉野家もおなじ状況だ。店によっては平日だと厨房に二人、店に一人の体制で、夕方の混みあう時間でもやる。ワンオペはなかったが、アルバイトが急にやめたりしたときは、昼前から夜までぶっ続けで店にでる子もいた。ギリギリの人数でまわすというより、コスト削減のためいつも一人分か半人分少ない体制でまわしているという状態だった」とはなす。
男性の話では、平日でも残業一時間は当たり前、休日になると二時間は超過し、ほとんどサービス残業となる。安倍政府がいますすめる「残業代ゼロ法案」についても、「サービス残業が当たり前の職場は多いと思う。それを法律できめたら、たいへんなことになる。成果主義になり、むちゃくちゃはたらかないとまともな給料ももらえなくなる」と語っている。
代表が自民党代議士になった渡邊美樹のひきいるワタミフードサービスでは、〇八年六月、入社二カ月の女性社員(当時二六歳)が手帳に「どうか助けてください。だれか助けてください」と書き残して過労自殺する事件がおきた。渡邊が一年三六五日二四時間死ぬ気ではたらけと号令をかけるなか、一五時間の勤務をぶっつづけにやり、精神疾患で自殺となった。
運送大手の西濃運輸では、入社四年目の事務職員(当時二三歳)が鬱病になり、一〇年一二月に過労自殺した。退職届を三度もだしたが受理されず自殺した。
〇九年六月には佐川急便の配送運転手から管理職になった四〇代の男性が、売上げがあがっていないと上級管理職に部下の前で罵倒されつづけ、自殺した。
佐川では午前六時前から出社し、帰宅は夜の九時、一〇時などは当たり前という。「運転手は社長」といわれて全責任をおしつけられている。そのなかでノイローゼになる運転手も少なくなく、入社初日で退職したり、一週間でやめる人があとをたたなかった。時間までにこなせないほどの仕事量に追われ、遅配、荷物の欠損が続出した。自殺した男性は、そうした経験をへて管理職に登用されていた。
以前、佐川急便ではたらいていた労働者は「朝五時起きはこのときにからだにたたきこまれた。自分の場合、帰宅は夜の一〇時か一一時だった。配達自体は慣れると午後一時から三時ごろにはめどがつくが、集荷、翌日配達の荷物の整理、伝票の整理などをすると深夜になる。昼間は駆け足だから、帰って風呂にはいる元気もなくなる」とはなす。
そして、「多いときは三〇万円以上かせげるというので、やってくるものが多く、それで肉体的にも精神的にも病んで退職するものが多い。聞いた話だが、年配の運転手で五〇万円以上かせいだ人もいたらしいが、過労で交通事故に遭い、葬式代をかせぐためにはたらいたようなものだとみんな会社に怒っていた」と語った。
青年の集団反抗に注目
多くが二〇代から三〇代という若者を多く雇用し、肉体の限界をこえるまではたらかせて搾取するやり方で「優良企業」にのしあがる。アパレルのユニクロやクロスカンパニーなど、どこもおなじである。
そうした状況にあるために、「すき家」でアルバイトたちがおこした反抗は、たちまち大きな衝撃になって日本中にひろがることになったのである。
あるタクシー労働者は「“すき家”のストライキは成立しなかったというのをネットの情報で知ったが、いまの若者が集団でことをおこそうと動きだしたことがだいじだ。秘密保護法や消費税増税など安倍政府は好き放題やろうとしている。調子づいて外国人労働者の拡大や残業代ゼロ法案なども強行しようとしているが、そうはいかんというのがみんなのなかにあるし、若い者もそう思っている」と関心をよせている。
日本中で非正規労働者を低賃金、長時間労働で酷使し、資本がぼろ儲けするという動きを強め、安倍政府が、「残業代ゼロ法案」を成立させようとするなか、就業人口の三六%をしめるアルバイトやパート、派遣など非正規労働者が団結して反撃の行動をおこしていく趨勢が強まっている。「若者がそうした行動にでる条件がみちているということだ」(タクシー労働者)という状況がきている。
非正規による低賃金、長時間過密労働は、アメリカと安倍政府による戦争の策動の一環でもある。かつての戦争とおなじように、貧乏にし戦争にひきこんでいくのである。戦争を阻止するたたかいの一環として位置づけ、労働者の全体の問題として、戦争阻止とむすびつけて非正規労働者の劣悪な環境を打破するたたかいを発展させることが切実にもとめられる情勢にきている。