『人民の星』 5953号3面 2015年1月1日付
アメリカの日本支配 原発から見えるもの
アメリカの監視下にある日本の原発
福島第一原発の炉心溶融・放射能漏れ事故が二〇一一年三月一一日に発生して今年で四年目をむかえようとしている。この間、福島第一原発にかかわった人人がさまざまな分野から発言をおこなっている。そのなかで、原発をめぐる日米関係について言及したものがあらわれている。事故をおこした福島第一原発はアメリカの核・エネルギー戦略のなかで建設され、米巨大企業GE(ゼネラル・エレクトリック)製ということで、いやがおうにも日米関係の実態が反映している。
二〇〇四年八月、沖縄県宜野湾市にある沖縄国際大学に米軍ヘリが墜落した。普天間基地からフェンスをこえて戦斗行動さながらに飛びだしてきた米兵は、事故現場一帯をただちに封鎖、占領した。
大学の構内にもかかわらず、大学関係者をはじめ警察すら米軍の許可なくして事故現場に近づくことはできなかった。公然と国家主権は侵害され、日本の真の支配者がその本性をあらわにした事件だった。
これとおなじことが原発についてもいえる。日本の原発は日本の電力会社がカネをだして建設したものである。しかし、その技術はもちろん究極的支配権はアメリカがもっているのである。
福島第一原発が冷却不能事故をひきおこした翌日の二〇一一年三月一二日、米国防総省は日本の首相官邸にたいし「空母ロナルド・レーガンを宮城県沖に派遣した」と通告した。
アメリカ政府は、東日本大震災と福島第一原発事故が発生するやただちに、戦争遂行の判断をおこなう国家安全保障会議(NSC)を招集し、核施設の重大事態に対処するため「トモダチ作戦」の発動をきめたのである。
西太平洋で演習をおこなっていた空母ロナルド・レーガン、シンガポールにいた第七艦隊旗艦ブルーリッジ、マレーシアにいた強襲揚陸艦エセックスなどに派遣命令をだし、原発周辺の海域に配備した。この作戦に海軍、空軍、陸軍、海兵隊の二万人がこの作戦に投じられた。
これまで、阪神淡路大震災をはじめたくさんの犠牲者をだした大きな地震が何度もあったが、米軍がただちに出動するなどということはなかった。
今回は日本政府の要請とは関係なく、まったくアメリカ政府の独自判断で米軍部隊が緊急出動したのである。それは、福島第一原発がメルトダウンの重大局面をむかえており、とりわけ4号機の核燃料が格納容器からとりだされてむきだしのままプールに保管されており、これが溶融すれば東京も住めなくなるような重大事態が発生しうる、きわめて危機的な状態におちいっていたからである。
福島原発一帯米軍管理下に
どこまで放射能汚染が拡大するかわからないという状況のもとで、まさに「日米安保条約」が発動されたのである。アメリカは、アメリカにとって「危険な事態」と判断すれば、米軍を出動させるのである。
被曝を恐れて遠巻きにではあるが、福島第一原発の周辺に空母部隊を配備させることで、福島第一原発一帯を軍事的な管理下におき、他のいかなるものの介入もゆるさないという体制をとったのである。
それは、原発が準軍事施設であることを物語っている。原発は、通常の運転をすることによって核兵器の原料であるプルトニウムを生産するからである。また、事故によってあるいはミサイルなどの攻撃によって、高濃度の放射性物質が大量に漏出すれば人命と環境に深刻な被害をもたらす“爆弾”となりうるからである。自然災害が引き金になったものではあるが、原発が炉心溶融をひきおこしたためアメリカ政府はただちに軍隊を出動させ、原発と東日本全体を米軍の監視下においた。米空軍は、福島第一原発の上空に無人偵察機グローバルホークをとばして、1〜4号機のそれぞれの状況についての把握を継続的に開始した。
菅民主党政府が右往左往しているあいだに、アメリカは独自に福島第一原発の状況の調査にただちにのりだした。このことは、福島第一原発が日本の一私企業である東京電力の所有物なのではなく、究極的にアメリカが管理する重要な準軍事施設であることを意味している。
しかし、日本の報道は、まったくちがった。あくまで東電と政府が主導して福島第一原発事故の収束にあたったとえがいた。官房長官・枝野や原子力安全・保安院、東電の幹部あたりが毎日テレビのニュースにでて、原発はこうした連中の指揮によって収束作業がおこなわれているかのような印象が強烈に植えつけられた。しかし、真の指揮者はおもてにでず、いっさいをとり仕切っていた。
日米調整会議作り米国が主導権行使
「トモダチ作戦」を遂行するうえで、アメリカにとってもっとも手を焼いたのは菅民主党政府であった。それは、反米愛国世論の高まりのなかで、自民党政府がたおれ、アメリカとの関係がうすい民主党の政府になっていたからであった。
当時の官房副長官の福山哲カによれば、アメリカ政府との直接の接触がはじまったのは事故から二日後の一三日の夜だという。このとき官房副長官・河相則夫、外務省の官僚、保安院の職員と米エネルギー省と米原子力規制委員会の専門家が会合をもち、アメリカ側に事故のくわしい現状が報告された。
しかし、閣僚、官僚、東電経営陣らのあいだの意思疎通がばらばらで、統率もなければ現状把握もできていないという状況がつづいた。
原発事故対処に異例の注文
業を煮やしたアメリカ政府は、一六日に駐米大使・藤崎一郎を国務省に呼びだし、「日本政府が総力をあげて原発事故に対処するように」と異例の注文をつけた(国務省日本担当ケビン・メア)。
後手後手の日本政府の対応にアメリカ政府が激怒していることを知らされた菅政府は、翌日、自衛隊ヘリによる上空からの注水作業を挙行するなど、アメリカの要求に忠実にしたがうという姿勢をしめした。しかし、アメリカの側は「スタンドプレー」(メア)とひややかに見ていた。
そして二二日に日米連絡調整会議が発足する。この会議には、アメリカ側からは米原子力規制委員会のチャールズ・カストーをリーダーに、エネルギー省、在日米軍、在京大使館のメンバーが加わった。日本側は、官房副長官の福山が座長となり、東電に在駐して原発の現状を把握している補佐官・細野が中心となって参加した。この日米協議は、組織的にもアメリカの一元的な指揮をつらぬくためのものであり、原発の状況が安定化するまで二カ月間毎日ひらかれ、それ以降は二日に一度の頻度で開催されてきたという。
このことは福島第一原発のすべての措置が基本的にアメリカの指揮によっておこなわれていたことを示唆している。
元GE社員で事故当時、東電の協力会社の社長をしていた名嘉幸照氏は著書のなかで、つぎのようにのべている。
「三月一一日、福島県いわき市のビジネスホテルに避難した。…部屋のテレビも壊れていた。現場でなにが起きているのか不安でならなかった。
そんななか、アメリカにいる元同僚のGEのOBや、シンクタンクの知り合いから、メールなどで福島の原発に関する情報がつぎつぎに届いた。
日本よりアメリカのほうが、情報が早いのか?
と不思議な感じがした。かれらからもたらされた情報に基づき、自分なりに、第一原発の今後の展開をシミュレーションし、東電の幹部と原子力安全・保安院の審議官にメールとファックスを送った。
…まず一号機が水素爆発…目を覆いたくなる状況が続いた。だが、それは私のシミュレーションそのものだった」
つまりアメリカの原発関係者にはアメリカ政府や米軍によって正確な情報が事故直後から伝えられており、それをもとに今後の展開を名嘉氏は予測、事態はそのとおりになったと証言している。
同氏は「第一原発では高い線量の仕事の多くを長年、GEの作業員が引きうけていた。たとえば原子炉のプラント・インプルーブメント、つまり改善・手直しの作業でも、シュラウドやジェット・ポンプ、スチーム・ドライヤーなど、炉内にある重要な機器の取りかえ、修繕といった高線量下での作業は、GEの作業員がそのほとんどを請け負っていた」と、福島第一原発の製造者であるGEはその後もずっと関わっていたことをあきらかにしている。
さらに「そもそもGEが開発し、福島第一原発に採用された沸騰水型原子炉(BWR)は、現場に精通し訓練を積んだ熟練者でないと、非常の際に安全装置を駆使し、安定した冷却状態にもっていけない設計となっている」とものべている。
実際、GEは福島第一原発事故にたいして、日立と合同で一〇〇〇人以上の技術者を派遣している。しかし、アメリカの政府、企業の介入については報道管制がきびしくしかれ、あくまで日本主導で処理にあたっているとえがかれた。
原発の特許で儲けエネルギーを支配
もともと原発は、核兵器を製造する一工程を発電に転用したものである。日本の原発は沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)の二種類にわかれるが、前者はGEが後者はWH(ウエスチングハウス)が技術を独占している。
ところが、スリーマイル島原発(アメリカ)、チェルノブイリ原発(旧ソ連)とあいつぐ炉心溶融事故が発生し原発の需要が世界的に減退していくなかで、両社とも原発そのものをつくる工場を廃棄し、もっぱら原発の設計・技術開発に特化しており、原発の機器そのものは、日本などの電機、鉄鋼メーカーの製造工場を使って建設するというように転換している。
GEはかつての総合電機メーカーから、いまではエネルギー・技術・医療・メディア・消費者金融などをおこなう企業にかわっている。利潤率の高い部門だけをのこし、利潤率の低い部門を徹底的にそぎおとした結果、日本の総合電機とはことなる事業体になっている。
このうち原子力発電はエネルギー・インフラの一部門となり、利益率の高い原発の設計・技術開発を中心にし、利益率の低い原発の機器製造は他のメーカーに請け負わせている。GEは日立と原子力部門を統合し合弁会社をつくった。アメリカではGE日立ニュークリア・エナジーという企業をつくりおもに原発のライセンスをあつかい、日本では日立GEニュークリア・エナジーという企業で機器の提供をおこない、役割分担している。GEの売上高利益率(二〇〇九年)は一八・四%と日本企業の数%とくらべて、きわめて高い水準となっている。
WH(かつては総合電機だったが、いまは原子力部門のみ)は、東芝の子会社になった。しかし、いわゆる親会社に支配された子会社ではない。WHは企業としての独自性を保持しており、親会社といえども東芝が影響力を行使できるのは部分的でしかない。WHは加圧水型原発の技術だけでなく、原子力空母や原子力潜水艦の動力用原子炉の技術ももっており、いわばアメリカの軍事力と一体となった会社であり、そういった軍用原子力技術については東芝は手をふれることもできない。東芝としては、WHが原発を受注することで、原子力機器の製造を担当して利益を得、WHは東芝以上に原発の特許で利益を得るのである。
原発動かせば特許料が懐に
アメリカの原子力独占資本は、日本企業が原発をつくり運転すればするほど特許料がはいる仕組になっている。しかも、原発には製造者責任がなく、福島第一原発の事故のように東電の支払い能力をこえた分は国が資金を提供する仕組になっている。東電は、あれだけの事故をおこしながら、倒産もせず、なんと電力会社のなかで最高の利益をあげている。こうして、東電の社債をもっている債権者(銀行など)に国の資金を転用してとどこおりなく利子を支払っている。
第一にアメリカ独占資本が利益を得、第二に日本売国独占資本が利益を得るのが原発である。
日本をはじめ世界の国国で、経済的には高くつき、危険性があるにもかかわらず原発をつくろうとするのは、各国の支配階級のなかに核技術を習得していつかは核兵器を保有したいという願望があり、また支配階級に経済的利益を提供するからである。
アメリカは、そうした各国支配階級の願望につけいって、実際には核燃料や技術にたいする厳格な管理をすることで、核兵器の拡散を阻止し、またエネルギーをつうじた支配を強化しているのである。