『人民の星』 5938号3面 2014年11月8日付

中小零細企業 急増する休廃業 物価高に消費税増税で

 第二次安倍内閣が発足してまもなく二年となる。「危機突破内閣」をスローガンにアベノミクスなどといった造語を宣伝してあたかも勤労人民の生活をゆたかにするかのようにふれまわってきたが、実際はとどまるところを知らぬ物価の高騰と賃金の低下、社会保障制度の改悪である。なかでも中小零細商工業者を中心とした休廃業の増加は、社会的な問題となっている。

産業衰退に懸念広がる
 企業倒産が「歴史的な低水準」におちついていると商業紙がさわぎたてたのは、今年の二月であった。首相・安倍晋三が「倒産はへっている」と言明し、アベノミクスの「成果」を誇示し、企業に賃金引上げへの“協力要請”したことに歩調をあわせたものであった。
 ところがこの時期、民間の調査機関は二〇一三年の休廃業・解散が前年比四・〇%増の二万八九四三件にのぼったと発表した。

休廃業・解散10年で最大に
 これは過去一〇年で最多になり、二〇一三年の倒産件数一万八五五件の二・六倍に達すると衝撃的な内容をあきらかにした。まだ集計されていないが、四月に消費税が五%から八%へと引きあげられた結果、休廃業・解散がいちだんと増加したことは、想像にかたくない。
 なかでも深刻なのは建設業である。建設業の倒産は、五年連続で前年を下まわったが、休廃業・解散は、倒産の三・五倍にも達した。全産業の二・六倍を大きく上まわった。公共投資、住宅需要など民需の“活況”がいわれるなかでの休廃業・解散の増加は、建設業そのものの経済的な力の傾向的な低下を反映していて深刻である。
 これに飲食業や宿泊業などをふくむサービス業、小売業、製造業がつづく。休廃業などによる「シャッター街」「シャッター通り」という現象がさらに拍車をかけ、労働者、勤労人民が住んでいる街の様相を一変させる事態が全国的にひろがっている。
 倒産に休廃業・解散をくわえた件数でいえば、二〇〇八年のリーマン・ショック以降、年間におよそ四万件にのぼる高水準がつづいている。休廃業は「隠れ倒産」ともいわれる。事態は、「倒産はへっている」などと安倍がいっているような悠長な状況ではないのである。
 安倍のお膝元の下関では、豆菓子の老舗店がひそかに閉店し、「いつ倒産したのだろうか」「やめた理由は聞いたことがない」「むかしからの看板に赤いペンキで塗りつぶした跡が痛痛しい」と話題になっている。また、いち早く月賦制度をとりいれたことで名の知られている老舗の婦人服店も、「店舗を移転したと思ったら、もうシャッターがしまったままになっている」と話題を呼んでいる。
 労働者や勤労人民は、ことの深刻さを真剣にうけとめ、有効な手をうとうとしない政府や行政への怒りをつのらせている。

意図的に廃業に追込む政府
 こうした休廃業・解散の増大について政府やマスコミは、後継者難などに原因をもとめ、やむをえない事態であるかのように宣伝しているが、中小零細商工業者を廃業に追いこむような施策を意図的、系統的におこなってきた結果である。
 建設業で休廃業・解散がもっとも多いというのは、そのあらわれといえる。東日本大震災の復興関連の事業や二〇二〇年の東京オリンピック誘致騒ぎは、一握りのゼネコンに大きな市場を提供し、中堅や小規模な建設会社は入札すらできない状況におかれている。
 おまけに二〇一三年三月で中小企業金融円滑化法はうちきられ、かわって経営改善支援化法が創設された。あたらしい法律は、その名がしめすように金融機関が経営改善の名のもとに各企業の経営内容にふみこみ、確実に融資したカネを回収できるようにするものであり、中小零細企業の保護、育成をささえるものではない。だから政府が「活用している企業数はまだわずかだ」とみとめざるをえないほど、評判がわるい。最悪の場合は、身ぐるみはがされて、街頭にほうりだされるようなしろものといえる。

円安、増税、海外移転が打撃
 意識的な円安による輸入物価の上昇も中小零細企業を休廃業・解散に追いこむ手段になっている。輸入原油の価格高騰による諸産業のコスト増大で、ガソリンスタンドが全国で倒産、休廃業・解散に追いこまれている。昨年一月の貯蓄用地下タンクの改修措置が拍車をかけた。ガソリンスタンドが一軒もなくなった地方自治体がではじめた。
 下関でかつて呉服店をいとなんでいたある男性は「妻が急逝したのを機会に店をしめた。第一次安倍内閣のころだった。駅前にシーモールができたころは話題性もあっていっときは街に活気が感じられたが、すぐにだめになった。若い客はみな北九州にもっていかれ、呉服をいとなむ時代ではなくなったと腹をくくっていた。はやく店をしめたのは正解で、つづけていたら借金がばくだいふえ、銀行だけうるおしただろう」とはなしている。
 お好み焼き店を経営していた六〇代の婦人は「とにかくいまの物価高についていけず、店をしめることにした。四月に消費税があがったが、その前から小麦粉など材料費がどんどんあがり、もう限界だった。安倍内閣はぜったい消費税を一〇%にするつもりだから、残念だが休業せざるをえない。将来のことは膝の治療がよくなったら考えることにする」と語っている。
 町工場が密集していた東大阪市でビニール製造会社を営んでいた経営者は、創業八〇年あまりの歴史をもつ会社を廃業することにした。先代から一九六三年に社長をひきついだが、石油製品の価格上昇でここ三年間に赤字が急激にふくらみ、傷口が大きくならないうちの廃業にふみきらざるをえなかった。
 大阪市内のベアリングなどの機械部品卸の経営者も、一〇人ほどの従業員に退職金を支払って、事業を停止した。「近所のうどん屋も酒屋も閉店した。いまなら借金をしなくてすむので、従業員には気の毒だが、(事業を)やめることにした。部品会社も海外にでていくなかで、これまでどおりの経営を維持することはむずかしい」と経営者は語っている。
 円安、企業の海外移転、経営難による後継者問題などどれ一つとっても中小零細の商工業者がまっとうな仕事をつづけられない条件となって押しかぶさってきている。「わたしらは高度経済成長をささえてきたという自負はいまでももっている」(七四歳、鉄工所経営)、「板金の技術がわたしの代で途切れるのがくやしい。かといって住宅板金のわずかな仕事では息子に後をつげともいえない」(七〇代、板金業)。こうした思いは全国で普遍的にあり、じわじわと中小零細企業をしめつけて、廃業に追いこむ政府への怒りは大きい。

中小支援せぬ日本再興戦略
 安倍政府は六月にうちだしたあらたな成長戦略「日本再興戦略―ジャパン・イン・バック」のなかで開業率の引上げなるものをうちだした。開業率が廃業率を上まわるものにし、「産業の新陳代謝をうながす」などといっている。
 しかしそれは、きびしい経営環境のなかで豊かな経験とたしかな技術をいかして物づくりなどにはげんでいる中小零細商工業者の経営をもりたてるためのものではなく、IT(情報技術)などをつかって手っ取り早く利益をだせるベンチャー企業を輩出させ、失敗すればすぐにつぶすという政策である。中小零細企業を中心とする休廃業・解散の急増にみられる、資本主義の競争原理にたった新自由主義への怒りはひろがっている。