『人民の星』 5944号4面 2014年11月29日付

論壇 NHK大河ドラマ『花燃ゆ』宣伝する安倍
独立、倒幕の革命性かき消す

 「明治維新一五〇年」と銘打った、講演や記念展示などさまざまな催しがおこなわれている。首相・安倍晋三のお膝元の山口県では、それらの催しの宣伝物のなかに、かならずといっていいほど「来年の大河ドラマで『花燃ゆ』放送」という文章がくわわっている。また、書店の店頭にも明治維新関連の書籍がならび、その表紙にも『花燃ゆ』がすりこまれている。『花燃ゆ』が、「明治維新一五〇年」の顕彰の中心であるかのようである。だが実際には、『花燃ゆ』は明治維新をたたかった父祖たちの革命の偉業をかき消すものとなっている。

制作過程にも政治的思惑が
 NHKの大河ドラマは、大河ドラマのテーマにとりあげることで、全国的に支配階級の思想をふりまく。NHKがカネにあかせて「人気俳優」をつかい、物語に登場する各地でロケをおこなう。関連する地域の行政はそれに乗り、観光の目玉にするという商業主義とあわせて、支配階級の思想をひろげる。
 今回の『花燃ゆ』は、その商業主義をすすめながら、父祖たちがたたかった明治維新が革命的な大変革であったことをおおいかくしたり、ねじまげようとしている。ドラマの制作過程には、そうした反動的内容の一端があらわれている。
 安倍晋三がNHKの経営委員会に、自分の息のかかった作家の百田尚樹や学者の長谷川三千子などをおくりこみ、NHK経営委員長に「NHKは国のいうことに反対しない」と高言する反動分子の籾井勝人をすえたことは、「公共放送」の看板が人をあざむく見せかけであり、NHKは国策放送機関であることを天下にしらしめた。
 今回の『花燃ゆ』の制作は、それを地でいくものである。昨年らい巷では、NHKの制作スタッフが安倍の意向をくみ、しゃにむに今回のドラマをつくった経緯が話題になっている。
 NHK大河ドラマは例年、放送開始二年前の春から夏にかけて発表されるが、今回の『花燃ゆ』は構想の発表が、半年間も後にずれこむ異例の遅さであった。関係者は、主人公がきまらないまま「山口県を舞台にしたい」という意向だけが先行していた、と語っている。
 NHKの大河ドラマがきまると、物語の舞台となる地元は観光名所のランクがあがり、ばくだいな経済効果をもたらされると宣伝されている。安倍の地元である山口県では、大型ハコモノ事業がめだち、地場産業の不振がきわだち、安倍の評判は急速におちている。山口県政や萩、下関、防府などの行政は、地場産業の発展を要求する人民世論をおさえつけ、観光事業でもりかえそうとやっきになっていた。

主人公にも安倍の意向働く
 主人公についても安倍から注文がでていた。前前回の大河ドラマで、徳川幕藩体勢の側にたった会津藩を美化する『八重の桜』を見た安倍が、吉田松陰と久坂玄瑞の取り上げ方、長州の描き方に不満を表明し、こうして今度は吉田松陰ではなく松陰の妹であり、久坂玄瑞の妻となる文をわざわざ主人公にし、「明治維新で大きな役割を果たした長州」をえがく作品にしたという。
 NHKは「明治維新で大きな役割を果たした長州を舞台に大河ドラマができないかと考え、長期にわたって取材を続けてきた」(広報局)といっている。
 首相・安倍は、一三年四月と八月、一四年も一月と七月に里帰りし、今年七月は高杉の墓のある「東行庵」にきて献花した。安倍は、そのあと産経新聞社運営の「長州正論懇話会」での講演で、『花燃ゆ』にふれ、「来年は長州を舞台にした大河ドラマが放送されると聞いています。松陰先生の妹さんが主人公でして、来年はまさに長州が中心的なドラマにあるということです」と語った。

革命否定する安倍の維新観
 しかし安倍晋三の維新観は、高杉晋作や奇兵隊、農町民など三〇万領民がたちあがって果敢に実行した維新革命という偉業とは反対の側、革命を否定する側にある。安倍晋三は国会の施政方針演説などで「明治維新は近代化だった」すなわち革命ではなかったのだとくりかえしていっている。かれらがおおいかくしている核心の問題を、はっきりさせなくてはならない。
 それは、明治維新の一大変革をみちびいた吉田松陰の思想や、松下村塾でまなんだ下級の青年武士たちが明治維新革命斗争において指導階級として役割をはたしたこと、とりわけ高杉晋作が吉田松陰の「草莽崛起(そうもうくっき)」論を実践に具体化し奇兵隊を創設し、長州の各地で諸隊が澎湃(ほうはい)とつくられたこと、さらに功山寺決起から藩内戦をたたかって、幕府に屈服する俗論派をうちやぶって勝利し、防長二州の領民をたちあがらせて、長州征伐にきた幕府軍を迎えうってうちやぶったこと、こうした革命的なたたかいによって明治維新の勝利が実現したという内容を、徹底しておおいかくそうとしている。
 独立と倒幕のために奇兵隊・諸隊にはせさんじた農町民の気高い精神と、一身をなげうったたたかいについて、NHKがゆがめてえがくことは、さいきん放送した歴史ヒストリア「幕末・若者たち一発逆転の夢」が、むきだしにしめした。それは、農村青年が武士になりたいがために奇兵隊にはいり、町民からカネをまきあげて酒をのんだなどとえがき、激動する日本社会を大きくかえた人人を、「はみ出し者」「やっかい者」が一発逆転にかけたのだなどと、ねじまげていた。
 ようするに、NHKの大河ドラマであつかう幕末・明治維新ものは、革命を否定するために、松陰の妹を主人公にしたり、会津藩をもちだしたり、徳川慶喜を維新の立役者にしたり、坂本龍馬を主人公にするなど、手練手管をつかってきたのである。しかし、明治維新が外国資本主義による日本植民地化の危機を打破し、徳川幕藩体制を打倒して、封建社会から資本主義へと社会を発展させた事実をかき消すことはできない。
 広範な日本人民は明治維新でなしとげた偉大な民族独立、社会革命の事業を引きついで、現在の腐りはてた対米従属の日本資本主義を打破して、新社会を建設するためにたちあがってゆくのである。