『人民の星』 5934号1面 2014年10月25日付

安倍政府 リニア新幹線建設を認可 独占潤す国家計画

 国土交通省は一七日、JR東海がすすめるリニア中央新幹線(東京・品川―名古屋)の建設計画を認可した。八月の認可申請からまともな議論もないスピード認可である。リニア中央新幹線はJR東海が総額九兆円にもおよぶ工費を全額自己負担で建設するとしている。だがそれはたてまえで、安倍政府はリニア中央新幹線建設を「成長戦略」に位置づけ、米日独占資本のための実質的な「国家プロジェクト」(首相・安倍)とし、そのつけは人民におしつけようとしている。

総工費は9兆円
 リニア中央新幹線の建設について「新幹線があるのにリニアを建設する必要があるのか。赤字のJR北海道は事故をくりかえし、地方ローカル線がつぎつぎに廃止されている。東京一極集中のさいたるもので、なにが“地方創生”か」(山口・年配男性)と批判の声があがっている。
 リニア中央新幹線の建設計画は、東京―名古屋間を二〇二七年に先行開業させ、約二八六`を時速五〇〇`の高速で走行し、約四〇分でむすぶというものである。今回、国交省が認可したのはこの東京―名古屋の区間である。
 その後、大阪へ延伸し二〇四五年に全線開通させ、東京―大阪間を一時間でむすぶ計画である。東京―名古屋間の工費が五兆二二三五億円、名古屋―大阪間の工費が三兆六〇〇〇億円、総工費は九兆円をこえる巨大プロジェクトである。JR東海は工費を全額自己負担するとしている。
 特徴的なことは、JR東海も国交省もリニア中央新幹線だけではまったく採算にあわないことをみとめていることである。JR東海は「リニアだけでは絶対にペイしない」(会長・山田佳臣)とリニア単独では赤字で儲けにならないことをみとめている。JR東海のドル箱である東海道新幹線の利益をつぎこみ、トータルで黒字にするという方針である。
 国鉄分割・民営化で東海道新幹線をJR東海が引きついだ当初の長期債務が五兆九〇〇億円で、これを現在、二兆三〇〇〇億円にまでへらしている。リニア新幹線の巨額建設費で負債がふえるが、「債務が五兆円までなら健全経営できる」(JR東海名誉会長・葛西敬之)としている。こうした数字は、楽観的な需要予測にもとづくもので、実際はもっときびしいものになることはあきらかである。
 リニア中央新幹線は、旧国鉄時代から開発をすすめてきたが、採算がとれないことから、建設にはふみこめなかった。総工費も当初予測の三兆円から、三倍にふくれあがっている。このため政府がすすめる整備新幹線の事業にリニア中央新幹線をくみこむことができなかった。だが二年前に安倍政府が発足し、JR東海の事業としてリニア中央新幹線建設計画の具体化がいっきに加速した。JR東海名誉会長・葛西敬之は、安倍を支持する財界人の中心人物であり、安倍の首相再登板への旗振り役だった。
 安倍政府は、九兆円もの巨大事業を米日独占資本に提供するために、JR東海を前面にたてながら「国家プロジェクト」としてリニア中央新幹線建設を強行したのである。またリニア中央新幹線の着工認可で、東京、名古屋、大阪の都市再開発に拍車がかかり、地価もあがっている。JR東海の「全額自己負担」のたてまえの裏で、安倍政府は血税を投入しようとしている。リニア中央新幹線建設は、全線の八六%が日本アルプスをふくめたトンネル工事であり、それにともなう道路など環境整備は政府、自治体の負担となる。
 建設費へのさまざまな支援も予想されている。大阪への延伸計画を前倒しさせるためとして、自民党の中からは三兆六〇〇〇億円の建設費を国がたてかえ、利子を国が負担し、元金をJR東海に返済させる案がでている。国が負担する利子は年間七〇〇億〜一〇〇〇億円が見込まれているが、それは整備新幹線の建設で毎年、国が拠出する予算と同額である。

海外売込み図る
 採算にあわないリニア中央新幹線の収益をおぎなうために、首相・安倍が先頭にたってリニア新幹線の海外への売り込みをやっている。安倍は首相就任直後の二〇一三年の訪米・日米首脳会談で、リニア新幹線の導入をオバマに打診し、総工費の半額を日本の国際協力銀行をつうじて融資する意向をつたえた。さらに九月再訪米では融資規模を五〇〇〇億円とすることを追加提案している。今年四月には駐日米大使ケネディのリニア実験線(山梨県)への試乗に安倍みずからがつきそった。同月の日米首脳会談で安倍はリニア技術の無償提供も申しでている。
 リニアなど科学技術の発展は、ほんらいは社会的な生産の発展、人民生活の向上に寄与すべきものである。だが米日独占資本が支配するいまの日本社会では、リニア中央新幹線は一握りの資本家の利益のために建設が強行され、その負担は人民生活におしつけられ、東日本大震災の被災地の復興を圧迫し、地方の経済の衰退をひきよせるものとなっている。