『人民の星』 5931号4面 2014年10月15日付

書評 『日本はなぜ原発を輸出するのか』
鈴木真奈美 著 衰退する米原子力産業

 安倍政府が原発の再稼働を策動していることや、原発の輸出に力をいれていることを批判する本がだされている。日本では、地震が頻発し、火山も噴火し、大雨災害はつづいている。自然条件がこのようにきびしい日本に、なぜ五四基もの原発をつくってきたのか、という人人の問いに安倍政府はいっさいこたえていない。それどころか、原発の再稼働に執着し、ひいては原発を各国に輸出しようとさえしている。
 ジャーナリストの著者は、安倍政府が福島原発事故にもかかわらず、原発輸出にかかわる事業を継続し、むしろ積極化したのはなぜか、その背景を探る、と問題を設定して、原子力輸出の歴史と現状を分析している。著者が論じているなかで、興味深い点を三点ほどとりあげてみたい。

米国の核政策の一環として
 まず目をひく論調は、安倍政府の原発輸出積極化が、アメリカの核政策からきていることを指摘している点だ。
 たとえばアメリカにとって「原子力輸出はビジネスであると同時に“米国主導”の核拡散防止のための重要なツール」であったが、いまやアメリカ国内で原子炉を生産する工場がなくなっていること、そのためアメリカは「同国の原子力産業を立て直し、かつてのように“米国の旗が立っている”原子炉を供給することで、ポスト冷戦の世界で、“米国主導”の“核”の国際秩序を構築することを目指しているのだ」と指摘している。
 そこから「米国政府が日本の協力を得て自国の原子力産業を立て直し、原子力輸出の再活性化へと動き出した」とのべている。著者は「日本政府が原子力輸出の実現に向けて大きく舵を切った諸要因について考察」し、その要因のなかで「重要と思われるのは、日米の関係閣僚が輸出協力で合意したこと」をあげて、「原子力をめぐる米国との関係は、日本政府が輸出推進に固執する理由」だと明言している。
 こうした分析からうかびあがるのは、「ポスト冷戦の世界で、“米国主導”の“核”の国際秩序を構築する」ことと、「アメリカの原子力産業を立て直す」ことが重視され、そのために安倍政府の原発輸出の推進はやられている、という実態である。

日本政府を代理に輸出推進
 第一の点とかかわっているが二つ目の点は、安倍政府が原発輸出にふみだしたことの性質をさらにふみこんであきらかにしようとしている点だ。
 著者は、世界の原子力輸出と輸入の歴史をふりかえり、発電用原子炉の輸出入は一九七〇年代をピークに、八〇年代にはいると激減し、九〇年代にほぼなくなったこと、世界各国で新規に着工した原発も一九七六年の四三基をピークに減少して、一九九〇年から二〇〇五年までの平均は年三基であったことをしめしている。このままだと、「世界の原子力発電は二一世紀なかばには実質的に終わるとみられていた」なかで、アメリカが原発建設を再活性化させようと動き、そのもとで日本が原子力の「輸入国」から「輸出国」へとかわりつつあるのだとえがいている。
 著者は展開している。「ポスト冷戦における新しい“核”管理体制の主導権を取ろうとしても、同国は原子炉製造技術をうしなっていたので、原子力輸出を通じて世界に影響力を行使することは、もはや不可能になっていた」「そうしたなか、日本は米国のパートナーとして同国と共同で第三国へ原子力輸出する役割をになうようになったのである」と。力の衰えたアメリカが原子力輸出の分野でも、日本政府に代理させようとしているということだ。
 いいかえるとアメリカは、日本人民に追い詰められ全原発を止めざるをえなくなった日本政府にたよって、原発輸出をやらせることでしか、自国の原子力産業の立て直しができないという姿をさらしているのである。
 それは日本独占資本の強さのあらわれでもない。著者は、「日本の輸出は、それが米国起源の技術である場合、日米原子力協定によって制約される」「日本の原子力活動は米国に首根っこを押さえられて」いることを明確にしている。さらに原子力輸出と公的資金の関係に焦点をあて、「輸出国」の公的金融機関が「輸入国」に融資を提供することを指摘して、つぎのように強調している。
 「融資の主要な財源は国税と国債だ。つまり現世代と将来世代に莫大な借金をしながら、海外の原子力発電プロジェクトに投資しようというのである」と。輸出といっている内実は、政府が借金によって相手国に買いつけ金を融資して、アメリカ産原発の売り込みをしていくのであり、日本人民の税金を元手にして、アメリカのためにあらたな市場をつくろうということだ。

米海軍の戦力維持のカナメ
 著者が論じている点で興味深い三点目は、「米国が原子力輸出を再開する理由についてつけ加えておきたい」「同国で輸出再開を後押ししている勢力は、核拡散にたいする危惧だけでなく、米海軍の戦力維持もその理由としてあげている」という点だ。これはアメリカの対中戦争の準備に影響をあたえる問題とかかわっている。
 著者は戦略国際問題研究所の報告書「核エネルギーにおける米国のリーダーシップの再構築」のなかの「原子力産業に差し迫る衰退化を逆行させることは国家安全保障の急務」という提言をとりあげている。原潜や空母の動力源は原子力なので、米海軍の戦力を維持するためにも、輸出を通じて原子力産業の再建をいそげと主張しているのだと。
 つまり、アメリカの原子力産業の立て直しをすすめ、原子力技術の輸出競争力を再構築することは、米海軍の原子力潜水艦や原子力空母の維持に必要な人材・機材を確保するためにも必要になっている、ということをしめしている。
 アメリカが対中戦争の軍事戦略としてうちだしている「エアシーバトル」戦略は、中国を軍事的に威圧して反抗を封じこめ、さらには中国の軍事力を粉砕するための配置の中心に、原子力空母を中核とする機動部隊をおき、また戦略核ミサイルを搭載した原子力潜水艦を重視して配置している。
 ところがアメリカが対中戦争でなによりも頼りにしているこの軍事的打撃力は、原子力技術が維持できない現状では、中国にたいして居丈高にふりかざしていくこともできなくなる、ということだ。著者は、原子力輸出の再開は米海軍の戦力維持ともかかわっている、とさらりとふれているだけだが、みすごすことのできない指摘である。
 著者の論じている内容は、時宜に適した問題提起をさまざまにふくんでいる。それらを人民の世論と運動を強める側から検討すると、原発再稼働反対や原子力輸出に反対する世論と運動は、アメリカのあらたな戦争準備に真っ向から対峙する性質をもっていることがわかる。原発の輸出策動は、米日反動派が強いからではなく弱体化しているからであり、力ある人民の斗争を持続的に強めていくなら打撃をあたえうるという根拠が、ここにはうかびあがっている。
(平凡社、新書判、二三九㌻、八〇〇円+税)