『人民の星』 5925号1面 2014年9月24日付
許せぬ植民的屈辱 岩国・米軍属のひき殺し事件 裁判所も米軍擁護
二〇一〇年九月に米軍岩国基地(山口県)所属の軍属が岩国市牛野谷の住民・恩田美雄氏(当時六六歳)を車ではね飛ばして死亡させ、遺族が米軍属と国の責任を問うた損害賠償訴訟で山口地裁岩国支部(光岡弘志裁判長)は一二日、米軍属への請求は却下し、国にたいして慰謝料など約三四〇〇万円の支払いを命じた。判決が、殺人をおこした米軍属をさばかないばかりか、日本政府がアメリカの賠償責任を肩代わりするようにしていることで、日本がいかにアメリカに従属しているか、勤労人民の怒りは強い。いつまでもアメリカの植民地的な支配と対米従属の売国政治をゆるすことはできない。
岩国市民、口口に怒り語る
裁判の結果について、遺族らは「九対一で加害者の過失をみとめ勝ったが、日米地位協定で加害者がなんの罪も問われないし、なにも責任をはたさないことに腹立たしさを感じる」「わたしたちが願うのは、米兵や軍属による交通事故や犯罪は日本に住んでいる以上は日本でさばけるようにしてほしいということ。裁判しても相手がでてこない、かりにでてきても死人に口なしで好き放題にいう。米軍は非をみとめるなという指導もあると聞く」と語った。
そして、「これから米軍が倍にもふえるが自分たちとおなじような家族がふえるのではないかと心配になる。日米地位協定があるかぎり、米軍にとって日本は無法地帯だし、好き勝手なことができる。日米地位協定をかえないかぎり、こうした状況はかわらない」と訴えている。
地域の八〇代の婦人は「運転していた軍属の女性は公務中ということで、なんの罪もなく無罪だったというが、こんなバカな裁判があるか。加害者に賠償責任があるのに、日本政府が賠償金をだす、日米地位協定できめられているそうだが、なんでこんな協定があるのか。米軍や軍属が日本で事故や事件をおこしたら日本の法律でさばくのが当たり前だと思う。戦後六九年もたつというのにいまだにアメリカの言いなりになっている」と怒っていた。
七〇代の婦人も「日米地位協定が適用されれば、人を殺そうが無罪放免というのはどう考えても納得できない。聞くところによると、加害者はとっくに本土に帰り裁判には一度もでないし、謝罪もないという。亡くなられた親族の怒りは、言葉ではいいあらわせないほどだと思う。ほんらい加害者やアメリカが支払うべき賠償を日本政府が支払うのだからおかしなことだ。ここは日本だ。米軍であれ日本の法律で裁くのは当然だ。ここはアメリカの植民地ではない」と日本の対米従属を問題にしていた。
また、七〇代の男性も「加害者の軍属は、無罪放免で後始末は日本の国のカネでやらす。アメリカ軍は関係ないという態度だ。日本をバカにしている。日本政府もなにもいわないこと自体おかしい。日米地位協定など不平等な協定は破棄しないといけない。基地の増強がすすむなか米軍の数も現在の倍になる予定だ。当然事故や犯罪もふえることが予想される。国や岩国市長は二度とこのようなことがないよう確約をとらなければ後に悔いをのこすことになる」とのべた。
被爆婦人は「日本で事故をおこせば日本の法律で裁判するのが当たり前だ。アメリカは原爆を落として数十万の民を殺してもいまだに謝罪していない。日本人を虫けらのようにしか思っていないのだろう。基地をなくさないかぎり日本はいつまでもアメリカの言いなりだ」と語った。
恩田氏は一〇年九月七日の朝、自宅近くの市道を横断中に、猛スピードで走ってきた米軍岩国基地の米軍属ジェイミー・M・ウオーレス(女、同三二歳)運転の車で二〇bもはね飛ばされ、全身を強くうち病院にはこばれたがまもなく亡くなった。現場は見通しのよい市道であった。
ドーンという音でかけつけた住民がただちに救急車をよぶとともに、救護もせず車のなかにいた軍属を逃げないようにとりかこみ、通報できた警察に軍属は逮捕された。だが警察は「公務中」であるといって五時間後には釈放し、山口地検は「日米地位協定」をたてに不起訴処分にした。
日本の法の上に立つ「安保」
遺族側は岩国検察審査会に申し立てたが、審査会は一一年三月に「不起訴相当」と議決するなど申し立てを退けた。だが、一一年一月の沖縄県での米軍属による交通死亡事故に関連して、一一年の日米地位協定の見直しで一転して起訴されたのをうけ、遺族側は一一年一二月に検察審査会に再審査を申し立てたが、審査会は「一事不再理」を建前にまたも申し立てを却下した。このため遺族側は、一二年四月に「公務中ではなかった」として米軍属と国の責任を問う民事訴訟をおこしていた。
だが、この日の判決で裁判長は「前方を注視せず、漫然と進行した。運転は相当に危険で過失は大きい」としながらも、米軍関係者の公務中の事故は日本政府が賠償するとさだめた「日米地位協定」にもとづく「民事特別法」によって、米軍属への損害請求は棄却し、国の賠償のみを命じたのである。
在日米軍の地位を規定した「日米地位協定」は、米兵が犯罪を犯しても「公務中」であれば日本に第一次裁判権はないとしている。恩田氏をはね殺した側の米軍は「公務中」といいはり、かくまった。そして、米軍属はすぐにアメリカに逃げ帰った。
恩田氏は、父親は戦死し、兄は四歳のときに原爆で殺された。母親も被爆の影響で五〇歳でガンでなくなった。「みんなアメリカに殺された」とみんなのなかで話になっている。そして、恩田氏も米軍によって殺されたのである。
恩田氏の死は、日本がアメリカによって植民地的な状態におかれているがゆえにおこった、ほんとうに屈辱的なことである。しかも米軍属をさばくこともできない。
アメリカがこうした好き勝手な振る舞いができるのは、「日米安保条約」をてこに米軍を駐留させ、日本を植民地的な支配のもとにおいているからである。アメリカは日本の独立をうばって、日本の人民をはね殺そうがなにをしようが罪も問われないのである。
財政危機にあるアメリカはこんにち、日本政府に人民の血税をださせて在日米軍基地を大増強し、自衛隊を下請け軍隊にして中国や北朝鮮との戦争に動員しようとしている。安倍政府がアメリカの言いなりとなって軍備増強し、秘密保護法の強行成立をはかり、集団的自衛権の行使容認を閣議決定するのもこのためである。こうした屈辱的な事態を解決するため、米軍を日本から追いはらい、「日米安保条約」「日米地位協定」を破棄し、ほんとうの独立をたたかいとろう。